第14話 誕生日と傷

「わ、たしの誕生日〜んふふーんふん!はぁ!」


 どうやら急に梨奈が壊れたようだ。多分きっと甘いものの取りすぎだろう。


「……先輩? 私を見て拝んでも何も無いですけど?ご利益とかは精々お金が倍になるぐらいですよ?」


「倍になるのかよ。 すげぇな……あ、いや急に叫んだからてっきり」


「あ、見てたんですね〜流石は先輩! じゃあそんな先輩なら当然ながら私に対する最高の回答に気がつくはずですよ──ね?」


 梨奈はニッコニコである。夜にしてはテンションが高すぎる気もしなくも無いが、それにしてもニッコニコすぎる。


 まぁ少なくとも俺は無難な回答をすれば怒られることは無いだろう。


「──夜に叫ばないようにな? 近所迷惑──痛っったぁ!?」


 拳ではなく、蹴りが飛んできた。

 女子高生にしては妙に鍛え上げられた立派な足から繰り出されたる蹴りは、驚いて身構えた俺の手に綺麗に突き刺さる。


 だが俺も鍛えている側の人間、それもかなり経験値を稼いでいる冒険者なのでその程度の蹴りは簡単に受け止められる。流石は俺。


 "ズドッ"──"フニッ"


 ……フニッ?

 足を受け止めた瞬間、その柔らかさに思わず俺は握りしめていた手を離す。

 というか離さなければ間違いなくこの後死ぬ予感がした。


「───…………素晴らしいですね流石は先輩。 で?女子高生の御御足は柔らかくて気持ちよかったですか? そりゃあ良かったです」


「あ、あの……?怒ってます? 」


 明らかに不満そうに鼻息荒く、梨奈は息を吐き出すと。


「ま、まぁ別に? 私だって高校生ですし、何より攻撃をしてしまったのはこっちですから? 多少揉んだところで気にしないですよ☆」


 なんだ、気にしていなかったのか。なら良かったぁ……。


「そ、そっか。 にしてもいい足だったぞ! 適度な柔らかさ。 やっぱり女子高生の足は別格───めごっ!?」


 お腹にものすごい衝撃を受け、俺は崩れ落ちる。


「──先輩。 人には方便ってものがあるんですよ。 あと配慮とか気遣いとか。 そういった物をしっかりと学ばないとバットエンド一直線ですね☆ 私以外にこれしちゃダメですよ〜ね?」


 う、うん。

 すみませんでした。と謝りながら俺は完全に意識を失うのであった。


 *


 気がつくと時刻は11時58分、つまりは梨奈の誕生日の2分前である。


「────はッ!? 今何時……あぁ良かったぁ! 」


「頑丈ですね☆ 流石は先輩、まさかの1時間ちょいで復帰してくるとは……かなり素晴らしいですよ」


「そりゃどうも。 ……さっきはすまねぇ。 ちょっと魔が差して……」


「もう! 私もちょっとやりすぎちゃったので、そこは不問にしましょう、ね! それよりももうすぐ私の誕生日ですよ!──あ〜クラッカーとか持ってくれば良かったなぁ……」


「誕生日にクラッカーを使うのって動画とかの中でしか見たことねぇけど……」


「ロマンが無いですね先輩は」


 クラッカーは果たしてロマンなのか?と疑問に思わずにはいられなかったが、そんなこんなで誕生日を迎えることとなった梨奈は相変わらず浮かれた様子を隠してはいない。


「………3、2、1!!……ハッピーバースデー!!私はついに18歳! この日をもって私は卒業できるようになったのです!」


 そう叫びながら、飛び上がる梨奈。

 正直そこまで大きなイベントという感じは自分の時にはしなかったので、ちょっとびっくり。


「は、はしゃぎすぎると喉とか痛めるぞ? ほら、お水飲んで落ち着いて」


 俺は何とか鎮めようとしたのだが、梨奈はしばらく嬉しさのあまり飛び上がったり手を振って楽しそうにしたりしていた。

 まぁ止めれる気がしなかった為、俺は諦めて眺めていることにしたのであった。


 *


 気がつくと朝は訪れていた。

 だが目を開けた俺は、そのまま固まってしまう。

 無理もないだろう。


 まず最初に、自分がどんな格好だったのかと言うと素っ裸だったのだ。


 そして隣には、梨奈が眠っている。

 服は幸い着てはいるので、そこまでなにか思うことはないのだが、だがそれでも───


 女子高生の肌を見てしまうのは、果たしてどうなのか?という疑問が頭から離れなかった俺は、なるべくそちらを見ないようにしながら、起こそうとして────、


「………………この……は……?」


 俺は見た。

 真っ白な肌の梨奈の、腕に幾重にも折り重なるように刻まれた傷を。


「……う、ううん、……あれ? 誰…………あぁ……先輩でしたか。 おはようございますね」


 直後に梨奈は目を覚ましたので、俺はすぐに目を伏せる。

 何故だか分からないが不安の虫が心の中にずっと巣食っているような気がして仕方がない。


 とはいえ、彼女にそれを悟らせてはならないと直感的に判断した俺はなるべく何事も無かったかのように取り繕うと─、


「おはよう!我が後輩っ! 今日も覚えていてくれてありがとう!!」


 気持ちの悪いぐらいの笑顔で、空回りしたテンションでそう叫んだ。


「───え、キモ」


 返答はシンプルな罵倒であった。









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