オフで3人で会ったときには、ぎこちなさ、があった。恋愛については恐くて何も話せないし、リスナーとの接し方も恥ずかしくて聞きにくい。そもそも、こうやって生身で一緒に居るっていうだけで、少しギクシャクした。

チナツちゃんが、身も蓋もない冗談を言う。無視しようとしたけど、下らなさ過ぎて笑ってしまった。

チナツちゃんとこころちゃんは、見合って笑っている。


パッ、とよぎったのは、あの店員さんと一緒の日々が、この2人と一緒で無い日々が、あるのかもしれないということだった。


・・・


カフェへ行くかどうか、迷っていた。店の前を通って、横切ろうとしたけどできなかった。確かに自分はお腹が空いている、と自分へ念じながら店へ入る。

店の中を探して彼は見つけたけど、目は合わなかった。

彼が皿を置いて、笑顔で直ぐに戻る。

サラダ、サンドイッチ、じゃがいも等を食べた。あまりキョロキョロできなかった。彼からはなにも無い。

皿をさげに彼が来たけど、やっぱり何も話はしなかった。

食べ物も無いのに、しばらく座っていた。バカバカしくなって、お店を出る。

会計は彼がやった。彼の笑顔には好意が滲んでいたけど、話の続きは無かった。


わたしから振らない限り、彼はもうバーチャルライバーの話題には触れないようにしたんだろう。そして、わたしから話を始める訳はない。だからこれ以上のことはもう何も無いとわかった。


・・・


いつものように部屋に戻り、いつものように寝ようとする。でも部屋の明かりを消してはダメだ、という感じがした。このまま寝ればもう終わりだ、というような予感がする。チナツちゃんやこころちゃん達の配信を観る気にはとてもならなかった。もちろん、配信をする気にもならなかった。


なんとか起きて、部屋を出る。夜のなかを適当に歩いた。自分ではあてどなく歩きたかったけど、なんとなくカフェの方へ向かっている。でも足取りは実に重かった。

カフェが当然に閉まっていることを、確かめる。

もちろん店員さんのことを待っていたわけではない。仮に会ったとしても話しかけはしないだろう。ただ、カフェが閉まっていることを確かめた。

バカバカしいと思った。でも、閉まっているお店を眺めながら、しばらく立っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る