第29話 想定外の物語

 突如、侵入不可エリアの水が沸き立つ。


「うわぁー急に何か起きてますよぉ?!」


 梨奈が叫ぶのも無視し、俺は自分の身を守る為に片膝を着いて警戒をする。


「戻ってきた方がいいかもです!」


 ユナの言葉は最もだ。だが、俺は片膝を着いた時に既に確信していた。

 と。

 これまで長いことダンジョンに潜ってきた俺だが、こういった不可思議な現象にであったことは無かった。

 そしてこう言う時は大抵何かしらのレアイベントが待ち受けている物だ───と、昔読んだラノベに書いてあった。


「……いや、待ってくれ。多分だが、何か凄いことが起きる予感がして────うぉぉぉぉぉお!!?」


 地面から突如、巨大な穴が出現した。

 それは深すぎて底すら見えない。


「ッ!?悠雅さん!えぇぇい!強制的にこっちに引き寄せます!グラビティ!!!コーール!!って嘘ぉぉぉ!!!」


「わ、私も巻き添えられてます!?」


 ユナが慌てたように俺を引き寄せようと重力を使用したが、そんなのお構い無し……どころか、その場にいたユナも梨奈も諸共引きずり込まれていく。


 まるでブラックホール、だな。

 俺は至って冷静そうな表情を保ちつつ、穴の中に落ちるのであった。


 *

【性癖スレ】おまいらの性癖、教えろください。

 _________________________


 254:名無しの冒険者

 そう言えば、昨日川越ダンジョンで行方不明事故があったらしいけど、知ってる?


 255:名無しの冒険者

 知らん!どーせ無名の奴だろ?ってか川越ダンジョンで死ぬとか弱すぎるだろそいつ


 256:名無しの冒険者

 >>221

 アホか?ドラゴン娘の可愛らしいところは微妙に鱗が無い場所のテカリ具合だろうが!こんなことも分からないのかよ!


 257:名無しの冒険者

 >>244

 スライムで致すと高確率で死ぬぞ?あれ確か毒が体内にあるんだぜ?


 258:名無し冒険者

 >>254

 スレタイよく見ろーここは時事ネタ速報じゃねぇぞー!性癖を語り合う場所だぞー!


 259:名無しの冒険者

 >>254

 ってか誰が行方不明なん?


 260:名無しの冒険者

 確かユナ……が居たとか何とか


 261:名無しの冒険者

 まじ?あのユナ?……あいつならいいんじゃね?


 262:名無しの冒険者

 >>261

 言うなよんな事まぁ確かにユナとか話題にすらなってないあたり、だよな


 263:名無しの冒険者

 だからスレタイよく見ろバカ!


 _________________________


【クローシス・フルフェイス視点】


「ふうむ、アレが起動したか。……参りましたねぇ、全く。だがンン────まぁいいでしょう」


 がりがりと机をペンが傷つける。

 そこには、普段の彼の余裕はあまり無かった。


「──────想定外、想定外だ。このまま行くとアイツらあそこに着くぞ。……というか早すぎる。チッ、本当に早すぎる」


 万年筆がへし折れ、机の木くずが舞い散る。


「クソ。どうしたものか、俺にはもうアイツらの行方を見る方法がないというのに」


 だがまぁいい。

 そう不敵に笑うと、クローシスはペンを地面に投げ捨て、完璧に砕いた。


「……アイツらはこの計画の邪魔になるかもしれなかった。それを一旦排除出来ることはこちらにとっては、メリットだ」


 こうして、またひとつの計画が始動する。

 それはきっと────想定外の物語なのだ。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【結論】どうやら俺はボス戦だけが出来ないらしい。〜《無称号》と笑われていますが”そもそも”挑めないだけで最強ですが? ななつき @Cataman

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ