第1話 Night Bar ~雨を添えて~

ポツポツと雨が降る夜の東京。ここは渋谷。

スクランブル交差点にはたくさんの人で

溢れかえっている。

やはり都会だから、夜でも人はかなり

多いようだ。


都会の街並みはやたらギラギラ輝いている。

そんな街並みとは正反対の薄暗い一本道に

ひときわ小さなBARがある。


装飾品はネオンの明かりがチラホラと。

全体は真っ黒で、周りの建物に少々

置いてけぼりを食らっている。


BARにしては派手ではなく、

お洒落、、、とは程遠い外見だ。

強いて言うなら、、、マフィアのアジト?

みたいな感じだ。


BLACK OPINION。それがこのBARの名前。


そのBARの扉がスっと開いた。


チリーン、、、。


扉についているベルの音と共に

中から女性が出てきた。


メガネをかけており、スタイルは良く、

毛先にパーマがかかった長い焦げ茶色の髪。

ベージュのスカートレースのような

服を着ている。


その女性は扉の真ん中にかけてある

掛札へと手をかけた。


掛札には”OPEN”との文字が刻まれている。


カタッと掛札をひっくり返すと、

”CLOSE”の文字が刻まれた方へと変わった。

そして女性はBARの中へと戻っていった。


チリーン、、、。

バターン、、、。


ベルの音と扉の閉まる音が

雨の降る夜の街へと鳴り響いた。


雨は土砂降りへと変わり、

スクランブル交差点にはさっきよりも

人通りは少なくなっていた。

夜ももう遅い時間だ。


ふと走ってる足音が辺りに響いた。

その足音はBARの方へと近寄ってきている。


雨のせいでよく分からないが

暗がりにシルエットが見える。


どこかの某犯人を思わせる全身黒ずくめ。

フードを深く被っており、

口元にはなんとガスマスクをつけている。

ポケットに両手をつっこみながらBARの方へと走ってきている。


男か女かははっきりとは分からないが

その者はBARの扉の前につくと、

躊躇無くドアノブを掴んだ。


BARの掛札は”CLOSE”のはずだ。


が、その者は店じまいのはずのBARへと

入っていった。



チリーン、、、。

バターン、、、。


ベルの音と扉の閉まる音が

雨の降る夜の街へと静かに響き渡った。



BARの中は外見とは裏腹に、

小洒落た見た目をしている。

全体的に照明は薄暗く、少しセクシーな

雰囲気を漂わせている。



扉を開けたその先にはホールが広がっており、ソファとすりガラスの丸テーブルが

丁度良い配置で置かれている。


ホールの先には、6人くらいが座れる

カウンターがあり、棚には様々な種類の

ボトルが置いてある。

ボトルの種類は豊富にあるようだ。


カウンターの両脇には階段と扉があり、

内装的にはかなり広い造りになっている。



「あら?もう閉店よ?」

と女性の声が。

さっきの女性みたいだ。

カウンターでボトルを拭いていた。


「大丈夫。知ってるさ」

とBARの中へと入ってきたその者は、

ガサッとフードとガスマスクを取った。

覆われていた顔がはっきりと見えた。


気だるげなクマがある目に、瞳は深い緑色。

真っ黒のボサボサ髪で、細身で小柄だ。

カウンターへとその者は近寄った。


「あら!おかえりカクシ!

てか、めちゃくちゃずぶ濡れじゃん!

風邪ひかないようにこれ使って!」

と女性はカウンターの下からタオルを

取り出すと”カクシ”という男に渡した。


「あぁ、ありがとうアイミィ。

それより、、、例の情報を掴めたんだが」

とカクシは濡れた髪などを拭き終えると、

”アイミィ”という女性にタオルを返し、椅子へと腰を下ろした。



「ほんとに、、、?例の、、、情報、、を?」

アイミィは”例の情報”と聞くと、

グッと唾を深く飲み込んだ。


カクシは内ポケットから

1枚の白い紙を取り出し、

指で挟みながらヒラヒラと紙をなびかせた。


「カクシ、、、どんな手段で手に入れたの?」

アイミィは恐る恐るカクシに質問した。


「う~ん、、、

内緒さ~。結構苦労したんだぜぇ~

なんせこれ手に入れるのに2年もかかったからな~」

と軽く誤魔化した。

その割には、瞳の奥は深いことを考えているようだった。


「そう、、、それならそれでいいんだけど、、、

まぁ、無事に帰ってきてくれただけよかったわ!例の情報を掴めるなんてさすがカクシね!」

と大袈裟にカクシを褒めちぎった。


「おいお~い、そんなに褒めても何も

出ねぇーぞー。ところでアイミィ、、、

これをいくらで買う?」

と言いながらアイミィの目の前へと紙を

押し付けた。


「えぇ!?これ身内でも値段発生するの!?聞いてないんですけど!?」


「いやいや、同然のことだろ~

情報を売買したり、依頼として売ったりする

”情報依頼屋”。あんたの仕事だろぉ~」


「そうだけど、、、

えっと、、、例の情報だから、、、

100万くらい?」

とアイミィは苦い顔をしながら絞り出した。


「はぁ!?!?えぇぇええええ!!!?

これを100万だと!?!?

死にかけて手に入れてきたのに~~!?

その値段かよ~~~~!!

安すぎ!!!俺の命安すぎ!!

出来れば1000万だろ~!!」

とカクシは100万という値段に

納得いかなかった。


「1000万!?!?!

バカなの!?!そんな大金払えないわよ!

せめて500万なら許すわ!」


「はっ!500万だと!?

900万でどうだ!!」


「無理よ!!600万!!」


「800万だ!!」


バンッ!!


アイミィは両手でカウンターを叩き、

「なら700万!!これ以上は無理よ!

生活費とBARの経営費もかかってるんだから、、、」


アイミィはため息を着くと、

呆れた顔をし、カクシから紙を奪い取った。


「わかったよ~~

リアルな話はやめろよな~~

反則反則~」


カクシはアイミィの押しに負けてしまい、

値段は”700万”という微妙な額に決まってしまった。


「例の情報なのに~~、、、トホホ、、、

てか、自分で1000万とか言い出したけど

よく考えたら俺も自分で1000万って命の価値決めちゃってんじゃん、、、トホホ、、、

てか、物価上がりすぎだろう、、、

増税、、、クソ野郎、、、トホホ、、、」


社会とは、、、理不尽なものである。



”BLACK OPINION” (ブラックオピニオン)

ここは東京、渋谷の薄暗い通りにある

普通のBARである。

至って見た目は普通BAR。

そう”見た目”は、、、


昼は若い子や学生も来れるような

カフェになり、

夜は仕事で疲れた大人たちが飲みに来るBAR

になる。

昼も夜もお客さんで賑わう憩いの場所。


だがそんな憩いの場所、、、


表向きはカフェ兼BAR。

だが、実際の顔は”情報依頼屋”という所。


世の中には対になる言葉が存在する。

陸と海。

暑いと寒い。

高いと低い、などなど。


それと同様に”社会”にも対になる言葉、

”反社会”という言葉が存在する。



”反社会”とは主に、殺し屋やヤクザ。

詐欺師に、スパイ、そして薬の売買など

表舞台では公に出来ない裏方に暗躍する

職種のことをいう。


そんな反社会で働いているものたちが、

揃い揃って金をせびっては様々な情報を

買ったり売ったり、はたまた依頼として買う。それが情報依頼屋のシステムである。


アイミィはその情報依頼屋という

顔を持ちながらBARの店主も

持ち合わせている。

言うなれば2足のわらじといったところ。



カクシは活動区域は狭いがスパイ活動を

している。

大きなプロジェクトがない限り、普段はお偉いさんの裏事情や浮気調査など公に出来ない

情報やちっちゃなどうでもいい情報までも探っている。

スパイになって約4年が経とうとしていた。



おっと、2人の説明はこれくらいにしておこう。



2人の交渉バトルは幕を閉じ、

BARの中は静かになった。



カクシはフッと息をつくと

「叫んだら喉が渇いたよぉ1杯だけくれ」

とヒートアップしていたせいで喉が渇いた

といった。


「あんたが何飲みたいなわかんないから、、、

う~んと、、、これにしようかしら」

そういうと、棚から左脇にあるボトルを取り出すと、グラスへと注いだ。


「これは、、、チューハイだな」

と1口飲んだ。

フゥと、息を吐いた。


「、、、ジジイじゃん」


「ん?なんか言ったか?」


「何も~~~」


「絶対なんか言っただろう

あ、ところでここ2年で俺が居ない間に

変わったことはあるかい?」

とカクシが問いただした。


「変わったこと、、、」

と上を向きながらアイミィは考え出すと、

思いついたのかカクシの方を向いた。


「強いて言うなら、、、

政府とガヴァメントの動きが活発になった

ことじゃないかしら?

選挙も近いし、この頃朝とお昼によく

メガフォン片手に道端で演説してるわよ」

と答えた。


「やつらの動きが活発に、、、

最近までは大人しかったのに、急に活発に

動き出したのか、、、でもどうして」


「もしかしてだけど、、、

あんたが調べた例の情報、、、

やつらにバレたんじゃないの?」


「いや、そんなことは無いはずだ。

そんなヘマは絶対にしない」

と強く言い放った。


「ふ~ん、それならいいんだけど、、、」

とアイミィは半信半疑の様子。


「スパイは誰にも見られず、知られず

情報を集める。

上のやつらの情報は全て必要だからな、、、

俺は絶対に痕跡は残さない」


「、、、なんかカッコつけてんの~」


「うるせぇ!!、、、」


そしてカクシは最後のひとくちを飲み干すと

席を立った。


「俺はもう疲れたから寝るよ」

そう言ってカウンターの横にある階段を

登っていった。


バタンと扉の閉める音が聞こえ、

BARの中は食器が擦れる音だけが

響き渡っていた。


「でも、、、生きて帰ってきてくれたのなら

それでいいわ」

とアイミィはひとりでに優しく微笑んだ。


すると、

食器を洗っていたアイミィの手が止まった。


「もしかして、、、これからやばい事に巻き込まれてしまうかもしれないわね」

とぼそっと呟いた。



カクシは自室に戻ると、

ボフッとベッドへと横たわった。

窓からさす月明かりがカクシの顔を照らした。


髪をかきあげると、

「やばい事に巻き込まれそうだな、、、

はぁ、やるしかないのか、、、

めんどくさ、、、」

とつぶやき、目を閉じた。


月明かりは暗闇へと吸い込まれていった。







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