第2話 満天隧道
初めての心霊スポットに怖さしかない私は竹本くんにしがみつき、暗い山道を歩いていく。
「た、た、た、竹本くん、ほんとに行くの?」
「何を今更、もうすぐそこが満天隧道ですよ。ちなみにひとつ確認していいですか?」
「な、なに?」
「犬神さんって...霊感あります?」
「霊感なんて無いけど?今まで見たことないし。」
「そっか...」
竹本くんは残念そうな顔しながらトンネルに向かって歩いていく。
真っ暗な街灯もない一本道の山道を懐中電灯ひとつでゆっくりと登っていく。テレビで紹介された場所なら興味本位で来る人がいても何ら不思議では無いのだけれども、周りは虫の鳴き声しか聞こえない。時折吹く風が木々や草を揺らすと、なんとも言えない恐怖感を演出してくれる。更には聞いたことない何かの鳴き声がする度に私はびくっとなりその振動が竹本くんに伝わる。もし、こんなところで何かに、誰かに襲われたら…と考えると更に怖くなる。
「犬神さん、あれが満天隧道だよ。」
竹本くんが持っていたライトで満天隧道を照らした。トンネルの中は天井に数個だけライトがつけられているが、電球が切れているのか何ヶ所か消えていたりした。それがまた不気味さを引き立たせる。ほぼほぼ使われていないのだろうか枯れ草が道の上に広がる、テレビ撮影なんかは多分だけど、数ヶ月前に収録しているはず、って事はその後はほとんど誰も来てないんだと地面の状況でわかった。と竹本くんが言っているのを聞いていた。
「犬神さん、どう?」
「ど、ど、どうって?怖いです。」
「いや、それは見たらわかる。女の子入る?」
「目をつぶってるから分かりません。」
「はぁ...目を開けてみて。」
私は恐る恐る目を開けてみた、真っ暗な空間にポッカリと空いた口がトンネルの入口だとすぐに気がついた。長年雨風に晒された入口の壁は苔か生えて時代を感じさせる、薄暗く光るトンネル内のライトはテレビで映された光景に間違いない。一瞬で恐怖が体を駆け巡る、ここからすぐにでも逃げ出したい。なんでこの人は平然としていられるんだろうか。私は震える体でトンネルを見ると入口のすぐ横に体育座りする女の子を見つけた。
「あ、あ、あ...」
「いたの?どこ?」
「入口の右側に体育座りしてる...」
「そっか、俺には見えないから間違いないね、幽霊だ。」
一緒頭で理解ができない、いや、理解が追いつかない。私には見えて竹本くんには見えていない、ちょ、ちょっと待って私には霊がみてえいるってこと?どうしたらいいの?叫んで逃げようとした時に竹本くんに止められた。
「今は怖いかもしれない、叫んで逃げ出し気持ちもわかる。けど、お願い、犬神さんにしか出来ないんだ。俺が傍にずっといるからその子の所まで行こう。」
「だ、だめ、幽霊だって分かったら怖くて行けない。ねぇ、もう帰ろう。」
「頼む、なんでもお願い聞くから。」
「そ、そんなこと言われても...」
今にも逃げたしそうな私を抱きしめて竹本くんが私をなだめるように頭を撫でる、普段ならぶっ飛ばしてるだろうけど、何故か落ち着く...
「ねぇ、お兄ちゃんお姉ちゃん。」
急に横から声をかけられて私は声のした方を向いてしまった。そこにはあの女の子が私のスカートをクイクイっとしながら引っ張っている。どことなく汚れたバサバサの髪、光をなくした瞳、箇所箇所で崩れ落ちている顔の皮膚、不安定な輪郭で浮あがる全身、間違いなく生きている人間では無い。
「ねぇ、お兄ちゃんお姉ちゃん。ここで何してるの?」
声は聞こえるけど口が動かない、なんとも言えない恐怖感に竹本くんの方を目だけ動かして見ると、竹本くんの顔にものすごい汗が着いていることに気がついた。竹本くんにも見えている?そんな事が頭をよぎった。
「ねぇ、ねぇってば。見えてるんでしょ?」
そう言われた時に私も竹本くんもビクッと体を震わせる。間違いない竹本くんにも見えているんだ。
「ねぇーえー、なんで何も言ってくれないの?」
「ご、ごめんな、初めてだからびっくりしちゃったんだ。」
女の子の言葉に竹本くんが反応する。
「そっかー、やっと話できる人来てくれたー」
「君は、なんでこんなところにいるんだい?」
「んとねー、わかんないw」
「分からないかー、実はねこのお姉ちゃんがね君が見つけてって言ってたのをテレビで聞いて、今日君に会いに来たんだ。」
竹本くんは冷や汗をダラダラ流しながら幽霊の女の子と話をする、私は竹本くんに抱きつかれた状態で身動きが取れない状態のまま恐怖に呑まれないように必死に意識を保つようにしていた。
「君は何を見つけて欲しいんだい?」
「んとねー...私を見つけて欲しいの。」
「私を見つけて欲しいって...俺はどうしたらいい?」
「私ね、お母さんのところに帰りたい。でもね、知らないおじちゃんに殺されてトンネルの壁に埋められちゃったの。だからね帰れないの...お母さんに会いたいよぉ...」
女の子はその場にしゃがむとえーんえーんと泣き始めた。その瞬間竹本くんの力がスっと抜けた感じがあった。竹本くんは不安定になっている女の子のそばにしゃがむと頭を優しく撫でる。本当に撫でられているかは分からないが撫でる仕草をしていた。
「そっか、ごめんな気付けなくて。」
「ううん、来てくれて、見つけてくれてありがとう。」
一瞬女の子が笑ったように見えた、さっきまでよバサバサの髪、剥がれ落ちた皮膚、光を失った瞳ではなく、可愛い可愛い女の子の笑顔で笑ったように見えた。女の子は空中をスキップするようにトンネルに向かうと、こっちこっちと手を振るとトンネルに入ったすぐ右のところで立ち止まり、バイバイと言って壁の中に吸い込まれて行った。多分ここに女の子が埋められているんだと瞬時に理解する。私は震えもとまり、竹本くんに手を引かれ女の子が埋められている場所の前で壁をじっと見る。
「さて、どうするか…」
「うん...」
「何かいい方法はないかな?」
「警察に連絡したら?」
「いや、無理だな。」
「ここに女の子が埋められているのわかったんだから素直に話したら?」
「よく考えて、女の子の幽霊にあって教えてもらいましたって言ってみ?頭のおかしい奴って思われておしまいだよ?何か証拠みたいなものでもあれば...」
「そうだよね...ねえ!これみて!ここ!亀裂が入ってる!」
私が見つけた亀裂は少ししか入っていない亀裂だったのだが、竹本くんのライトでテラスの亀裂の中に真っ赤なスカートの裾が少し見えた。
「レイナちゃんナイス!」
竹本くんはすぐに警察に電話で連絡すると、私にお礼を言った。
「ありがとう、もし犬神さんが居なかったらあの子はこの先もずーっとこのままだったと思う。俺も初めてのことで少し動揺したし君に怖い思いさせちゃったけど...」
あれ?レイナちゃんって呼んだよね?でも直ぐに戻した...まぁいいか。
「ううん、私が行くって言ったんだし、まぁこんな事になるとは思わなかったけど...でもあの子の最後の顔みた?」
「綺麗な顔の子供らしい笑顔だったね。」
「うん、だからね、来てよかったんだと思うの。怖いのは怖いけどね。」
そんな話をしているうちに2人の警察が到着したので事情を説明して亀裂の場所を教える。1人は亀裂の場所から無線で何処かに連絡していた。
「すみません、お話よろしいですか?」
もう1人の警察官に話を求められた私達は素直に話に応じる。
「君たちさー、心霊スポットなんか来て肝試しっていう歳じゃないでしよ?なんでこんなとこ来たの?」
「え?ここ心霊スポットだったんですか?初めて知りました。彼女とドライブの帰りに近くを通ったら女の子の声がしたんですよ、時間も時間ですし、当たり見回しても誰もいなかったんでそのまま帰っても良かったんですが、何かあったらやだなーって彼女と話して少しだけ調べてもいいかな?ってなったらあれを見つけたんですよ。な?レイナ?」
「え?あ、うん。貴志の言うとうりです。」
「そうだったんですか、決めつけてしまってすみません。先日もテレビでここを心霊スポットって紹介していたので、その影響かと。」
良くもまぁ口が回るよね。警察には一通り説明して私達は連絡先だけ教えて帰ることになった。
「ごめんね、咄嗟に呼び捨てしちゃって。」
「え?あ、ううん」
「犬神さんが合わせてくれて助かったよ。」
「犬神さんに戻すの?」
「え?あ、いや...ありがとう、レイナちゃん。」
「ん、貴志くんもお疲れ様。」
私達は車の中でちょっと照れながらも、今日あった出来事について色々と話をしながら帰った。元々仲が良かったけどまた少し距離が近ずけた事に嬉しさも覚えた。
次の日、テレビのニュースで満天隧道で遺体発見のニュースが取り扱われていた。服や残ったDNAから遺体の特定がされ親御さんの所に無事に帰れると知った私はあの子の笑顔を思い出してもう一眠りした。これが私の初めての心霊スポット探索...。
そして、また心霊スポットに行くことになるなんて寝ている私には考えもしない事だった...
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