約束
姫宮と洋服を買いに行った日から三日経った火曜日の放課後。
僕と姫宮は当番の日の為、図書室のカウンターで業務に当たっていた。
「今日はいつもより利用する生徒が少ないね」
確かに姫宮の言う通り、今日の図書室を訪れる生徒は他の日に比べて明らかに減っている気がした。
「テストが終わって、放課後は読書よりも遊びに行きたいって人が増えたのかもしれないね」
僕のなんとも言えない適当な推理に姫宮も、「そうかもしれないね」と、どこか気の抜けた言葉を返してきた。
ほとんど利用者が訪れないので、僕と姫宮の間になんとなくだらけた空気が流れていた。
その空気を僕が居心地良く感じていると、姫宮が口を開いた。
「そう言えば、遊びに行くっていう言葉で思い出したんだけど、瀬戸君って土曜日か日曜日に用事がある日ってあったりする?」
「僕は基本的にはいつでも時間あるよ」
姫宮のその質問に、どうかしたのだろうか、と不思議に思いながらも僕は答えた。
僕の言葉に姫宮は、「良かった」と言って、安堵した様だった。
「いや、実は瀬戸君と一緒に、『キミユメ』の聖地巡りをしたいなって思って」
聖地巡りとは、その作品の舞台となった場所に行く事である。
『キミユメ』の聖地は隣の県の地続きになっている島とその周辺だ。
姫宮は僕と一緒に行きたいと言っており、そこに行くという事は当然遠出という事になる。
日帰りで全然行って帰って来る事が出来る距離ではあるが、今まで友人とそこまでの遠出をした経験が無かった僕は姫宮のその提案に少し緊張を感じた。
「その、僕で良いの?」
そんな思いから、つい口に出た僕の言葉に姫宮は、さも当然といった様子で頷いた。
「うん、私の周りで、『キミユメ』の事を知っているのは瀬戸君だけだし、いつか誰かと、『キミユメ』の舞台になった場所にお出掛けしてみたいとずっと思っていたんだ」
姫宮のその言葉を聞いて、気が付けば僕も姫宮と一緒に、『キミユメ』の聖地巡りをしてみたいという気持ちになっていた。
「それなら、僕もいつかは行ってみたいと思っていたから一緒に行こう」
僕の言葉に姫宮は嬉しそうな表情を浮かべると、「ありがとう」と、呟いた。
「さっきも言ったけど、基本的に僕は土日は空いているから姫宮さんに合わせるよ」
僕がそう言うと、姫宮は顎に手を当てると、「うーん」と言って、悩み始めた。
「そうしたら、少し急かもしれないけど、今週の土曜日とかはどうかな?」
姫宮の提案に考えるまでもなく、僕は頷いた。
そして、頭の中で地図を広げると、僕はどのルートで行けば良いのかを考え始めた。
「そうしたら、一駅分だけど、姫宮さんの駅からの方が近いから、車内で集合しようか」
「うん! それで行こう! 楽しみだな〜」
そんな姫宮を見ながら、僕も当日が楽しみになるのだった。
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