第1話 大地の裂け目

その日は、いつもと変わらない静かな午後だった。通りには穏やかな風が吹き、家々の窓からは生活の音がかすかに聞こえていた。しかし、その平穏は突如として破られた。大地が、深く、鋭く裂けたのだ。


「何だ…!?」


最初に気付いたのは、通りを歩いていた商店の主人だった。彼の足元で大きく地面が揺れ始め、まるで地球そのものが震えているような振動が広がっていった。次の瞬間、地鳴りが響き、街中がパニックに陥った。人々は叫び声を上げ、周囲を見回しながら逃げ惑う。


だが、逃げ場はなかった。突然、裂けた大地の隙間から、猛烈な炎が吹き上がった。火柱は天に向かって轟音と共に立ち昇り、その周囲に飛び散る火の粉が空を舞う。その光景はまるで、世界が終わりを告げているかのようだった。


「火事だ!逃げろ!」


誰かが叫び、人々はさらに混乱して走り回った。家々が次々と火の粉に包まれ、建物は燃え上がり始めた。消防車のサイレンが遠くから聞こえてきたが、それすらもこの圧倒的な炎の勢いには抗えないように感じられた。


その時、ある若い女性が空を指さして声を上げた。


「見て…!あれ、なんなの…!?」


彼女の指す方向を見ると、火柱の中に異様な存在が見えた。それは、炎の中を昇る黒い木馬だった。木馬は炎に包まれながらも、ゆっくりと火柱を駆け上がっていく。その姿は不気味でありながら、どこか美しさすら感じさせるものだった。


「木馬だ…火の中を登っている…」


誰かがそう呟いたが、周りの者たちは言葉を失い、その光景に釘付けになっていた。次々と現れる火柱、そしてそれぞれの火柱を昇る黒い木馬。誰もが恐怖と不安に打ち震えながら、燃える街から逃げようと必死だった。


その光景を遠くから見つめていたジャーナリストの田中は、ただならぬ事態であることを直感した。火柱も、木馬も、普通の現象ではない。これが単なる災害ではなく、何か深い意味を持つ出来事であることを感じ取った田中は、カメラを握りしめ、恐怖を抑えながら街へと向かう。


「これは…一体何が起きているんだ?」


彼はその疑問を抱きながら、街の裂け目と火柱を目の当たりにする。ジャーナリストとしての使命感が恐怖に勝り、田中は真相を追う決意を固めた。


「何が原因で、木馬が登っているのか…真相を突き止める必要がある。」


田中は、地元の古い文献に伝わる伝説「木馬の災厄」を思い出していた。だが、それが何を意味するのか、彼自身もまだ分かっていなかった。この異常事態の裏には何か大きな秘密が隠されているに違いない。田中は、その真相を解き明かすため、さらなる調査に乗り出すことを決意した。


街は火の海となり、木馬が登る火柱は次々と現れ続けていた。人々の叫びと炎の音が入り混じる中、田中は街の中心へと向かって歩き出した。

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