第6話 山田 依子

さて、行きますか。そう言われた私は、今貴志の車の助手席に乗ってぐったりしている。どこに行くのか?もちろん生魚いきぎょです。光の話を聞いた貴志はすぐさま行動に移った。色々真剣に調べてるから何してるのかなー?って仕事持ち帰ってパチパチパソコン売ってるのかな?この頃には私たちはお互いの家で休日を過ごす日々が続いていた。気になってパソコンの画面を覗き込むと市役所なんかのホームページが表示されている。あれ?なんでこんなとこ見てるんだろ?まぁいっか、その時はそうとしか思わなかった。


「あーやっと許可降りたー!疲れたー!」


「はい、コーヒー。お仕事お疲れ様。」


「あ、ありがとう。っても仕事じゃないからなぁ。」


「え?仕事じゃなかったの?ずーっと忙しそうにしてたから、仕事してるんだと思ってた。」


「ま、とりあえず終わったから大丈夫。」


「なんにせよお疲れ様、来週の週末なんだけどね。」


「ん?あぁ、俺、行くとこあるから来週は…」


「はぁ?あんた約束忘れたの!?」


「いやいやいや!ちゃんと覚えてるから!レイナのお父さんお母さんと食事行くんだろ?!ちゃんと覚えてるから!」


「なんだ、てっきり忘れたのかと思ったじゃない…来週行くとこって何?」


「ん?食事終わったらちょっと行ってくるから、レイナは久しぶりにお父さんお母さんとゆっくり楽しんできなよ。次の日迎えに行くよ。」


「はぁ?まぁそれで大丈夫ならそうするわ。」


結局、貴志がどこに行くのかは教えて貰えなかった、でも気になるし…浮気って事はないだろうけど。そんな事を考えながら次の週に仕事をしているとある日山田さんと休憩室で鉢合わせた。


「あ、犬神先輩!」


「あら、山田さん。お仕事お疲れ様。」


「はい!お疲れ様です!休憩ですか?」


山田さんは私の周りをうろちょろと回る。社会人女性なんだけど、背が小学生女子くらい小さい。会社のマスコットキャラクターと言う呼び名もあるとかないとか。とにかく小さくて…可愛いい。


「あ、あの先輩、無言で撫でるのやめてもらってもいいですか?」


「はっ!ごめんなさい、つい可愛くて…」


山田さんは顔を真っ赤にして俯きながら小刻みに震えている…何この可愛い生き物…そんな考えが私の頭をよぎる。私と山田さんはお互いコーヒーを買う。私はブラック、山田さんは○県限定超激甘コーヒー、見てるだけで胸焼けしてきそう。


「あの、先輩?なんで抱きついてるんですか?コーヒー飲めないです…」


無意識って怖い、と言うかそんな行動を無意識でさせる山田さん…可愛い。


「ご、ごめんね、より…山田さんがあまりにも可愛くて。」


「もう!それから依子でいいですよ、先輩だから特別ですよ!」


プクーっと頬を膨らませて顔を赤らめている。貴志の前だとスキも見せないような凛として上品に振舞っているだけなんだなと思った。


「先輩、あの先輩って…あ、やっぱりなんでもないです。」


「え?なに?どうしたの?」


「先輩って竹本先輩と仲いいですよね?やっぱりお付き合いされてるんですか?」


私は飲んでいたコーヒーを吹きそうになる。その反応を見てよりちゃんは目を輝かせる。


「やっぱり!そうなんですね!私はわかってました!」


「ちょ!よりちゃん声でかいから!!」


「あ、すみません。内緒なんですよね?」


「ま、まぁだからよりちゃんも内緒にしてね。」


「ふふん!私こう見えて口は固いから安心してください!」


「ありがとう、よりちゃんもしかして…貴志のこと好きだった?」


「へ?好きですよ?あ、でも恋愛対象ではなくて、人として尊敬出来るって方の好きです。」


「そうなんだ、なら今度よりちゃんに口止め料として何かお礼しないとね。」


「なら…さい」


「ん?なぁに?よく聞こえなかった。」


「今度一緒に心霊スポット行ってください!」


私の頭の中はなぜ彼女が心霊スポットに行って欲しいのかと言う謎で頭がいっぱい『?』で埋め尽くされた。


「え?あ、うん?」


「約束ですよ!」


よりちゃんはまたはしゃぐ。可愛い…さすがマスコット、っていうか心スポの約束…


「実は先輩って…」


「わたし?」


「霊感ありますよね?」


何を言っているのかよく分からない私は『ん?』と言う反応をした。私に霊感なんてあるわけない。というか霊なんて見た事…最近2回だけ見たっけ。


「いやいや、私に霊感なんて無いよ?」


「え?先輩気付いてないんですか?というかなんで頬擦りするんですか?」


よりちゃんは『むぎゅう』とか言いながら話をしている。もうなんだろ?無意識だけどもう無意識に委ねようと決めた。


「気付いてないと言われても私に霊感なんて無いし。」


「私、実は霊感あるんですよ。で、先輩って異常な霊感の持ち主で…分かるんです。」


信じない、よりちゃんを信じないのではなく、私に霊感があるなんて絶対に信じない。


「最近、女の子の幽霊と合いませんでした?背はこれくらいでこんな格好してて、で多分こんな所に…」


よりちゃんはあの子の事をテーブルに置いたメモ用紙に書き始める、背丈や髪型、服装まであの日見た女の子と一致している。


「ちょ、よりちゃん…なんで分かるの?」


「ですから、私、霊感あるんですよ。先輩の横で女の子がにこにこ笑ってるんです。って頭撫で…もういいです。」


よりちゃんも私の無意識な行動にはもう諦めたようだ。誰にも話していないあのこの話知ってるし…


「えぇ?!よりちゃん…そうゆう人ってほんとにいたのね。」


「すんなり信じるんですか?」


「そりゃ、誰にも言ってないあの子の事言われて、信じない方が無いでしょ?」


「ま、まぁ、で、約束ですよ?心スポ!絶対ですからね!」


よりちゃんは目を輝かせて行きたい心スポをリストアップしていく。なんで霊感少女?の癖にこんなに行きたい心スポがあるのよ!


「あれ?犬神さんにや、や、山…さん?なんで心スポリストアップしてるの?」


「竹本先輩!!山田ですよもう!」


「あ、竹本さん…ちょっと助けて。」


「なになに?」


「よりちゃんが心スポに行きたいと…貴志にも責任があるから。」


「ちょっと、山田さんの前だよ!」


「よりちゃんにはもうバレました。と言うか、あの子の事知ってたのよ、ほら。」


私は貴志によりちゃんが描いた絵を見せた。


「これ…山田さんが描いたの?」


「そうよ、何も言ってないのにスラスラと描いたの。」


「先輩…実はその子が今、先輩と竹本先輩の間でにこにこ笑ってまして…」


「あぁ…山田さんは見える人なのか。」


よりちゃんは黙って頷いた。


「で、多分あの子の姿見て貴志と私が付き合ってるのバレました。」


よりちゃんはまた無言で頷く。


「そっかー…」


「竹本先輩!大丈夫です!私、誰にも言ったりしませんから!」


「貴志、よりちゃんの事信じましょ。」


「うん、わかった。よろしくねよりちゃ…山田さん」


貴志は私につられてよりちゃんと呼ぼうとしてハッとしてすぐにいい直していた。


「竹本先輩もよりちゃんでいいですよ、私も貴志先輩って呼びますから。いいですよね?ね?」


「お、おう、よろしくね、よりちゃん。」


「はい!貴志先輩!」


「で?なんで心スポリストアップしてるの?」


私とよりちゃんは一通りの事情を説明すると貴志はリストを手に取り、ひとつの場所を指さした。


「よりちゃん、早速だけど…今週末暇?」


「え?あ、はい、特に予定は無いので。」


「じゃ、ここ行こう。」


そうして指を指したところを見ると『生魚』と書いてある。今週末って両親と食事行ったあと用事があるって…マジか…


「行きます!行きたいです!」


「よし!じゃあここで待ち合わせでいい?」


「はい!じゃぁ貴志先輩、レイナ先輩よろしくお願いしますね!」


手をブンブン降って去っていくよりちゃんを見て私は思った…私も行くのか…


「と言うわけになったからレイナも覚悟しときなよ?」


そう言って貴志はニヤリと笑う。心スポとか私は好きじゃないんですけど!!もー!!

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