第16話 チャンネル登録者

 先程見た戦闘場所に向かう道中、ビル群の至る所に魔法による破壊痕が残っていた。


 そしてしばらく進んだ時、ついに音の主の元に俺と梨奈はたどり着いたのであった。

 そこにいた魔物を一振で斬り倒した俺は……。


「────大丈夫か!!……君は……」


 その子に声をかけた。


 *


【???視点】


 ちくしょう、なんで私がこんな目に会わなきゃならないんだ!

 絶対戻ったらアイツらに復讐してやる!!


 ───なぁんてね。


 はぁどうせ無理よ無理。

 もう私のかつての人生は戻ってこないんだから。


「……チャンネル登録者……もう100人を切っちゃった。 あ、99人に減ったや」


 ついこの前まで自分の自慢できる唯一の取り柄だったものが、今では自分におもしのようにのしかかってくる。


 ……一体どこで間違えたんだろうなぁ。


 わたしは一人ぼっち、何処か分からないダンジョンの中で、魔物と戦い続ける運命だったってことね。

 くだらない、つまらない。


 もう既に魔力は底を尽き、武器はもう跡形もなく砕け散った。

 残されているのは、この身体だけ。

 ……数日前に怪我した結果、その体はそこかしこから悲鳴をあげてミシミシと唸っている。


「!!───まだ魔物がッ……」


 ぼーっとしていたわたしの前に、新たな魔物が現れた。

 オーガ、そう言う名前だったはず。

 でも形が不定形で定まっていなくて、ゴブリンにもオークにも見える。

 ただ共通するのは、ゆうに3mはあって、しかも手に巨大な鉈を持っていることだった。


「……くそっ!!」


 既に4時間は戦闘をし続けている。そしてその弊害がそろそろ私を襲い始めていた。


 魔物が放った攻撃……普段なら避けることは容易いはずのそれを、わたしは回避出来ずに剣で受けてしまったのだ。


 途端、"ベギャァン"!! と火花が散って、私の体は近くの建物の中まで簡単に吹き飛ばされてしまった。


「───まだ、まだっ!?……あ、そ、そんなっ……」


 諦めないように、すぐに立ち上がったわたしは、自分の剣が砕けて柄から下が消失していることに気がついてしまった。


 ……酷いなぁ、神様は。

 わたしが何をしたって言うの?

 ……確かにわたしはSランク冒険者に、運良くなれた。最高に幸運だったよ。


 でもさ、ずっと不釣り合い、その称号は正しくないと非難されてさ。

 それでも、こんな自分を応援してくれる人がいて、尊敬してくれている人が居たから……頑張って足掻いて見せていたのに。


 数日前の配信で、そんな彼らにすら見限られてしまったんだから、もう私に残っている運はないのかもしれない。


「あぁ……神様は居ないんだ。 わかってたけど、わたしは所詮主役にすらなれない────くそぅ……」


 魔物の攻撃が再びわたしを吹き飛ばした。


 体に力が入らない。

 頭の中がちかちかするよ、お母さん……。


 魔物が力無く横たわるわたしの腕を掴んで持ち上げる。

 時折不規則に揺らめく魔物は、様々な顔でわたしを吟味しているように見えた。


 ……助けてよ、お兄ちゃん。怖いよ……。


 だが誰も助けになど来ない。


 ふと、自分のチャンネルを表示するカウンターが視界に表示された。


 そこには、チャンネル登録がという事を表す文字が写っていた。


「あぁ………………頑張っても、意味なんて無かったなぁ」


 やがて、魔物はゆっくりと鉈を振りかぶる。


 わたしはゆっくりと目を閉じる。

 どうせ死ぬならせめて最期は可愛らしく、女の子らしく王子様に看取られて死にたかったなぁ…………。


 なんて、ね。





「……?」


 しかしどれだけ待っても、痛みも、魔物の牙も、体を貫く衝撃も無かった。

 代わりに、目の前には─────あぁ。


「大丈夫か!!……君は……」


 優しそうな男の人がいた。

 そしてその瞬間、わたしは理解した。


 ────「王子様……」


 恋、を。


 *


【悠雅視点】


「お、王子様っ!?」


 助けた女の人がそんな事を言っていきなりうるうるした目でこっちを見てくるのだが?


「先輩、良かったですね! 王子様〜なんて多分きっと私は言わないですからね〜!それよりも、この子怪我してますし、回復アイテムをばんばん使っちゃいましょうね☆」


 慌てる俺を後目に梨奈はものすごく的確に指示を飛ばしてくる。

 ……なので俺は促されるままに指示に従う。


 そうして暫くすると、女性も落ち着いたようだ。


 *


「すみません、ありがとうございました! えっと私の名前は」


「知ってるさ。 篝宮 ユナ。 元Sランク冒険者だろ?」


 そう、そこに居たのはこの前Sランクから降格させられたばかりの、ユナという女性であったのだ。


「……ッ、」


「んん、俺はちなみに君のファンだ。 だから安心してくれ」


「し、信用出来ます……か?」


「信用、信用ねぇ? んー、あ!ちょいと待ってな? 」


 俺はそういうと自分のスマホを取りだし、そして一人のチャンネルを調べる。

 そしてそのチャンネルを登録すると、さらにメンバーシップの加入ボタンを押す。


「……ほいっと。 お待たせ、コレで信じてくれるかな?え、信じれなさそう? じゃあ赤スパとか投げ────」


「先輩、そこじゃないです。( そこは免許証とかギルドカードとかですよ!)」













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