第19話 目の前にいたNo.1
「うあ゛あ゛ぁぁぁぁ……」
「どっ、どうしたのよ。突然そんなに露骨に悩みがありそうな声出して」
鬼沢から栗花落さんと縁を切るよう強要されたことで、僕たちは僕が青谷君の記憶を思い出し、栗花落さんの中の明日見さんの記憶、人格を消す決心をすることができた。
そして僕たちはどのようにして明日見さんの記憶を消すべきなのかを話し合うべく、いつものファミレスへとやってきていた。
本来なら今日の本題、前世の記憶のことについて真剣に話し合うべきなのだが、僕の頭の中は全く別のことでいっぱいになっていた。
「……が」
「え、なんて言ったの?」
「……トが」
「いや、だから聞こえないんだけど」
「テストがああぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛‼︎」
「うるさっ⁉︎」
僕の頭の中を埋め尽くしていること、それは1週間後に迫った高校に入学して初の中間テストだ。
僕たちが通う高校は所謂進学校で、テストのレベルは並大抵の高校とはまるで違う。
普段の授業は真面目に聞いているはずなのに、テスト範囲が広すぎて僕の頭の中にはテスト範囲のほんの一部しか入っておらず、テスト範囲全てを頭の中に納めるのは到底無理な話だった。
そして更にタチが悪いのは、その並大抵の高校とは違う高難度のテストだったとしても、僕たちと同じ学校に通う頭脳明晰な生徒たちはいとも容易く高得点を取ってくるであろうことだ。
うちの高校のテストは赤点ラインを平均点の半分以下の点数としているため、大勢の生徒が高得点を取ると考えられるうちの高校で赤点を回避しようとすると、少なくとも全ての教科で40点以上は取る必要がある。
僕だってこの高校に入学しているのだからバカというよりは賢い部類に入ると思う。
しかし、この高校に入学しようと思ったのは偏差値の高い高校に入学すればパリピが少なくて僕と話が合う人間が多いかもしれないと安易に考えたから。
そんな安易な考えが絶対に正しいと思っていた僕は、中学時代必死になって勉強を重ね、なんとかこの高校に入学した。
なので、この天才ばかりの高校で僕が赤点を回避するには睡眠時間を削ってでも勉強をしなければならない。
そうしたからといって、僕が赤点を回避できるとは限らないんだが……。
「そんなに悲観することなの? 理人君だってこの高校に入学してるんだから多少頭はいいんでしょ?」
「ギリギリのラインで入学できただけだからな僕は! 僕の頭を舐めるなよ!」
「舐めるなよ、って言葉をそっちの意味で使ってる人を見たのは初めてよ」
「せめて、せめて僕が栗花落さんみたいに大勢のクラスメイトから慕われていれば頭脳明晰な人から勉強を教えてもらうことだってできただろうに……。前世の記憶をどう思い出すかって話をしたいのは山々だけど、テストのことが気になりすぎて頭から離れない……」
「まあ来週からテスト期間だしね」
「なんか呑気すぎやしないか栗花落さん⁉︎ 僕がこんなに悩んでるのになんで君はそんなに能天気なんだよ! ……あーそうか、わかったぞ。栗花落さんは教えてくれる友達がいっぱいいるから大丈夫なんだな? そうですかそうですか、はいはいどうせ僕は勉強を教えてもらえる友達が1人もいないぼっち陰キャですよ! 笑いたきゃ笑え!」
「……え、焦りからなのかいつもと雰囲気が違いすぎるんですけど。でもいつもの辛気臭い雰囲気よりはマシかも……?」
「いつもの方が数百倍マシだわ! 失礼なこと言いやがって、そんな余裕があるなんて羨ましゅうござんすね、君とは違って僕には勉強を教えてくれる頭脳明晰な友達はいないんだよ! あー詰んだ、詰んだわこれ、前世の記憶思い出すための作戦ももうできないわこれ‼︎」
「……えっ、目の前にいるじゃない」
僕が栗花落さんにクレーマーの如く悪態をついていると、栗花落さんはキョトンとしながら僕に向かってそう発言した。
「……いるって何が? 栗花落さんしかいないじゃないか」
「ええ。だから、私が勉強教えてあげる」
「----栗花落さんが?」
目から鱗だった。
僕にはみなさんご存知の通り友達がいない。
だから僕に勉強を教えてくれる人間なんて誰1人としているはずがないと思っていた。
しかし、その存在しないはずの人物は、目の前に存在したのだ。
確かに僕は栗花落さんの中にある明日見さんの記憶を消すため無償で協力しているのだから、そのお返しとして勉強を教えてもらうくらいのことならしてもらう権利があるかもしれない。
いや、でも待てよ?
僕が言えたことではないかもしれないが、栗花落さんの成績は具体的に学年で何番目くらいなのだろうか。
僕に教えるつもりがあったくらいなので、上から数えた方が早いくらいの順位ではあると思うが、真ん中くらいの成績だと言われると教えてもらうにしても説得力がないというか……。
「ええ。私が」
「ちょっと待てくれ。栗花落さんって成績いいのか?」
「いや、むしろなんで私が成績いいこと知らないのよ。私、入学式で新入生代表のスピーチしてたんですけど」
「……へ?」
新入生代表のスピーチといえば、大体どこの学校でも新入生の中で一番成績のいい生徒が行うものである。
それを栗花落さんがしているということは、栗花落さんはこの猛者揃いの高校の中で一番賢い人間ということなのか⁉︎
「つっ、栗花落さんってこの学校で一番賢いのか⁉︎」
「そうよ。なんていったって新入生代表だからね。ふふんっ。褒め讃えてくれてもいいのよ」
「ああそれは本当にすごいな! 僕なんか後ろから数えたら両手で数えられるくらいの場所にいるってのに、この強者が勢揃いしている高校で1番だなんてすごすぎる! 天は二物を与えないんじゃなかったのか……。僕なんか一物だって与えられていないのに……」
「えっ、そっ、そのっ、ありがと……。というか二物って頭がいいのと、もう一個は何なの?」
「え? そりゃかわ--------。……いや、なんでもない」
危なすぎた、あとちょっとで女たらしみたいな発言をするところだった。
「……? まあいいけど。そんなことよりとにかくか勉強でしょ。ほら、早く勉強道具出して。何かしら教科書とかは持ってるでしょ?」
「えっ、それはまあ学校帰りだしカバンには入ってるけどいいのか? 前世のこと考えないといけないのに勉強だなんて」
「学生の本文は勉強だもの。前世のことは勿論大事だけど、やることやってから考えることでしょ。私も協力をお願いしてる身として、理人君に赤点なんか取られたら寝覚が悪いから」
「……ありがと。恩に切る」
かくして、僕はこの日からテストが始まる日まで毎日ファミレスにやってきて栗花落さんに勉強を教えてもらうことになった。
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