第3話 アイテムドロップなど無い

 悠雅は少しだけやるせなさを噛み締めた苦い顔で、ギルドカウンターと呼ばれる場所に歩いていく。

 最初の足取りはやや重く、鈍い。

 けれどやがてその足取りは普段通りのものに戻って行った。


「すみません、アイテムの換金をお願いしたいんですが……査定よろしくお願いします。」


 俺はしばらく列に並んだ後、ギルド職員の前に赴く。

 ギルド職員さんの前に俺はギルドカードと呼ばれる総合情報端末を差し出した。


「はい、しばらくお待ちくださいね。 ……えっと今回の査定は────2万円程でどうでしょうか?」

「2万……わかりました、それでお願いします」


 カードを差し込んだ装置から今回の俺の査定品の情報を受け取ったギルド職員さんの言葉に、俺は頷く。

「はい、ではギルドカードに換金した分のお金を追加しておきました。 今後ともよろしくお願いします」


 すぐに俺はギルドカードを受け取ると、そのままいそいそと立ち去るのであった。


「……ちっ、まじで渋いなあの人」


 ……去り際に、そんな言葉をギルド職員の女性から聞いた気がしたが、多分きっと絶対気の所為だと思う。


 *


 目の前のごく普通の男が、換金依頼をしてきやがった。

 私はにこやかな笑顔でそのカードを受け取り、機械にセットしたのだが。


「(うっわ、すっくな?!───ってかまじぃ?この素材全部じゃん。 こんなゴミ山ほど持ってこられても困るんだけどっ!)」


 男が持ってきたのは、無記名マテリアルと呼ばれる……、まるで何の役にも立たないゴミアイテムだ。

 要は端材だ。アイテムを武器や道具に加工する時に、たまに使うぐらいの……はっきり言って需要が1ミリもないアイテムなのだ。


 しかもこの無記名マテリアルってのは、からはドロップしないのである。

 魔物以下の存在、つまり魔物としての名前すら獲得できない程度の雑魚。そういった存在からしかドロップしないらしいのだ。


「(使えねぇゴミを、こんなに持ってくるとか。 何?職員の時間をドブに捨てさせるためだけの嫌がらせ行為って訳?……はームカつくわ。まぁ業務的な対応はしておくとして)……」


「はい、ではギルドカードに換金した分のお金を追加しておきました。 今後ともよろしくお願いします(うわぁ、なんかすみませんみたいな目で見てくるじゃんこのオッサン。 キモ……金にもならねぇゴミを持ってきて、何だよ───)チッ、まじで渋いなあの人」


 私は去り際に、二度と来るなよ。という思いを込めてそんな言葉を投げかけた。

 同僚も同様の目であのおっさんを見ている。まぁそりゃそうよね。───はぁ、ダル仕事多いのに。あんなヤツさっさと冒険者辞めちまえよ。ゴミ押付けていきやがって。


 *


 ───きっとそんなふうに思われたな。


 言葉なくともわかる。あんな感じで対応されていたら、流石に鈍感だのなんだの言われる俺ですら気がついているさ。


 だけどさ、仕方ないんだよ。


 俺は自分のギルドカードに記されている、スキルを改めて睨みつけた。


 固有祝福技能ユニークギフトスキル無名ネームレス


 ……このスキルのおかげで俺は圧倒的な戦闘能力を手に入れた。

 けれどその代価として、ありとあらゆる楽しさを失ってしまったのかもしれないな。

 ───違うか。

 そもそも戦闘能力ですら、ひょっとしたら本来の楽しさを失わせる為のものなのかもしれない。


 ふと俺はそんなふうに思ってしまった。


「あ〜。 本当になんでこんなゴミギフトスキルを手にしてるんだ俺は」


 誰も答えてはくれない。まぁわかっていることではあるのだが。それでも───、


 もし誰かが、こんな自分のことを覚えてくれて、隣で支えてくれたら、こんな苦しみを味わうことは無かったのかもしれない。

 そう思わずにはいられなかった。


「───いいや、まぁ日課のダンジョンにでも行くか。 どーせ、俺にはそれしか稼ぎどころがねぇんですから!……いいよなぁ、普通の冒険者は。 アイテム一つで1とか100ぐらい行くもんな。 ……ずるいよ皆」


 *


 _________________________


 ユニークギフトスキル・【《無名ネームレス■■■エラー、認識不可


 ギフトランク『■■■判定不可


【分類:古代魔法・文明解体兵装】


 文明に対する特攻兵装。

 かつて異世界に存在したとある神の権能をスキルに落とし込んだもの。


 莫大な出力の攻撃をリキャスト無しで使用出来る様にする。

 しかしその代償として、このギフトを所有するものは以下の効果を獲得する。


【忘却者】

 他者から自分の存在を適度に忘れられるようになる。この兵装を使用する存在は秘匿されるべきである為。


【果てなき戦場】

 この兵装を用いて、敵対勢力を殲滅した際、獲得出来るものを全てこの兵装の強化・エネルギー充填用のマテリアルキューブへと変換する。

 全ては継続戦線の維持のためである。


【独断決戦不可】

 強敵を確認次第、兵装による確実な殲滅のための閣議を開始する。

 承認が過半数を超えた場合にのみ、戦闘許可が発生する。それまでは決戦場への出撃、及び戦闘区域への参入は不可能となる。


【─────】及び、【─────】と【────】は現在存在証明が不可能状態。

 システムの再構築、並びにアップデートとメンテナンスが必要です。

 繰り返します、現在使用不可状態のシステムが多数存在しています。早急にアップデート並びにメンテナンスを実施してください───繰り返します……


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