第2話 炎の中の木馬

田中が街の中心へと向かう道中、火柱は次々と現れ、至るところで火災が広がっていた。逃げ惑う人々は田中の目をよぎるが、彼の関心はただ一つ、火柱を登る黒い木馬の正体にあった。火の粉が舞い、激しい熱気が辺りを包む中、田中は無我夢中でカメラのシャッターを切り続けた。


「この異常現象が現実なのか、それとも悪夢なのか…」


彼はカメラを通して、目の前で広がる破壊と炎の光景を記録する。木馬は一度目にすれば忘れられない不気味な存在だった。火柱に沿ってゆっくりと昇る姿は、炎に包まれていながら消えない異質なもの。その異様なシルエットが、何か神秘的な力によって支配されているように思えた。


「これが単なる火災なら、なぜ木馬が現れる?」


田中はそう呟き、足を止めた。街のあらゆる場所で火柱が立ち、その全てに黒い木馬が現れている。異常事態であることは間違いないが、それが何を意味しているのか、田中にはまだ掴めていなかった。


その時、田中の目に古びた寺院が映った。この寺院には古い伝説や記録が残されていると聞いたことがあった。火柱と木馬の謎を解く手がかりがあるかもしれない。田中は寺院へと急いだ。


寺院の中は静寂に包まれていた。火災や炎の音はここまで届いていないようで、まるで時間が止まったかのように感じられた。彼は奥に進み、古びた本が積み上げられた一角を見つけた。ここには長年、街の歴史や伝説が記録されている文献が保管されている。


田中はその中から、ある古い書物を見つけ出した。その書物には「木馬の災厄」と題された章があり、彼は慌ててページをめくる。


「かつて、この土地には封印された闇の力があった。その象徴が木馬であり、大地が裂け、火柱が立つ時、木馬は再び現れる…」


田中の手が震えた。まさに今起きている現象がそのまま記されているではないか。しかし、続きにはこうも書かれていた。


「木馬が火柱を登り切る時、地獄の門が開かれ、この世は闇に覆われる。木馬は闇の神の使いであり、その姿を見た者は、やがて魂を闇に捧げる運命にある。」


田中は戦慄した。街で火柱を目撃し、木馬を見た者は、ただでは済まない。彼自身も木馬を見たことにより、すでにその運命に囚われているのかもしれないという恐怖が体を走った。


「この現象が、全てを滅ぼす兆しだとすれば…どうすれば止められる?」


彼は急いで本を読み進めたが、封印を解いた理由や止める方法については何も書かれていなかった。ただ、木馬が世界を滅ぼすために現れたという事実だけが記されていた。


外から再び轟音が響いた。田中は本を閉じ、寺院を出て火柱の立つ街を見渡した。木馬が次々と現れる中、田中の心は焦燥感に包まれていた。このままでは、街は滅びてしまう。自分が何かをしなければならない。しかし、どうすればいいのか、何も分からないままだった。


木馬はゆっくりと、着実に天へと昇っていく。田中はその光景を見上げながら、思わず呟いた。


「この世は本当に終わるのか…?」


田中の中で恐怖と使命感が交錯し、彼の目は木馬を見据え続けた。次に何が起こるのか、田中には全く予測できなかったが、その答えを探すために彼は前に進む決意を固めた。

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