・・・


・・・


・・・


たしか、15歳か、16歳のころだった。当時の友達何人かと一緒に、カラオケに行ったんだ。ボカロ好きの仲間がこんなにいるのが嬉しくて、ひとりひとりが勝手に歌うのをしみじみ聴いた。わたしも何曲も何曲も、ひたすらしつこく歌った。


自分の携帯が鳴っているのを、確かに何度か見たと思う。でもわたしはその場所が好きで、電話をそのままにしておいた。続けて連続でかかってきて、しばらくしたら鳴らなくなった。


母親から連続でかかっている着信履歴を、帰りの夜の街灯の下で眺めていた。


どういうわけか、家のカギは開いていた。わたしのことを待っていたわけはない。説教を言うような優しさが家族に無いことは知っている。リビングの明かりはついていて、父親と母親が座っていた。わたしのことを、ただ単に見て、「おばあちゃんが倒れたから。いま病院にいるから」とすんなりと言った。

「そう」

とわたしは返事して、そのまま冷蔵庫へ向かった。母親が溜息をつく。冷蔵庫から、ペットボトルのコーラを取った。それを持って、わたしは自分の部屋へ戻っていった。


母親も父親も、わたしに何も言わない。


部屋の扉を閉じて、自分の部屋はなんて素晴らしいんだろうと、その時思った。愛しているIAのフィギュア、少しブラックライトが混じったサイバーな感じのベッドと毛布。気に入っている白いパジャマもある。マンガ本棚は壁一面にある。買っただけで読んでないやつが何冊もあることを思い出した。久しぶりにオンラインゲームをやってもいい、と思った。得意ではないけど、久しぶりにやったら楽しめるかもしれない。つけっぱなしの空調も快適で、タブレットの充電も100%あった。


いつもそうするように、毛布に潜り込んで動画を流した。いつもの人のゲーム実況の続きを流した。終わると続きを観て、また終わると続きを観た。そして耐えられなくなって、おそるおそる、ボカロ曲を流した。



たぶん次の日の昼間くらいまで、ぶっ続けでボカロを流し続けて、そのまま寝入ったんだと思う。起きてからのことや、それからの日々のことは、なぜか全く思い出せない。


・・・


・・・


・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る