姫宮さんと聖地巡礼 五

 それから少し先に進んでウッドデッキが見えた時だった。


「あっ、あそこって」


 姫宮は何かに気が付いた様にそう声を上げると、僕の方を見て口を開いた。


「ねえ、瀬戸君。あのウッドデッキって、『キミユメ』でヒロインが告白した場所じゃない?」


 姫宮にそう言われて頭の中にアニメのそのシーンを思い浮かべてみると、確かに場所はウッドデッキであったし、海も見えていたので、どうやらここの様だと思った。


「確かにここっぽいね。それにしても姫宮さん、良く分かったね」


 僕が言うと姫宮は自慢げな表情で、「あのシーンが大好き過ぎて、何度も観たからね」と言うと、「早く行ってみよう!」と言って、僕の手を引っ張った。


「……すごい綺麗だね」


 ウッドデッキは山にあるので、そこから海や街の景色が遠くまで見る事が出来た。


 僕の言葉に姫宮は頷くと、「……こんな場所で告白されたら嬉しいだろうな」と、小さな声で呟いた。


 姫宮と今まであまりその様な恋愛の話をした事が無かった僕は、その突然の呟きにどう反応したものかと悩んだ。


「……姫宮さんは、景色が良い所が良いの?」


 悩んだ僕が取り敢えず、姫宮に合わせてそう言葉を返すと姫宮は大きく頷いた。


「そうだね。女の子は結構そういうロマンチックなシチュエーションに憧れている人も多いんじゃないかな」


 正直、僕は告白する場所や言葉以前に、告白する事や反対にされる事を考えた事が無かったので、ロマンチックなシチュエーションに憧れは無かったが、姫宮がそういうシチュエーションが好きだという事を心に溜めておこう、と僕は思った。


「成程、勉強になります」


 僕が軽く頭を下げながらそう言うと姫宮は、「瀬戸君はこれで女の子の気持ちに少し詳しくなったね」と言って、満足そうに頷いた。


 その後、僕と姫宮はしばらく景色を堪能した後、階段を上がって、さらに先に進んだ。


 上に行くと、様々な種類の飲食店が並んでいた。


「あっ、たこせんべいだ! 駅前で見かけた時から気になっていたんだ」


 姫宮がその内の一つの店を見ながら言ったのを聞いて、朝からほぼ休憩無しでいた事に僕は気が付いた。


「お昼ご飯を食べる前だけど、ここで少し休憩をしようか」


 僕の言葉に姫宮は頷くと、「そうしたら、これからお昼ご飯も控えているし、食べ過ぎで太ると怖いからたこせんべいは半分こにしよう?」と、言った。


 その言葉に姫宮は食べ過ぎを心配する必要等無くて、むしろもう少し食べた方が良いのではないかと思う程に細いと僕は思った。


 しかし、先程の告白のシチュエーションの話の時と同様で女子にしか感じられない様な事があるのだろう。


 そう思った僕は、「勿論、構わないよ」と言って、姫宮に頷き掛けると、「僕が買ってくるから、姫宮さんはベンチに座って待っていて?」と声を掛けてからたこせんべいの店に足を向けた。


 そして、購入したたこせんべいを手にして姫宮が待っているベンチに僕は向かった。


 そして、僕がたこせんべいを手渡すと、姫宮は、「ありがとう」と言って、受け取った。


「そうしたら、半分こにしようか」


 姫宮はそう言ってたこせんべいを半分にすると、僕に手渡そうとした手を止めて、僕とたこせんべいを交互に見始めた。


 一体どうしたのだろうか、と不思議に思っていると、姫宮はたこせんべいを僕の口元に持ってきて、「瀬戸君、あーん」と、呟いた。


 その突然の出来事に僕は、「えっ?」と言って、驚いたが、姫宮はそんな僕の反応等お構い無しといった様子で再び、「あーん」と言って、たこせんべいを差し出してきた。


 これは、何を言っても差し出されたたこせんべいを僕が口にしない限り、姫宮は、『あーん』と、言い続けるだろう。


 そう思った僕は、恥ずかしい気持ちを抑えながら、「あ、あーん」と言って、姫宮が差し出したたこせんべいを食べた。


「どう? 美味しい?」


「……美味しい」


 正直、恥ずかし過ぎて、たこせんべいの味が良く分からなかったが、感想を聞く姫宮に取り敢えず僕はそう答えた。


 姫宮はそんな僕の言葉に、「良かった」と言って、安心した様に頷くと、「私も食べよう」と言って、僕に残りのたこせんべいを手渡すと、姫宮は自身の分を口に入れた。


「本当だ。美味しい!」


 そう言いながら、二人でたこせんべいを食べていると姫宮が、「ねぇ、瀬戸君。あれはなんだろう?」と、ある建物を指差しながら僕に尋ねた。


 視線を上げて姫宮の指差した建物を見ると、それは高い塔の様な建物だった。


「あれは確か展望台だね」


 僕はそう言うと、少し離れた所にあった入り口を指差した。


「あそこは庭園になっているみたいなんだけど、その中に展望台が立っているんだよ」


 僕の言葉に姫宮は、「へぇ、そうなんだ!」と、興味津々といった様子で声を上げた。


 その声を聞いて、もしかして中に入って見たいのだろうか、と思った僕は、「時間に余裕はあるし、お腹さえ持つのだったら中に入ってみようか?」と、姫宮に声を掛けた。


 すると、姫宮は、「えっ、良いの? 瀬戸君、ありがとう」と言って、笑みを見せた。


 そうして、たこせんべいを食べ終えると、僕と姫宮は庭園に入る為のチケットを購入して中に入った。


「花がたくさん咲いているね」


 中に入ると、すぐに様々な色鮮やかな花が僕と姫宮の事を出迎えてくれた。


 僕と姫宮が、「あの花の名前はなんて言うのだろう」や「この花、小さくて可愛いね」と花を見ながら話をして、さらに奥に進んで行くと、やがて展望台が見えてきた。


 展望スペースへはエレベーターで行けるとの事で、僕と姫宮はそれに乗って上に上がった。


「遠くの方まで海が見えるよ!」


 エレベーターの扉が開くとすぐに絶景が僕達を出迎えてくれた。


 姫宮の言葉に頷きながら窓の方に近付くと、「見て、姫宮さん。ここからだと、さっき行った水族館が見えるよ」と言って、僕は水族館を指差した。


「本当だ! あんなに遠くに見えるだね」


 そう言ってはしゃぐ姫宮を見て可愛らしいな、と思い、僕は笑みを浮かべた。


 すると、それに気が付いた姫宮が不思議そうな表情を浮かべながら、「瀬戸君、笑っているけど何か面白い事があった?」と、尋ねてきた。


 姫宮の言葉に僕が、「姫宮さんが楽しそうだから嬉しくなったんだ」と、言葉を返すと、姫宮は、「うん、今、とても楽しいよ」と、僕の目を見ながら、真っ直ぐな言葉を返してきた。


 その言葉に動揺しながらも、「そう言ってもらえると嬉しいよ」と、呟くと、すぐに、「瀬戸君はどう? 楽しい?」と、姫宮からの質問が返ってきた。


 その言葉に僕は少しも悩む事無く、「うん、僕もとても楽しいよ」と、言葉を返した。


 姫宮は僕の言葉にとても嬉しそうな表情を浮かべると、「……一緒だね。嬉しい」と呟いて、自身の身体をさらに僕に近付けた。


 僕はその姫宮の体温を嬉しく感じながら、互いに寄り添う様にして、しばらく景色を眺めたのだった。

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