泣いた後は甘い物! 二
その出来事の後、スイーツを食べている内に元の調子を取り戻した姫宮は、結局、店に置いてある全種類のスイーツを食べる事が出来ていた。
スイーツを食べる手を止めたらまた恥ずかしくなってしまいそうだ、と思った僕も、姫宮程ではないが、多くの種類のスイーツを食べていた。
「いっぱい食べれて満足!」
店から出ると姫宮はそう言いながら幸せそうな表情を浮かべた。
「……もう、これ以上食べれる気がしない」
対して僕は、一度にこんなにも甘い物を摂取した経験が無かったので、姫宮の様に元気に振る舞える余力が無かった。
「瀬戸君も結構沢山食べていたもんね」
「……姫宮さんはどうしてそんなに元気なの?」
僕の言葉に姫宮は顎を手に当てて考え始めた。
「うーん、そうだなぁ、特に思い付かないけど、強いて言うなら、甘い物が好きだから食べ慣れているって事くらいかな。あまり関係が無い気がするけどね」
「成程、慣れか」
苦笑いをしながら言った姫宮の言葉に、もし慣れが理由だとしたら、姫宮はどれだけの甘い物を食べてきたのだろう、と、僕はぼんやりと思った。
「瀬戸君、もし、甘い物を沢山食べれる様になりたいのだったら、私と一緒に甘い物を食べに行く? お勧めのお店を紹介するよ?」
どうやら、僕の言葉を聞いて、姫宮は僕が、甘い物を沢山食べる事が出来るようになりたいと思っている、と考えた様だ。
正直僕は甘い物が沢山食べる事が出来る様にならなくても構わなかったのだが、姫宮が折角提案をしてくれた事に加えて、何より姫宮と出掛けられるという事に魅力を感じている自分がいた。
「……そうだね、考えておく」
その気持ちを素直に言葉にする事に恥ずかしさを覚えた僕は曖昧な返事を姫宮にした。
「うん! いつでも良いからね」
そんな僕の返事に姫宮は嬉しそうに頷くと、僕の顔を覗き込んで、再び口を開いた。
「瀬戸君、甘い物を食べて元気出た?」
その言葉を聞いて、そう言えば姫宮が、『泣いた後は甘い物を沢山食べると元気になるんだよ』と言って、僕を店に連れて行ってくれた事を思い出した。
その事を忘れてしまうくらい元気が出た僕は、「姫宮さんのお陰で元気が出たよ。本当にありがとう」と言って、軽く頭を下げた。
「えへへ、どういたしまして」
そんな事を話している内に僕と姫宮は駅に辿り着いた。
丁度、そのタイミングで運良く電車がホームに入って来たので、僕と姫宮はそれに乗り込んだ。
少しの間、電車に揺られて、やがて姫宮が降りる予定の駅に着いた。
僕は姫宮が立つよりも先に立ち上がると、「送って行くよ」と、声を掛けた。
姫宮は一瞬驚いた様表情を浮かべたが、すぐに微笑むと、「ありがとう」と、呟いた。
電車から降りると、僕と姫宮は前回通った道を二人で歩き始めた。
歩き始めて少し経った時、今日のお礼をするなら今だ、と思った僕は、「姫宮さん」と、声を掛けた。
「うん、なあに?」
姫宮は僕の呼び掛けに明るく反応すると、くるりとこちらを向いた。
「姫宮さん、今日はありがとう」
呟いた僕の言葉に姫宮は、「私はただ瀬戸君と楽しく遊んでいただけだよ」と、微笑みながら言う。
「そんな事ないよ。僕は、今までどうせ、自分なんか、って思う事が多かったけど、姫宮さんが僕の事を肯定し続けてくれたから、僕は少し自分に自信を持つ事が出来たよ。本当にありがとう」
「それなら、今日カラオケに誘って良かった」
姫宮はそう言って嬉しそうに微笑んだ。
「それなら、私も頑張らないとね」
姫宮は何を頑張るつもりでいるのだろうか。
僕が不思議に思っていると、姫宮は再び口を開いた。
「自分から積極的に言っていく訳ではないけれど、ライトノベルを読んでいるって事を、そういう話の流れになったら、誤魔化したり隠したりしないで話そうと思う」
ただ趣味を他の人に言うだけ。
周りから見たらそう思われるかも知らないが、姫宮にとってはそうでは無い。
姫宮は今まで、伝えた時の他人の反応を気にしてしまい、自分が好きな事を人に伝える事が出来ないと言っていた。
僕は姫宮のその決心を応援したいと思ったが、無理をしていないか、と心配になった。
「姫宮さん、無理はしてない?」
僕が言うと、姫宮は小さく首を横に振った。
「私は瀬戸君と一緒に頑張りたい。それに、臆病になっているだけで、心の何処かでは、なんて事はないって思っている自分がいるんだ。だから、これをきっかけにして、一歩踏み出したい」
「そうか、それなら一緒に頑張っていこうか」
僕の言葉に姫宮は、「うん!」と言って、頷くと、笑みを見せた。
「なんだか、私達、今青春してるって感じがしない?」
確かに、こんなに自分の気持ちを言ったり、反対に聞いた事は今まで無かったな、と思った。
自分の気持ちを包み隠さず伝える事が出来る存在が、姫宮で良かった、と僕は思った。
「……確かに青春っぽいかも?」
「瀬戸君、なんで疑問系なの?」
姫宮が呆れた様子で言うと、僕らは目を合わせて、互いに笑い合ったのだった。
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