第17話 ガールズトークに男は要らぬ
「とりあえずダンジョンから出るぞ。 んと、少し失礼」
俺はそう言うと、座り込んでいたユナに背を向けて乗るようにと伝える。
要するところ、おんぶと言うやつだ。
「え、ええっ?!ワタ、わたしは一人で歩けまふ……んむむ、歩けますからっ!」
若干噛みながらユナはそう言うと、そつなく立ち上がろうとして……。
「きゃっ?!……ッ」
そのまま倒れそうになる。
それを俺は咄嗟に片腕で支える。
「───あまり無茶は良くないぞ。 特にその体の傷はしばらく休まないと治らないだろうしな。 それともおんぶは嫌だったか? となるとお姫様抱っこしかないんだが……」
「お、おんぶで大丈夫ですッ!!」
「そうか。 んじゃあ帰るか」
そう言うと俺は背中を差し出す。
少し躊躇いがあったあと、俺の背中にずっしりとした重みが伝わってきた。
同時に少し柔らかい肉厚な何かの感触と、温かな吐息が耳をくすぐる。
……これは前回梨奈を抱っこした時にも思ったことなのだが、女性にはどうにも脆さを感じてしまう。
軽く握りしめるだけで壊れてしまいそうなそんな繊細な肉体と、その中に複雑怪奇に入り組んだ心を併せ持つ女性という存在は……うむ、どうにも理解に時間がかかりそうなものだ。
なるべく背中の彼女を揺らさないように、慎重にダンジョンを出口に向けて走る。
何となく梨奈から敵意というか殺意のようなものが混じった視線を向けられている気もしなくも無いけど、まぁ仕方の無いことだと思う。
*
「…………あとで私もおんぶを……なんでもないですっ!」
「そっか。 あと少しだぞー。 よし、ゴール!!お疲れ様だ。 すまんな、こんな見知らぬ男の人の背中に乗せることになってしまって。 多分匂いとか、ちょっと不愉快だったかもしれないけど、ソレはごめんな」
「い、いえいえ!!わたしこそ、ありがとうございますです! あんな所で一人になってしまったわたしは、もう死ぬしか無かったはずです。 それを助けてくださった王子様……例えどんな人間でも嬉しいんですから!」
微笑みが可愛らしい子だと俺は思った。
*
「風呂入ってきな。 そしたらご飯食べて、まぁ明日からの事は明日考えようぜ」
ダンジョンから出たあと、俺はユナのことを梨奈に託して一人部屋に戻ってベッドに寝転ぶ。
久しぶりに一人になったことで、ここ数日間の思い出がしっかりと頭の中に巻き戻ってきた。
「……まぁなぜ梨奈が俺の事を覚えてられるのかは分からないけど、案外楽しいな。 人と関わるのも」
久しぶりに他人と、それも女子と関わった事を振り返りながら、俺はにやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「これってやっぱりハーレムだよなぁ……うへへ、まさかの俺にも春が来たってことかよ?」
……自分で言っていて、気持ち悪さのあまり鳥肌がぞわりと沸き立った。
そうだ。
────浮かれるな、俺。
浮かれきった後に、彼らに忘れられた時が1番辛いんだから。
やっぱりドライに相手をするべきな気がする。
明日彼女達が自分を覚えてくれているのか、定かじゃないわけだし。
……下手に親しくなりすぎると、別れが辛くなるのは俺自身がよく知っていることなのだから。
*
いつの間にか真夜中になっていた。
隣の部屋では、キャッキャウフフと2人の女子がガールズトークで盛り上がっている。
ソレは良い事だ。
だからこそ、その中に入る勇気は俺には無い。
あそこは楽園なのだ。
男が入ったらきっと破綻する神聖な場所なのだから。
「────はぁ。 コーヒーでも入れながら外をほっつき歩いて……やめよう。 過去に不審者呼ばわりされたことがあったんだった」
それでも、彼女らが幸せそうに会話して盛り上がっているのを、邪魔しないようにそっと俺は外に出る。
心地よい夜風が、入れたコーヒーの熱を程よく冷まし、飲みやすくしてくれている。
「───にしても、ダンジョンの中で一体何が起きているんだ? この数日、ずっと胸騒ぎが収まらないんだが……何か、最悪の事態が近づいている予感がするぞ」
気持ちの良いはずの夜風にも、嫌な気配が僅かに紛れている。
ねっとりとした、甘ったるいソレが。
「……果たして、明日は何が起きるのやら」
疑問符を空に投げかけながら、俺は家の中に戻っていくのであった。
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