第7話 押しかけ系悪魔的後輩
……夢でも見ているのだろうか俺は。
ひょっとしたら、昨日夜更かししてVTuberの配信を見ていたせいで寝ぼけて幻をみているのかもしれない。
というかそうだろうきっと!
よし、なら夢だな。
”ドゴッ!”
俺は自分の拳を握りしめ、自らの顔面を殴打した。
地面にめり込みそうになるほどの衝撃が俺の脳天を貫き、そのまま俺は玄関の床に這い蹲る。
「……え〜っと、何してるんですか? 先輩」
「ふ───見て分からないのか? ヨガだ。 実は朝から床に寝転ぶと体にいいとおじいちゃんが言っていてな、それを実践していたところだったのだよ」
「へ〜凄いですね、最近のヨガって。 でも私にはどう見ても顔面を突然殴って倒れ込んだヤバぁい人にしか見えてませんけどね?」
ゴミを見るような目で見られた。
……これ以上誤解されるのは割と心苦しいので、仕方なく俺は立ち上がり彼女の前に立つ。
殴った頬が赤くジンジンと腫れ、痛みがずっと響いてはいるものの、割とキメ顔で。
「ハハハ、ジョークだ。 にしてもよく俺の事を覚えていてくれたな、君は」
絶妙にダサいポーズを取って尋ねた。
例えるならゲッツ、もしくはフレミング左手の法則の時の手のように。
「……逆に何で忘れると思ってるんですか? ひょっとして私の記憶力が鳥並だと勘違いしてますか?せ・ん・ぱ・い?」
ぴょこぴょこと彼女──梨奈の髪の毛の上のアホ毛が連動しながら俺に問いかけてくる。
……少なくとも、からかいでは無さそうな真剣な目だ。アホ毛も”
「すまんな。 俺は昔っから人によく忘れられがちでな───だからまぁ癖みたいなもんだよ。 気を悪くさせちまったならごめんな」
「あ〜たしかに先輩、影薄いですもんね。 じゃあ髪の毛にこういうの付けて目立つようにしたらいいんじゃないですか?」
そういうと彼女はどこからともなく風車を取り出し、俺の頭に差し込む。
”からから”と風を受けた風車が気持ちの良い音を頭の上から発している。
「……影が薄いからと言って、風車を頭に刺しても何も変わらないと思うんだが? ひょっとしなくとも君は天然だな?」
「はい、よく言われます! 」
だろうなぁ。
俺は頭から風車を取り外し、そのうえで彼女に尋ねる。
「学校とかは今日は───土曜日だから無いのか」
「はい! ですから私は今日ここに来て───」
彼女が何かいい切る前に、俺は彼女から目線を外すと。
「そっか。 じゃあよい休日を。 冒険協会は土曜日は混むから感染症に気をつけてな。 んじゃ、俺は今から寝るから」
とのたまいながら、玄関の扉を開けて中に入ろうとする。
……ぶっちゃけた話休日は一人で過ごすのこそが至高なのだよ俺は。
「あ、そうなんですね。 じゃあお邪魔しますね〜」
「おい待て。 何普通に家ん中に入って来てんだよっ?!」
「私が入りたいと願ったからですけど? それより、かなりいいお家ですね。 あ、おじいちゃんとおばあちゃんと暮らしてるんですか?この写真から見るに!───じゃあ私、お二方にご挨拶してきますね!」
………………え、え?
俺は怒ったよな。うん、で?……あの女は……自分の気持ちを話してそのまま部屋の中にダッシュで駆け抜けて───しかも家族にご挨拶を?
待て待て待て、
────はっ!?と、止めなければ……多分おじいちゃんとかに誤解されたら色々面倒くさ……
「おお、悠ちゃん……あんた」
何故か嬉しそうなばぁちゃんが居間から歩いてきた。
何故だろう、既に嫌な予感がするんだが。
「……立派な彼女を連れてきて……わたしゃ嬉しいよ。 昔っから女の子に触られるだけで泣いて帰って来とったあの悠ちゃんが……今日は赤飯でも買ってこようかね───」
「か、彼女っ?! ま、待て待て待ておいこら梨奈ぁぁ!!」
俺はばぁちゃんを後目にかけ出す。若干滑る廊下を駆け抜け、そして居間に入る。
するとそこにはおじいちゃんが座っていた。
「───悠雅、ちょっといいか?」
「な、何?じいちゃん……」
普段はニコニコしているおじいちゃんが何時に無く真剣な目をしている。
「……孫はいつ見れるのか教えてくれんか?」
「見れねぇよッ!? 見せねぇよっ!?──ってかあの女はどこに────階段の音、まさかっ!!」
既にここまででやばい予感がしていた俺は、階段の音を聞いて青ざめた。
……2階は俺の部屋がある。
そして、昨日の夜脱ぎ散らかした服とか───R18な本とかが散乱しているのだ。
俺はまるでフルマラソンしている人のような形相で階段を駆け上り、部屋の扉を開ける。
何事も無くあってくれ。という儚すぎる希望的観測を抱きながら。
*
「───────終わった」
ベッドの真上で、ウザったらしい後輩は本を読んでいた。
まるでさも自分の部屋のように足を投げ出して、本を上向けにして。
それだけなら問題ない……か?いや不法侵入&人のもの勝手に使ってる時点で割とアウト寄りなのでは?と普通にツッコミたかった。
まぁ言わずともわかるだろう。
彼女が読んでいた本の種類は──2次元同人誌。
俗に言う抜き本、まぁレーティングはR18なあれ。
そしてジャンルは………………。
「せ〜〜〜んぱい? ひとーーつ聞いていいですか?」
彼女は本を置いて、にこにことした笑顔で俺に尋ねる。
対照的に俺は真っ青な顔面で、震える体を抱きしめながら……。
「な……な、なななな、何でしょう、か……?」
弱々しく、消え入るような声が出てしまったのだが……これはもう仕方ないだろう?
「……好きなんですか? 生意気な後輩系女子が分からされる系の本……あ、この本みたいな奴ですけど」
「………………」
「好きなんですね?」
「……………………」
「す・き・な・ん・です……よ、ね?」
「……………………………………はい……」
心底恐ろしい笑顔だった。
まるで恐ろしい魔物すら、あの笑顔に比べたらただのおもちゃにしか見えないほどに。
*
「ふーん、そっか。 好きなんですね後輩系のエ〇本。 ふーん、ふーん?ふぅーーーーーん?」
「あ、あの……えっと……その、……」
「私は嬉しいですよ? だって私にそう言う感情を持っちゃったってことですよね? でも残念ながら私まだ17歳なんです。 あ、でもちょうど明日誕生日何ですよね────ということで、私この本を読んだことを正当化する為にこの家に泊まります。 ここで誕生日を迎えようと思いました! なので早速ケーキ買いに行きましょう! ダンジョンでも寄りながら!」
そう言ってまくし立てるように梨奈は口に出した。
若干火照った顔を誤魔化すように、少しだけ俺から目線を逸らしながら。
「……あの……土曜日……なんで……その」
「え?何か言いましたか?せ・ん・ぱ・い?」
「……ナンデモナイデス……」
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