告白
鐘を鳴らし終えて、隣を見ると同じタイミングでこちらを見た姫宮と目があった。
姫宮は照れ笑いの様な表情を浮かべると、「……その、行こうか」と、恥ずかしそうに呟いた。
鐘を鳴らした後、姫宮になんと声を掛ければ良いかが分からなかった僕は、「そうだね」と言って、姫宮の提案に有り難く乗る事にした。
そうして、どちらとも無く、僕達は手を握ると、さらに奥に進みながら下に降りた。
そこは岩場になっていて、目と鼻の先には海があった。
「こんなに近くで海が見れるんだね!」
足元に気を付けながらギリギリまで海に近付くと、姫宮が嬉しそうに声を上げた。
「今日はほとんど山の上から海を見る事が多かったからね」
僕は姫宮にそう言葉を返しながら、頭の中で今日の事を思い返していた。
その中で特に印象深くて、すぐに思い浮かび上がってきた事と言えば、やはり姫宮と手を繋いだり、一緒に鐘を鳴らした事だった。
異性との経験が乏しい僕でも姫宮との距離が今日の出来事でかなり縮まったと感じていた。
そして、そのやり取りの中で僕の姫宮に対する気持ちが大きくなっていっていると思った。
同時に、この気持ちを姫宮に伝えたい、形にしたいと、今日一日を通して考える様になっていた。
そんな事を考えながら海を眺めていると、スマートフォンの画面を見た姫宮が口を開いた。
「瀬戸君、これ以上居ると遅くなっちゃうから、そろそろ帰ろうか」
僕は姫宮の言葉に、「うん、そうだね」と言って、曖昧に頷くと、再び姫宮と手を繋いでから来た道を戻り始めた。
そして、今日の思い出を語り合いながら、昼間に姫宮と立ち寄ったウッドデッキが見えてきた時だった。
そのウッドデッキを見た瞬間に、姫宮がその時に言っていた、『女の子は結構そういうロマンチックなシチュエーションに憧れている人も多いんじゃないかな』という言葉を思い出した僕は、気持ちを伝えるならここが良いのではないかと考えた。
「姫宮さん、ここで休憩をしていかない?」
姫宮は突然のその言葉に不思議そうな顔をしながら僕の事を見たが、その表情がいつもと違う雰囲気という事に気が付いたのか、真剣な表情になると、「……うん、良いよ」と、優しく呟いた。
そして、僕と姫宮はベンチに腰掛けた。
しかし、なんと言って話を切り出せば良いのか分からない僕はすぐに口を開く事が出来ず、どうしようか、と思いながら景色に視線を逃した。
そうして、しばらく黙っていても姫宮は何も言わずにただ静かに僕が話し始めるのを待っていてくれた。
そんな姫宮の様子を見て情けない気持ちになり、なんでも良いから言葉を発しなければ、と思った僕は、「……今日は楽しかったね」と、呟いた。
ここまで来る道中で何度も言った言葉であったが、姫宮は微笑みながら、「本当に楽しかったね」と、言葉を返してくれた。
姫宮も同じ気持ちでいてくれた事に改めて嬉しくなった僕は、「姫宮さんと知り合えて本当に良かった」と、自分の気持ちをぽつりと呟いた。
姫宮はその言葉に静かに頷くと、何も言わずに僕の事を優しい眼差しで真っ直ぐに見てきた。
それを見て、僕は姫宮に視線で、「どうして?」と聞かれている気がした。
「……姫宮さんは前に、僕は自分自身の事を下に見ているって言っていたよね」
僕の言葉に姫宮は一つ頷くと、「そんな事もあったね」と、懐かしそうに言った。
「中学生の時の事なんだけど、僕は普通に話しているつもりだったんだけど、実は周りからは良く分からない奴って思われていた事があったんだ」
姫宮は突然始まった昔の話にも怪訝そうな顔をする事も無く、「うん」と、相槌を打ってくれた。
「そんな事があって、色々工夫をしてみたんだけど、どうしても少し周りとズレている気がして…… 結構疲れてしまったから、高校ではあまり人と関わらない様にしていたんだ」
僕はそこまで言うと、下げていた視線を上げて姫宮の事を真っ直ぐに見た。
「でも、僕の事をズレていると言って離れて行った人達と違って姫宮さんは僕に一歩踏み込んでくれた。そして、対等って言ってくれた。本当に感謝してる」
姫宮は僕の言葉に優しく微笑むと、「私は大した事をしていないよ」と言いながら、首を静かに横に振った。
「お陰で僕は姫宮さんの前なら、反応を気にする事無く、自分の気持ちを素直に言える様になったんだ。だから、今日もとても楽しかったし、嬉しかったんだ。 ……でもね」
そこで言葉を切ると、姫宮は不思議そうな表情をして僕の事を見てきた。
僕はその視線に微笑んで応えながら、これから姫宮に言葉を伝える前に大きく深呼吸をした。
「……でも、今日、一緒に過ごして、もっと一緒に居たいし、話をしたい、それに、その、もっと手を繋いだり、触れてみたい。だから、その、何が言いたいかっていうと……」
僕は自分で格好悪いなと思いながらも、今の気持ちを伝える為に姫宮の手に自分の手を添えた。
「……姫宮さんの事が好きなんだ。そ、その、付き合って下さい」
そう言った瞬間に今の言葉で姫宮にちゃんと僕の気持ちを伝える事が出来たのだろうか、と心配になった。
しかし、姫宮の嬉しそうな、それでいて今にも泣き出しそうな表情を見た途端に、僕は気持ちを伝える事が出来たのだと思い、ホッとした。
そして、次に姫宮の答えが気になった僕は、姫宮が口を開くのを手を握りながら静かに待った。
やがて、しばらく時間が経った時に姫宮はポツリと、「嬉しい」と呟いた。
そして、僕の手を強く握り締めると姫宮は、「私も同じ気持ちだよ。だからその……」と言うと、僕に視線を移した。
そして、恥ずかしそうに顔を赤く染めると、「……よろしくお願いします」と、恥ずかしそうにそう呟いた。
僕はそんな姫宮の様子を見て、嬉しい気持ちになると同時に、とても可愛らしく思ったのだった。
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