勉強会 一

「明日からテスト最終日まで当番お休みかー」


 ゴールデンウィークが終わり数日が経った日の火曜日。


 図書室から利用者が居なくなると、姫宮が椅子の背もたれに寄りかかりながら、そう呟いた。


 僕と姫宮が通っているこの高校では、テストの一週間前からテスト最終日までは部活動や委員会の活動が原則禁止となり、生徒達はテスト対策に勤しむ事になる。


 それは例に漏れず、図書委員会も同じで、明日から一週間の間は当番が休みとなる。


 ちなみに、その期間も図書室自体は開いており、司書の山岡さんが貸し出し業務を担う事になる。


「姫宮さんは、今回のテストも余裕だったりする?」


 僕の記憶が正しければ、テストの返却が終わると、廊下に張り出されるそのテストの成績上位者が記されている紙の一番上に姫宮の名前が毎回書かれていた気がする。


 そう思って口にした僕の言葉に姫宮は苦笑いをした。


「皆、瀬戸君の様な事を言ってくるけど、毎回、結構必死で勉強をしているよ? だから、瀬戸君の質問に答えるなら、今回も一生懸命勉強をしなくちゃって感じかな」


 姫宮の言葉に僕は感心して、「姫宮さんは努力家なんだね」と言った。


 姫宮は、「そんな事もないけどね」と、照れながら言うと、「そう言う、瀬戸君の方はどうなの?」と、興味津々と言った様子で尋ねてきた。


「……いや、実は今回、数学が結構厳しそうだなって思ってる」


 僕は以前から数学があまり得意な方では無かったが、なんとかそこそこの結果を毎回残す事が出来ていた。


 しかし、二年生になって格段に数学が難しくなり、段々と理解が追い付かない部分も増えてきた。


 今回はかなり努力をしないとまずいのではないか、と僕は思っていた。


「あー、確かに高二になってから結構難しくなったからね」


 姫宮はそう言うと、腕を組んで何かを考え始めた。


 突然どうしたのだろうか、と僕が思っていると、姫宮は、「そうだ!」と、声を上げるとこちらを見た。


「瀬戸君、もし良かったらだけど、明日の放課後、一緒に勉強会をしない?」


「えっ?」


 姫宮の突然の提案に僕は驚いたが、よくよく考えてみると、学年トップの点数を毎度の様に取っている姫宮に教えて貰えれば、おそらく今回のテストを乗り切れるだろう。


 それに、高校三年生になれば受験もあるので、今から勉強の習慣をつけておく事は良い事だ、と僕は思った。


「ありがとう。僕からしたら、とても助かるよ。そうしたら場所は図書室にする?」


 僕の言葉を聞いて、姫宮は、「うーん」と、言葉を濁らせた。


 その反応から、姫宮はどうやら図書室は嫌なようだ、と僕は思った。


 そうなると空き教室を使用する流れになるだろうか。


 そう考えていると、姫宮が言いづらそうに口を開いた。


「その、瀬戸君が嫌でなければ、瀬戸君の部屋が良いかな」


「ぼ、僕の部屋?」


 てっきり、学校やカフェ、図書館あたりの場所が候補に挙がるものだと思っていた僕はまさかの候補地に驚きを隠せなかった。


「……どうして僕の部屋が良いの?」


 取り敢えず、理由を聞いてみよう。


 そう思った僕は動揺する気持ちを抑えながら、姫宮に尋ねた。


「えーとね、さっき話している時に、ふと瀬戸君の部屋にはライトノベルが沢山あるかなって思って、その、出来たら読んでみたいなって思って……」


「あぁ、成程。確かにライトノベルは結構沢山あるよ」


 姫宮から理由を聞くと、僕は納得して頷いた。


「それなら、僕の部屋で勉強をしよう。もし、姫宮さんが気になる作品があったら貸す事が出来るしね」


 僕がそう言葉を返すと、姫宮の表情が明るくなった。


「えっ? 良いの?」


 姫宮の嬉しそうな表情を見ながら、僕は笑みを浮かべて頷いた。


「そうしたら、明日、放課後になったら瀬戸君のお家にお邪魔するんでも良い?」


「うん、良いよ。明日、学校が終わったら一緒に行こう」


 ひょんな事から姫宮と勉強会を行う事になったが、互いに好きな事についても話す事が出来ると思うと、僕はとても楽しみになった。


 とはいえ、勉強もしっかりとしないと、今回のテストはまずいだろう。


 僕はそう思って気を引き締めると、そう言えば、姫宮が来るのであれば、明日までに部屋の掃除をしておかなければならないと思うのだった。

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