第4話 ママブ湖の吊り橋

「さぁ着いたよレイナちゃん、ちょっと行ってくるから待っててね。」


「ちょっと待って貴志くん。」


「ん?なに?」


「こんなくらい場所に1人で待ってるなんて無理なんですけど!!」


「えー?そう言われてもー…」


今私たちがいるのはママブ湖の吊り橋に行く入口付近。駐車スペースがある場所だけど、辺りには一切民家もなくて光なんてものは何一つ無い場所。車のエンジンを切ってライトの明かりが消えると運転席に居る貴志くんの顔すら分からなくなるくらいに漆黒に包まれる。


「1人でいるなんて無理だよぉ…ねぇ、今日は帰ろうよぉ…」


「いやぁ…せっかく来たんだし…ねぇ…」


ほんとにこの心霊オタクはぁぁぁぁ!!か弱い女の子が怖がってるんだから帰れよぉぉぉぉ!!


「んーーーーもう!わかったわよ!私も行くわよ!!」


「え?行くの?」


「こんな所に1人で残される方が怖いの!ばか!」


「あ〜、うん。そうだねごめんね。」


「許さない…許さないんだから!今度美味しケーキのお店奢りなさいよ!!」


「わかったわかった。」


こうしてまた心霊スポットに行く事になった。

確か光ちゃんの話だと人が橋から飛び降りたって…んー、どうなんだろ?


「どうした?難しい顔して。」


「光ちゃんの話だと人が飛び降りたって話でしょ?ここの曰くってそんな話なの?」


「ここ?いや確か違ったかなぁ?あ、でも自殺の名所でもあるからそんな霊もいるかもしれないな。」


「え?じゃぁ別の曰くがあるって事?」


「そうだよ、確かよく言われるのは、吊り橋の中央付近で恋人と友人に騙されて橋から投げ落とされた女性の霊が現れるっていうのが有名かな?」


「え?何それ…最悪じゃん…そんなんで殺されるとか…。」


「あ〜、レイナちゃん、幽霊に同情とかはしちゃダメだよ?連れて帰っちゃうよ?」


「え?!やだ!連れて帰りたくない!」


「今回は別に何があったから来たって訳じゃないけど、体験した人がいるなら真偽を確かめないとね。だからってもし幽霊が見えても同情するのはダメだよ。」


「わかった…」


「じゃぁ、早速いこうか。道が悪いから気を付けてね。」


私達は車を降りてママブ湖の吊り橋入口という看板の前にたつ。2人で懐中電灯を照らしているが、照らされたところ以外は真っ暗で、何が出てくるか分からない。看板横に小さな下にくだる場所を見て貴志くんが指をす。


「ここから下に降りていくんだ。」


「うん。」


砂利の上に急な下り坂で人1人が通れるだけのスペースしかない坂道を転ばないように降りていく。幸いにデニムパンツとスニーカーだったから何とかなったけど…ヒールとかサンダルだったら絶対に歩けない道だよねここ。坂道を下ると少し広がる場所に出たけど、2人で横に並ぶのはやっぱり難しいかな。ゴツゴツした岩や整備されていない道、なんでこんな先に吊り橋なんて作ったんだろ?道のすぐ横は崖になっていてその下には湖がある。ふっと想像してしまった…知らない誰かの水死体を…。想像だけでも怖い、私は着いてきたことに少し後悔する。


「レイナちゃん大丈夫?」


「大丈夫じゃない。」


「そっか。」


貴志くんは素っ気ない返事をした後に、私の右手を貴志くんが握った。一瞬ドキッとしたけど安心もした、誰かが一緒にいるって言うだけでこんなにも安心するのかと思うほどに。


「この先の道ほんとに危ないからいっそう気を付けてね。」


「うん…って貴志くんここ来た事あるの?」


「うん、何回か来てるよ。」


通りで道に詳しいはずだ、まっすぐ来た道からいっそう危ないって言ってた場所は急に右上がりの崖になった。崖側には申し訳なさ程度の鎖が着いているけど、私でもわかる、転んだらこんな鎖なんの意味も無いという事くらいは。慎重に慎重に崖を昇る、少しの上り坂なのに砂利になっているため凄く怖い。手すりもない、捕まる場所もない、本当に転んだりしたら命の危機がすぐ目の前にある。


「レイナちゃん、見えてきたよ。」


鬱蒼と茂っていた木々の間から人工物とわかる巨大な鉄の棒が2本突き出ていた。こんな巨大な物をどうやってここまで運んだんだろう?と思うくらいの大きさだった。


「ここが吊り橋の本当の入口だよ。」


貴志くんが懐中電灯で吊り橋の入口を照らすが吊り橋の出口には光が届いていない。なんでも貴志くんの持つ懐中電灯は通常の懐中電灯よりも明るいヤツでお値段もかなり張るものだとか、確かに照らされている場所は綺麗にはっきりと見える。車のライトなんかよりも明るいんじゃないかって思うくらいだけど、そのライトの光も出口をてらせないくらい長い橋だとわかった。


「た、た、た、貴志くん…ホントに行かなきゃダメ?」


「もうここまで来たんだから…ね?」


「う、うん…」


貴志くんの手を私はギュッと力強く握った。ふっと私の持つ懐中電灯が照らし出したのは…命の看板だった。『受け継いだひとつの命大切に』ここで見ると凄く深い言葉に思える。

ゆっくりとゆっくりと吊り橋を進んでいく、橋の中腹にかかる少し手前にある物を発見する。

吊り橋はしっかりとしていて橋が落ちるなんて事はまず無いと思う、橋の両脇は2m位の金網が着いていて簡単な飛び降りることも出来ないが、金網をよく見ていると所々くぼみがあるのに気がついた。


「ねぇ貴志くんこれって…」


「うん、多分そうゆうことだと思うよ。」


貴志くんも私と同じ事を思ったに違いない、このくぼみは…飛んだ人の最後の力を入れた証なのだと、力強く片足で金網を蹴りつけたのだと想像した。中腹まで到達すると貴志くんが急に立ち止まった。


「レイナちゃん、多分この辺が筑紫さんの言っていた人を見た場所なんだと思う。」


「うん…」


「どう?何か見たり感じたりする?」


私は貴志くんの影から出口の方を見て見ると…何かが動く気がした。


「…あ」


私のその反応だけで貴志くんが身構える。何かいる気がするけど何かは分からない。中腹まで来たお陰で懐中電灯の光が微かに出口を照らす…何かがうずくまりうごめいている様に思えた。しかもは少しずつこちらに向かって来ている気がした。


「なにか見えてる…よね?だよね?」


私は声に出さずに頷いた。この間の女の子とは違う明らかにアレはヤバいと何がが警告して来るように全身に鳥肌がたつ、ヤバいヤバいヤバいと頭の中で連呼する。徐々に近づいてくるソレの姿が徐々に鮮明になっていく、昔流行ったボディコンの様なワンピースを着ているが着ているのは人の姿では無い首がねじ切れんばかりにギュッとされており腕が2本…では無く身体じゅうから数十本生えている。大小、細いの太いとにかくたくさん生えている。さらに足も無数生えている。ハイヒール、パンプス、ロングブーツ、スニーカー、革靴、男物、女物、色んな靴を履いている。顔は…ひとつの顔に何十何百と小さい顔が生えている、それも男、女、子供、大人、老人…それぞれが何かを叫んでいる。


「レイナ、歩けるか?」


「ど、どうしよう、足がすくんで…」


あれがこっちまで来るにはまだ時間がある様な気がした、色んな足で色んな方に行こうとしているから上手く歩けていない。でも私も足がすくんで歩けない…このままじゃ…


『おい!』


誰かに呼ばれた気がして後ろを振り返る。が誰も居ない、それが幸いしたのか足のすくみが取れた。足を1歩踏み出した私を見て貴志くんが

橋の入口に向かって私を引っ張りながら歩いていく。この時間が数分だったのか数十分だったのか覚えていない。とても長く感じたし、一瞬だったようにも思える。橋の入口まで戻ってきた私達は後ろを振り返るとそこにはもう何もいなかった…アレはなんだったのだろう…来た道を貴志くんと一緒に戻る、行きは貴志くんが先頭だったけど、帰りは私が先頭になった。アレが来た時に貴志くんが何とかしてくれる見たいに思えた。


駐車スペースに戻ると車に乗って直ぐにそこを離れた。いちばん初めに出てきたコンビニに車を停めると貴志くんが無言で車を出ようとしたのて彼の服を引っ張り引き止めた。


「大丈夫、コーヒーでも飲もう。」


そう言って貴志くんがコーヒーを買ってきてくれた。


「「ねぇ…」」


二人の声が重なった、私も貴志くんも一息ついた事で、ある程度話がまとまったようだった。


「アレ…なんだったのかな?」


「アレは…あそこで亡くなった人達の集合体だと思う。」


「うん…」


「色々な思いかま集まって重なって吸収して吸収されて…また集めて…いわゆる化け物というやつなんだと思う。あの人が助けてくれなければ…ごめんな、怖い思いさせて。」


あの人?あの場には私と貴志くんしかいなかったはず…


「ちょっと待って!あの人って誰?!あそこには私と貴志くんしかいなかったじゃない!」


「え?!いたじゃん!30代位の男の人で口髭生えた短髪の人!」


「え?」


「おでこに傷がある人…レイナちゃん?」


「お、お父さん…それお父さんだよ…」


私の父は私が幼い頃に亡くなった…死因は事故死、居眠り運転の車が私達家族に向かって突っ込んできた。私とお母さんを守るために自分を犠牲にして私達を助けてくれた、その時出来た傷がおでこにしっかり刻まれていた。


「そっか…今度2人でお墓参り行こう。お父さんに助けて貰っちゃったしね。」


泣く私を貴志くんが抱きしめてくれていた。無言でうんと言った私の頭を、誰がゲンコツしたような気がした。お父さん、今度私が好きになった人とお墓参り行くね。


こうしてママブ湖の心霊スポット体験が終わった。後日に貴志と2人でお父さんのお墓参りに行った。お墓参りをしている時にまた頭を触られた気がした。今度は優しく撫でられた様に思えた…

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