告白の後で 二

 そして、新しい週が始まって一日過ぎた火曜日、僕と姫宮は当番の為、図書室に向かっていた。


 付き合ってから、メッセージでのやり取りや教室ですれ違った時には挨拶を交わしたりはあったが、姫宮と彼氏彼女の関係になったと思うと、嬉しさは勿論あるが、反面、緊張をしてしまい、教室では声を掛ける事が出来ないでいた。


 なので、今のこの時間は姫宮と付き合ってから初めて面と向かって話が出来ている状態だった。


 僕が姫宮と出かけた日に家に帰ったらすぐに母に彼女が出来た事を見抜かれた時の事を話すと、姫宮は面白そうに笑った後に、「私も同じ様な事があったよ」と、呟いた。


 その言葉に世の中の母親達は、みんな子どもの恋愛には勘が働くのだろうか。


 僕がそう思っていると姫宮が、「私の場合はね、表情でバレたみたい」と、恥ずかしそうに言った。


「表情?」


 自分の母にはなんで見抜かれたのか理由を聞かされていなかった僕は、姫宮のその言葉に興味を持った。


「うん、すごく嬉しそうな顔をしていたから分かりやすかったみたい」


 姫宮は僕の言葉に照れた様に言った。


 僕は姫宮の言葉を聞いて、自分も嬉しそうな表情をしていたから見抜かれたのだろうか。


 そう考えていると、図書室に到着した。


 扉を開けると、カウンターで作業をしていた山岡さんが音で気が付いたのか、顔を上げてこちらに視線を向けた。


 すると、僕と姫宮の顔を見た山岡さんは、「あら」と声を上げると、驚いた様な表情を浮かべた。


「……山岡さん、どうかしましたか?」


 僕はその山岡さんの表情を見て、何か既視感を感じながらも、山岡さんに尋ねた。


 すると、山岡さんは僕の言葉に微笑み浮かべて、「おめでとう」と、呟いた。


 僕と姫宮は山岡さんの言葉に思わず顔を見合わせた。


「どうかしたの?」


 そんな僕と姫宮を見て、山岡さんは不思議そうな表情を浮かべて尋ねてきた。


 その質問にどう言葉を返そうか、と思っていると、以前、山岡さんが息子がいると言っていたのを思い出した。


「……もしかして息子さんも、こんな感じでした?」


 僕の言葉に山岡さんは一瞬キョトンとした表情を浮かべたが、すぐに、「ああ」と、納得した様に呟いた。


「そうね、二人の顔と雰囲気ですぐに分かったわ。うちの息子も同じ様な時があったから懐かしい気持ちになったわ」


 そして、山岡さんは立ち上がると、「それじゃあ、後は若い人同士でごゆっくり」と微笑んで言うと、書庫に入っていった。


 山岡さんの言葉に、僕はなんとなく気不味くなり、姫宮と顔を見合わせると互いに苦笑いをした。


「私達ってそんなに分かりやすいのかな」


「うーん、どうなんだろう。僕はそんな気はしなかったけど、こんなに言われているという事はすごく分かりやすいんだろうね」


「えー、なんだか恥ずかしいな」


 そう話をしながら、僕と姫宮がカウンターの席に腰を下ろすと、貸し出し作業の準備をした。


 そして、何人かの生徒が訪れ、僕と姫宮は貸し出し作業を行った。


 やがて、図書室に利用者が居なくなると姫宮が、「ねえ、瀬戸君」と呼ぶと、スマートフォンの画面を僕に見せてきた。


 その画面を見ると、祭りの写真が載っていて、どうやら夏祭りのホームページである事が分かった。


「近くの夏祭り?」


 僕が姫宮に視線を移して尋ねると姫宮は、「そうだよ。今年は期末試験が終わった後にやるみたい」と言うと、期待する様な眼差しで僕の事を見つめ返した。


「その、一緒に行かない?」


 姫宮からの提案に断る理由は無い。


 そう思った僕はすぐに頷くと、「勿論だよ」と、言葉を返した。


 姫宮は僕の言葉に嬉しそうな表情を浮かべると、「そうしたら、当日はお互いに浴衣を着ていこう」と、嬉しそうに言った。


 その言葉に家に浴衣や甚平があっただろうか。


 そう思い、記憶を探ってみたが、着た事も無ければ、家でも見た記憶が無かった。


 折角、姫宮と夏祭りに行くのだから、どうせなら姫宮に合わせて浴衣か甚平を着ていきたい。


「……姫宮さん、実は僕は浴衣や甚平を持っていないんだ。だから、その、買いに行くのに付き合ってくれないかな」


「勿論だよ。それじゃあ、期末試験が終わったら買いに行こう?」


 姫宮が笑みを浮かべてそう提案してくれた事を嬉しく感じた僕はその言葉に頷いた。


「そうだね。まずは期末試験を頑張らないと」


「そうしたら、また勉強会をする?」


 僕の言葉に姫宮は微笑みながら言った。


 前回の中間テストの時には姫宮に教えて貰ったお陰で良い成績を取る事が出来た。


 今回の数学のテスト範囲は当たり前かもしれないが前回より難しい。


 出来る事なら前回同様姫宮に教えて貰った方が良いだろうし、それに、二人で過ごせる時間を作る事が出来る。


 そう思った僕は、「是非、よろしくお願いします」と言って、頭を軽く下げた。


 姫宮は僕の言葉に、「任せて!」と自信満々といった様子で言った。


 僕はそんな様子を見ながら、姫宮と夏祭りに行ける事を嬉しく思った。


 しかし、その為に、まずは期末試験を頑張らなければならない、と思うと、僕は気を引き締め直すのだった。

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