第15話 ダンジョンの異変
その後、日課のダンジョンに潜ることになったのだが……。
「──────んんむ、わたし的にいまいちな予感がします。 なんとなくですけど、回復アイテムを多めに持っていくべきな予感☆」
「お、おう? まぁ人並みに持っては行くけど……。 にしてもその……謎の自信は何処から?」
「乙女の感ですよ、先輩!」
「な、なる程?」
そう言いながら、俺はちらちらと彼女の腕を見る。
彼女は例に漏れず長袖を来ており、当然ではあるが腕の傷は見えることは無かった。
そして何より、その内容は触れるべき事なのかよく分からないことであり、もし仮に触れた場合──キモ!なんて言葉が生ぬるい程の罵倒をされる可能性も否定しきれない。
だから俺にできるのは、なるべく気がついてい無い風に装うこと。
……あまり騙すことは得意じゃ無いんだけどなぁ俺。
「先輩! 早く行かないと置いていきますよ☆」
あっという間に彼女は走っていった。
元気なことはいいことだと言う顔をして俺もそのあとを追うことにしたのであった。
*
「……嫌な予感がビリビリしてる。 クソ、なんだか分からねぇけど……」
普段から使っていたダンジョンだからこそ、そこに俺が足を踏み入れた瞬間にその予感がぞくぞくと伝わってくる。
「先輩、魔物来ましたッ!!」
そして驚くことに入ってすぐに魔物が襲いかかって来た。
「いきなり興奮状態? んん? 一旦消し飛ばすぞ──『広範囲殲滅魔法─────!!』」
手の中に即座に展開された破壊の術式が、前方に現れた魔物の集団、その最前列に直撃した。
"ギュウウウウウウンンンン────"
重々しい音が響き渡り、空間が即座に消し飛ぶ。
爆発ではなく、空間そのものに対する破壊をもってしてあっという間に魔物は消えた。
「流石は先輩! やっぱり素晴らしいです☆」
そう言って微笑む梨奈。しかし俺の心の中にはそれでもなお、拭いきれぬ不安がずっとこびりついていた。
*
……ん?
俺はしばらく探索をしながら、魔物を倒して回っていたのだが、そこであるものを目にした。
それは倒された魔物だった。
もし俺の魔法で倒していたのならば、魔物は全部一律素材すら落とさないのだが……しかし何故か素材が落ちていたのだ。
「? 梨奈が倒した魔物?」
「違いますねー。 私、そもそも戦闘能力ほぼ無いですし」
まぁそれは知っている。
ここまでの戦闘に置いて、一度も梨奈は武器を使って戦闘をしていなかったのだから。
「……じゃあ誰のだこれは?」
「さぁ? でもここって先輩の所有するダンジョンなんですよね? なら先輩と私以外が入れるわけなくないですか?」
「ん────んん?じゃあ、前みたいにワープしてきた人がいるって事か?」
「かもです。 でも先輩、今日はそんなニュースは出てないですよ? せいぜいあのユナとか言う冒険者が行方不明になったぐらい───」
「え、あの人行方不明になったの!? ……もしかしてその人、ここに飛ばされてたりしない…………よね?」
突然湧いて出た不安の種が、しずかに花開くのを俺は予感していた。
「さぁ? でも、もしそうなら大事ですよ?」
「……考えたくないなぁ…………。おや、なんかそれにしてもやけに静かだな。 ……なんか嫌な予感がするし、あのビルの上から辺りを見回してみるとするか────梨奈、少し触るぞ」
「へ?」
俺は梨奈を掴むと、そのままはるか上空に向かって飛翔する。
そしてそのまま近くのビルの上に着地を果たした。
「───む、?あれは……やはり誰か戦闘をしているな。 なる程ヘイトが全てあっちに行っていた訳か。──梨奈、どうする?助けに……ぐほぉつ??」
「先輩。 ええ、先輩。 か弱い後輩ちゃんになんて事させるんですか? 普通にぶん殴り案件ですよ? あんな速度でジャンプなんてもう怖くて漏れそうでしたもん!もし漏らしたらもう私、お嫁に行けないことになっちないます! そうしたら先輩が責任取ってくれますよね?」
笑顔ではなく、普通に真顔で怒られた。
……すみません。
俺は謝りつつ、ひとまず戦闘をしている人のところに向けて再び梨奈の体を掴むと────、
「時短の為に行くぞっ!!」
先程と同じように飛び出した。
「──────だからっ!それ、やめてくださいッっていったのにぃぃぃい!!!」
梨奈の悲鳴と共に。
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