第7話 生魚
「さて、行きますか。」
両親との食事会が終わって貴志の車の助手席で私はうなだれている。
「なんで私まで…」
「よりちゃんがレイナもって言ってたんだから仕方ないじゃないか。」
「そりゃ…そうだけど…」
私たちはよりちゃんと待ち合わせの場所に向かっていた。
「あ!先輩たち!ここです!」
よりちゃんが手をブンブン降っている、後部座席に乗り込んできたよりちゃんは私たちに飲み物を渡してきた。私にはブラックコーヒー、貴志にはコーラ。2人のよく飲む物をよく見ているなーって感心していた。
「あの!今日はよろしくお願いします!」
「よし!じゃぁ早速だけど生魚に向かおうか。」
「はい!」
「…はぁい…」
元気に返事するよりちゃんと、うなだれる私、にこにこ笑う貴志、私だけ場違いな気が…
「そういえば、生魚って廃墟だから入れないよね?あー良かったー不法侵入になっちゃうもんね!」
「あ〜…そうでした…入れないんですよね…」
落胆するよりちゃんと違って私は逆に生き生きとよろこんだ。そして貴志は…
「あー、それなら大丈夫、ちゃんと許可とったから。」
「え?」
「ほんとですか?!貴志先輩淒でしゅ!噛んじゃった!」
もう私は逃げれないんだ…こうなったら!
「はい着いたよー、あれ?レイナ?おーい」
私は寝たフリを決め込む、だって行きたくないもん!仕方ないじゃん!許可とったとか何よ!
「…レイナ先輩?」
「すーすー…」
「貴志先輩、レイナ先輩寝ちゃいましたね…」
「仕方ない、置いて行くか。」
よしよし!作戦せいこう!
「まぁ、ここで1人車の中にいると大勢の霊が乗り込んで来るって言う話だけど…レイナ大丈夫かなぁ?」
それを聞いた私はばっと飛び起き、ふぁーあ、もう着いたの?と寝ぼけた振りをする。
「え?貴志先輩?ここにそんな話ないですよ?」
「お?そうだっけ?他の場所と間違えちゃったかな?」
こいつーーーーー!はめやがったなぁぁぁぁぁ!
「さ、行くよレイナ。」
私は行くとしか選択肢はなくなった。光の話と同じ様に暗い道を歩きトタンの入口をくぐる。ここで気が付いたこたがあった。
「ねぇ、なんか臭くない?」
「え?なんか臭う?」
「…」
「なんかが腐ったような匂いがするんだけど…」
「ん〜、分からないなぁ。」
「…います」
黙っていたよりちゃんが一言言った。あ〜何か見えてるんだなーと思った。建物が見えてくると周りの空気が一気に淀んでいるのがわかった気がする…至る所が壊れ苔が生えている。完全な廃墟だ…
「さて、まずは1階から見て回ろうか。」
私とよりちゃんは頷く。
入口と思われる場所に行くと奥まで続く空間がある、その先は外になっていて小さなプレハブのようなものが隣接していた。右側にはよく分からない空間、事務所とかだったのかな?とか思いながら中を見る、水槽なのか神棚なのか理解できないものが置いてある。営業中の当時に置いてあったものだろう…何に使うのか分からない。内部は色々なものが散乱している、瓦礫、当時のパンフレット等…ふっと手に取ったパンフレットはホテルの筈なのに海鮮料理屋のパンフレットだった。作りは同じで間違いないこの建物だ。
「ねぇ貴志、これ。」
「あぁ、生魚のパンフレットだね。」
「え?だってこれ海鮮料理屋だよ?」
「生魚はホテルなんだけど、その前は海鮮料理屋だったんだ。だから多分その当時のものだね。」
「そうなんだ…」
1階は瓦礫は散乱するもののあまり物は残っていない。あるとすれば入口にあったアイスクリームの冷蔵庫って言うのかな?よくお店にあった古いガラス窓のやつ。色々な落書きもあり一通り見て周り外の階段から2階に上がる、光の言っていた外階段だろう、不思議と今のところ怖いと言う感覚はなかった。
「あ、あの!貴志先輩!2階は…2階は気をつけてください。」
「何かあった?」
「います…」
よりちゃんの『いる』と言う言葉に私と貴志は身構えた。と言っても絶対に見えるわけじゃないしそれでも私と貴志は気をつけて進んでいく。風が吹く度に『キィー...』と言う音がする、壊れた何かが風邪で揺れているのか、とても気持ち悪い。更に歩く度に『ジャリッジャリッ』と音がする。その音が3人分なのかは考えたくない、1人、もしくは2人多いのでは?とふっと考えるが、そんなのは考えていたらきりがない。部屋の前に来て恐る恐る中を覗く、暗く冷たい空気が流れる部屋に私達は入っていく。
「寒いな、ひんやりしてる。」
「うん...」
よりちゃんは何も言わないで私の横にいて手を握ってくる。よりちゃんを見ると一点だけを見つめて悲しそうな顔をしていた。
「よりちゃん、そこに居るの?」
「...はい、首吊りをされた男性が。」
「そっか、よりちゃん見える人だったね。」
「はい...」
私たちはよりちゃんの反応を確認して様子を見る。何も無い空間をじーっと見つめるよりちゃんは、少しさて。
「もう大丈夫です、ありがとうございましたレイナ先輩!」
と言って手を離す。
「た、大丈夫なの?」
「はい、ちゃんと話して納得して貰えました。」
「話してって...」
貴志と目を合わせる、声も何も聞こえなかったけど...
「頭に直接話しかけられるっていうんですかね、テレパシーみたいな感覚って言っても分からないですよね?」
テレパシー...うーん分からないけどいきなり頭に声響いてもやだなーと一瞬思った。
「ここの人よりあっちの人の方が深刻かもしれないです...」
「よりちゃんはすごい霊感の持ち主なんだね、見えるし話せるしって。」
「私は結構霊感が強いんですよ。母方の家系は霊感が強い女の子が生まれやすいみたいなんです。私にもそれで霊感が...」
「そっか、次の部屋はどうなの?大丈夫?」
「えっと、あまり善い雰囲気とは言えないです、どちらかと言うと敵意むき出しです。今も来るな!帰れ!みたいな事叫んでます。」
「それって火事があった部屋だよね?」
「はい、何かあれば直ぐに離れられるようにして下さい。」
貴志とよりちゃんは2人で話していた、火事があった部屋に近づくにつれてよりちゃんが私の手をまた握ってくる。
「よりちゃん大丈夫?」
「は、はい、レイナ先輩が手を繋いでくれてるので大丈夫です。」
恐る恐る部屋の中を覗く、壁も柱も扉も燃えて真っ黒になっている。他の部屋はベットがあったり鏡があったり壁がちゃんと残っているのにここは焼けた柱が残り部屋の奥まで見渡せる。
「よりちゃん大丈夫?無理しないでレイナと後ろにいていいからね。」
「えっと...もう遅ううです...」
よりちゃんが指を指す、そこには焼け爛れた柱に何かが絡まったいる、私にもわかる黒い霧がかった物がウネウネと動いている。私がビクッと体を震わせるとよりちゃんに伝わったのか私を見た。
「レイナ先輩...もしかして見えちゃいましたか?」
「う...うん、黒いモヤモヤしたのが...」
「レイナ...大丈夫か?」
「貴志は見えてないの?あの黒いモヤ...」
「レイナ先輩が貴志先輩と手を繋げば見えると思いますよ。」
そう言われると貴志は私と手を繋ぐ。ギョッとした様子を見せたが、直ぐに冷静になる。
「あの人がよりちゃんの言っていた...」
貴志がそう言った瞬間頭の中に声が響く。
『がえれぇーぐるなぁー...』
「あの、話して貰えませんか?」
『はなじなどないぃ...がえれぇ...』
よりちゃんが声に出して何度も話しかけるけど話が通じないのか帰れとしか言わない。よりちゃんは私達に向かって首を振った。
「彼女、何も言わないですし人の原形をだいぶなくしてきています。そこら辺の浮遊霊などを取り込んで、心ももう...」
よりちゃんは悲しそうにしながら部屋をでた。
私たちもよりちゃんに続く。あのモヤはいつまであそこにいるのだろうか...
車に戻りよりちゃんを送りがてら貴志が話し始めた。
「よりちゃんが悪いわけじゃないさ、ここはもうそっとしておこう。今回は心霊調査と言う名目で許可を貰っているから、大家さんと市にはちゃんと報告しておくとしよう。」
「え?そんな名目で許可もらってたの?!」
「ん?あぁ、心霊スポット調査事務所ってのを立ち上げた形かな?俺が所長で...」
「レイナ先輩が助手なんですね!いーなー!私もお手伝いしたいです!」
「待って!私やらないよ?もう心霊スポットなんていかないよ?」
「え?!レイナ先輩...もう一緒に行かないんですか...?」
「因みにだけど、助手枠は2名だけ空けてあるよ。」
よりちゃんは私をうるうるした目で見つめてくる。か、か、可愛...じゃなくて!あ!そうだ!
「わ、私より光を誘ったらいインじゃない?ね?よりちゃんとも仲良いし。」
「ダメですね、光はぜぇーったいにダメです。」
「なんでよ?」
「絶対に心霊スポットで騒いだりしますもん。霊の人達怒らせるだけですから。...レイナ先輩...私と一緒じゃ嫌ですか?」
「レイナ、諦めろ。よりちゃんが可愛すぎてさっきから抱きしめてるぞ。」
くっそー!また無意識に!はぁ...帰りはよりちゃんと後部座席にのるー!!なんて言わなきゃ良かった。
「わかった!分かりました!でも一つだけ条件出すよ?よりちゃんを愛でせること!」
「俺は構わないよ!」
「私はかまいますよォ!でもそれで一緒に入れるなら...よろしくお願いします!!」
こうして生魚の調査?は終わった、今回は心霊現象は特に無かったけど無事に帰れてよかった。...無かったよね?
後日、よりちゃんと貴志からあんな事を聞かされるとは思わなかった...
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