第2話 再び会うこと
【──冒険者協会・関東支部】
俺は最寄りの冒険者協会へと足を踏み入れる。
入る前から既にガヤガヤと賑わいを見せていたそこは、冒険者と呼ばれる職業の溜まり場の一つであった。
20年程前、世界各地にダンジョンが出現した時、まっさきに発足したのがこの冒険者協会なのだ。
ガラス張りになったエレベーターに、数人の人間と共に俺も乗り込む。
──ふと、ガラスを見ると自分の姿が反射して見えていた。
素朴で、平凡。
特筆すべき容姿の素晴らしさなど欠けらも無いモブのような自分の姿を見て俺は改めてため息を吐き出した。
はぁ……。もういっその事髪の毛を染めてやろうかな!?
と何度も考えては見たものの……。自分の配色センスの無さが故に髪の色で事故りまくりだったので……結局諦めたのだ。
『次は5階、A・B・Cランク冒険者用集会場です──足元に気をつけてゆっくりとお降り下さい』
機械的な音がして、ポーンとエレベーターの扉が開いた。
数人の冒険者と共に俺は集会場に足を踏み入れるのであった。
*
「すげぇぇぇぇ!!!」「さすがっす!」「すごいな君達!!」
「ふふふ、褒めてくれても良いですよ!!」
入ってすぐに、騒がしい声が響く。
黒髪のトゲトゲベッドな少年が鼻高らかにみんなを煽り立てていたのだ。
そしてその横には、金髪の女性と……おっとりした女の人が並んでいた。
俺は彼らの話が聞こえる位置に腰掛けて、のんびりと耳を済ませるのであった。
それはある意味俺の数少ない趣味だ。
*
「───よっ、Bランクから超高速でAランクに上がった期待の新人カズヤ!!! でもすげえな!……だってあそこのボスに挑むまでの道ってめちゃくちゃ大変じゃ無かったか?」
一人の冒険者がトゲトゲベッドの少年……和也に尋ねる。
すると和也は───。
「あーめちゃくちゃ大変……って程じゃ無かったぜ? なんか分からねぇけど魔物が妙に少なくてさー。 ラッキーだったよな!瑞希!」
そうのたまった。
すると瑞希と呼ばれる女性も、頷きながら答える。
「うん、なんかね、めっちゃ楽だったよ! でも和也がトラップ何個も引きまくってさ……大変だったのよ!?もうモンスターハウスとか2回ぐらい巻き込まれたんだから! 」
「お、俺のせいかよッ! ん、でもさ……楽勝だったじゃん。 あっという間に殲滅出来てさーやっぱ俺達強えんだなぁって思ったぜあん時」
そう言って鼻高らかな和也。その横で呆れながらツッコミを入れる瑞希。
その2人を眺めて補足を入れる葉子。
ああ間違いなく昨日まで共に戦った3人だ。
「やっぱ最強だぜ俺達3人!……何よりさー、ボス戦がマジで余裕だったんだぜ? 」
和也の言葉に、ほかの冒険者が尋ねる。
「?確か《ヘビーメタルドレイク》って割と強かったはずだけど……。 まぁたしかにお前らが強かったのはマジだな!……んでんで?肝心のドロップ武器とかアイテムは見せてくれるんすか?」
ドロップ武器やアイテム。
その言葉に再び周囲の人間が沸き立つ。
ダンジョンボスを含む全ての魔物は、倒した時に武器やアイテムを落とすのだが、かなり振れ幅があるからこそ……皆楽しみにしている……らしい。
何よりボスドロップは、かなり素晴らしいと話に聞いている。
和也が武器を取り出したり、アイテムを見せる度に周囲の冒険者は色めき立っていく。
まるでライブ会場のようで、そして彼らはまるで主役のスターのように光り輝いて見えた。
そんな彼らの話に、俺は無意識的に顔をしかめてしまっていたようだ。
きっとアンチの人間のように見えてしまったのだろう。
「───なぁ、そこの人。 俺たちに何か不満があるのか?ジロジロこっちを見てると思ったら急に不愉快そうな顔しやがって。 何だよアンタ!」
和也はそう言って俺の方を指さしたのだ。
俺は咄嗟に───、
「お、俺だよ? 忘れたのか?」
等と聞いてしまった。
口に出してすぐに後悔した。……なぜならこの後に来る言葉を俺は聞きたくないから。
「?俺、俺って……オレオレ詐欺?……ってか俺、お前みたいな奴知らねぇけどな。 忘れたって何の話だ?勘違いとかじゃねぇのか?」
「……あ、う、うん。 ごめん。 せっかくの空気感に水差しちゃってごめん。 じ、じゃ……。 これからも頑張って……」
俺は逃げるようにエレベーターの方に走り出す。
この場の空気がこれ以上悪くなっては、耐えれなかったからだ。
──自分の情けなさが本当に腹立たしい限りだった。
*
「なんだったんだアイツ。 ……なぁここにあの男について知ってるやつはいるか?」
変なオッサンも居るもんだなぁ。と思いながら俺は周りの野次馬どもに尋ねる。
まぁすぐにわかるだろう。名前ぐらいは覚えておけば何かと役に立つだろうし。
そう思っていたのだが。
「?……あんなやついたっけ?」「……えっと誰だっけ……」「わからんなぁ……ギルド職員さんは知ってるんじゃ?」
驚いたことに誰一人として名前を出せなかったのだ。
チッ、使えねぇ。
「───ギルド職員さん、すんません。 あの男について教えて貰えますか?」
「えぇ、良いですよ。 ……確か彼は……彼は……えっと……あ、ありました。 ふむふむ、名前は『武藤 悠雅』……Bランクの冒険者ですね。年齢は27歳……ふふっこの歳でBランクは流石に……」
あーなるほど、Bランクか。
つまり俺にアイツは嫉妬でもしたんだな。
「なんだ、ただの嫉妬か。 Bランクなんて私達でもすぐに到達できたのに。 だってアレだよ?あの人つまり───ボス戦に勝ててないってことでしょ?ざっこ!?」
「あの、……瑞希さん。 口が悪くなっちゃってますよ……きっと何か事情があるんですよ。 」
「葉子さんは少し優しすぎます。 あんなの社会のゴミ同然じゃないですか!……だって25歳を超えてまだBランクに留まってるとかおかしいですもん!」
瑞希の言葉に、周囲の冒険者も頷く。
───冒険者にはD・C・B・A・AA・AAA・S
の階級が存在する。
Dランクは主に冒険者見習いであり、小学生とかが該当するのだ。
Cランクは主に中学生から高校生初め頃の少しだけ戦闘に慣れた人たちが該当する。
Bランクは主に高校生から成人まで。
A以降はかなりの上級者達となるのだが……。
BランクからAランクに上がるための条件こそが……ボスをパーティでもいいから討伐するというものだ。
まぁぶっちゃけた話ボスなんて山ほどいるし、何より大抵の人間は成人式でボスを討伐するから20歳より上でBランクは基本いないのが現状だ。
───なのに、あの男の人は……27歳なのにまだBランク。
そりゃあまりにもすぎると思ってしまうのも無理は無いだろうよ。
「今度あったらしっかりと鼻で笑ってやるわ!自覚してもらわないとじゃない? 自分が如何にダメ人間なのかって!」
意気込む瑞希に和也も含め周囲の人間は頷いた。
*
一時間後、悠雅は再び先程と同じ場所に現れた。
しかし罵声も、嘲笑も、文句も、何一つ無かった。
それもそのはず。
あの場にいた全ての人間は、彼の事などとっくの昔に忘れてしまっていたのだから。
武藤 悠雅はユニークスキル持ちである。
その能力である《
それこそが、認識忘却。
久しぶりに会った親戚のおじさんの名前が咄嗟に出てこないように、彼の名前は人々の記憶からすぐに消えてしまうのだ。
彼はこの能力のために、パーティを組んだことすらないのである。
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