姫宮さんと聖地巡礼 四
「瀬戸君、あれはなんだろう?」
階段を登り切ると、そこに神社があった。
姫宮はそこにある物を指差してそう言った。
それは、大人が通る事が出来る程大きな輪っかだった。
「……あれはなんだろうね」
僕にもまったくと言っていい程、見当が付かなかった。
そこで、その輪っかが気になった僕達は、さらに近付いてみる事にした。
輪っかの隣にあった説明書きを読んでみると、参拝の前にこの輪っかを通る事で、心身を清らかにしてくれると書いてあった。
それなら、通った方が良いだろう、という話になり、僕と姫宮は順番にその輪っかを通った。
すると、姫宮が、「瀬戸君、見て! 金運向上だって」と輪っかの近くにあった池を指差しながら、そう呟いた。
その池の説明書を見てみると、用意されたザルで金銭を洗う事で金運向上のご利益がある、と言われているらしい。
「それなら、洗わなくちゃね」
そう言って意気込む姫宮に僕が、「姫宮さん、すごいやる気だね」と、言葉を返すと、「瀬戸君、お金は大事だよ」と、真剣な顔で何かのコマーシャルで言っていた様な事を姫宮は呟いた。
僕はその真剣な様子の姫宮の言葉に苦笑いをしながら、「確かに大事だね」と言葉を返すと、ポケットの財布から小銭を取り出した。
そうして、僕と姫宮がそれぞれザルにお金を乗せてその池で洗うと、姫宮が、「これでお金に困る事は無いね」と満足そうな表情で呟いた。
僕はなんだかそんな姫宮がおかしくて思わず笑みを浮かべた。
すると、そんな僕の表情の変化に
なんだかそんな表情を浮かべる姫宮も可愛らしく思った僕は笑みを浮かべながら、「ごめん、ごめん。姫宮さんがそんなにお金の事を考えているイメージが無かったから、つい」と、言葉を返した。
「欲しい服とかはどれも大体良い値段だから、こう見えても結構お金のやりくりは普段からしてるんですー」
ふざけながらも口を尖らせて言う姫宮に僕は手を合わせて、「ごめん、ごめん」と、軽く謝った。
その後、先に進もうと考えていると、ピンク色の絵馬がたくさん掛けられているのが視界に入った。
姫宮も、「瀬戸君、あれはなんだろう?」と気になっている様子だったので、僕はそこに近付いた。
すると、どうやら隣に生えている木が二本の幹に広がっていて、それにあやかっているらしい。
その事を伝えると姫宮は、「成程、縁結びみたいなものだね」と呟くと、近くにあった何も書かれていない絵馬が置かれた台に視線を向けた。
「あそこにお金を入れれば絵馬に書いて良いんだね」
姫宮はそう呟くと、僕の方を振り返った。
「ねえ、瀬戸君。折角だから私達も書いてみようか」
姫宮のその言葉に驚いた僕は思わず自分の事を指差して、「えっ、僕も?」と、呟いた。
「うん、私だけ書くのもなんだか嫌でしょ? だから、瀬戸君も書こう!」
そう言われて、姫宮に手を引かれて、台の所まで来たが、縁結びに関連したお願い事がすぐには思い付かない。
隣を見ると、姫宮は言い出しただけあって、もう書き終えたようだった。
「姫宮さんは絵馬になんて書いたの?」
お願い事を書く参考にしよう。
そう思って声を掛けたのだが、姫宮は僕の言葉を聞くと、慌てた様に絵馬を隠してしまった。
「……その、姫宮さんのお願い事を参考にしようと思ったんだけど」
書いたお願い事の内容を聞く事は良くなかったのだろうか。
そう思った僕が、取り敢えず理由を説明すると、姫宮はほんのり顔を赤く染めながらチラッとこちらを見た。
「……その、申し訳ないけど、内容は恥ずかしくて見せられないよ。 ……瀬戸君がパッと思い付いた事で良いんじゃないかな?」
なんだか話題を逸らす為に、取り敢えず口から出た様にも感じたが、同時に姫宮の言う事も一理あると思った。
どんなお願い事を書こうが結局はそれが叶うかどうかは自分次第なのだ。
そう思い、どんなお願い事を書くかを真剣に悩む必要は無い、と感じた僕はペンを手に取ると、絵馬にお願い事を書き始めた。
「よし、僕も書き終わったよ」
そして、すぐに書き終えると、僕が書き終わるのを待っていてくれた姫宮に声を掛けた。
すると、姫宮は興味津々といった様子で、「何を書いたの?」と、こちらに尋ねてきた。
特に誰に見せても恥ずかしいとは思わなかった僕は、「大した事は書いていないけどね」と言いながら、姫宮に向かって絵馬を見せた。
「どれどれ…… 『優しい人と仲良くなりたい』 ……これが瀬戸君の願い事?」
姫宮のその言葉に流石に適当過ぎただろうか、と思いながらも僕は、「……そうだよ」と、言葉を返した。
すると、姫宮は僕の目を真っ直ぐ見ると、「瀬戸君、そのお願い事はもう叶っているじゃん」と、軽い調子で言った。
どういう事だろうか、と思った僕が、「え?」と呟くと、姫宮に自分の事を指差した。
姫宮が関わっているのだろうか、と思い、ジッと姫宮の事を見たが、まったくと言って良い程検討が付かない。
そう思い僕が首を傾げていると、「……私は優しくない?」と、少し不満そうに呟いた。
その言葉でようやく姫宮の言いたい事が理解をする事が出来た僕は慌てて、「た、確かにそうだ。うっかりしていたよ」と、言った。
姫宮は、「私の事を優しくないと思っているのかと思ったよ」と呟くと、ホッと安心した様に息を吐いた。
そんな事を話しながら、僕と姫宮がそれぞれ絵馬を掛けると、僕達は再び手を繋いで歩き出したのだった。
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