二度目のヴァルキュリャ
「では、早速コレを着て頂けますか? エステラ様」
「...…嫌に決まっているでしょ。
どうせ剣術ばかりにかまけている私に、ドレスなんて似合わないのだから」
またしても子供の用に駄々を捏ね始めるエステラ様。
普通なら「狂剣と呼ばれてる人が何言ってるんですか!」っとでも言って呆れるのが普通なんだろうけど、俺は普段の姿から想像も付かないエステラ様の姿を見れて、ちょっとほっこりした気持ちになってます。
「貴男…今の私の姿を見て面白いと思ってない?」
「そんな事はございません!
ただちょっとだけ、『普段と違う様子のエステラ様の姿を見れたのは、役得なのかな?』、なんて思ったりしてはいますが」
「やっぱり面白がっているじゃない!」
「そこは初対面のイメージとのギャップの所為ですので、自業自得とでも思ってください。
さぁ、侍女の皆様!
早速このドレスを、エステラ様に着せちゃってください!」
「「「「かしこまりました! 旦那様!!」」」」
俺の号令と共に、侍女長ローラさんを筆頭に拗ねてドレスを着るのを嫌がっているエステラ様を、侍女様S’は強引に引きずって部屋の奥に連れて行く。
やはり狂剣と呼ばれている騎士に仕えている侍女さんとなると、肝が据わりっぷりも半端ないよね。
侍女様S’の仕事っぷり容赦なさを見てると、何故か部屋の奥に連行されていくエステラ様がちょっとだけかわいそうに見えてくるぐらいだし。
エステラ様が着替え終わるまで、とりあえず部屋の外に出て待っていると、ローラさんから、「エステラ様び着替え終わりましたので、どうぞお入りください旦那様」、と入室の合図が入ったので、俺は部屋に戻る。
するとそこには、純白のスリットデザインドレスに着替え終わったエステラ様が、少し恥ずかしそうにしつつも立っていたんだけど、俺はその姿を見た際に
「……ヴァルキュリャ」
「………何か言ったかしら?」
「いっ、いえ。何でもないです!」
「それよりいつまでもジロジロと見ているよ?
どうせ私は何着たって似合っていなんだから、ハッキリ『似合ってない』って言ったらどう?」
「こっ、これは失礼しました!
エステラ様がドレスを纏っている姿が、予想以上に美しかったので、つい言葉を失ってしまいまして…」
「……よくもまぁ歯の浮くような言葉が簡単に出て来るわね……貴男がそんな言葉を使うのを見てると、ニコラスに口説かれた時を思い出すわ」
「今俺の事弟と同じ扱いしましたけど、俺は弟のように息を吐くようにお世辞は言えませんから!
むしろ俺はお世辞が苦手な方で、思った事がうっかり顔や口から出るタイプだと、この屋敷に来てから自覚してきたので、今回はエステラ様があまりの俺のドレスを華麗に着こなしてるから、思わず本音がポロリしただけです!」
あんな弟と同じ扱いされるのは何か癪に障るので、俺はエステラ様に反論を入れる。
すると珍しくエステラ様が下を向きつつ「そ、そうなのね」と答えた。
どうやらエステラ様も、少し余計な事を言ってしまったと反省してるようだけど、何かほんのりさっきよりエステラ様の頬が赤くなってるような気がするのは気の所為かな?
それより、自分でデザインから作成まで手掛けておいてなんだけど、美人と呼ばれる女性が、俺の作ったドレス着て超絶美人に変貌しちゃつものだから、「ヴァルキュリャ」なんて俺が言うには超絶似合わない小恥ずかしい言葉を口に出してしまったぐらいだしさ。
こんな事言ったの、まだこの言葉を女性に向けて使う意味さえロクに知らなかった子供の時以来じゃないかな?
「そっ、それより着心地はどうでしょうか?」
俺はヴァルキュリャなんて言葉をつい口に出してしまった事が、急に小恥ずかしくなったのを胡麻化すため、慌てて別の話題をエステラ様に振った。
「それに関しては全く問題ないわね。
このドレスには、今まで窮屈だし無駄に重いコルセットが無いから全く窮屈さを感じないし、今まで着たドレスの中で最高に軽やかだから、動きも全く阻害されないわね。
その点に関しては、本当に素晴らしいの一言に尽きるわ」
そう言ってドレスを着たまま優雅(というか俊敏?)に動いてみせるエステラ様。この様子ならエステラ様がドレスに対して感じてた不満点は解消出来た! っと言って良さそうだね。
「ドレスを着てこんな軽やかに動けるなんて、貴男本当に良い物作ったんじゃない?
どうせならこんな感じで軽やかに動けるライトアーマーも作ってくれないかしら?」
「そうしてあげたい気持ちは山々なのですが、防具に関しては俺の専門外なので、鎧職人さんに依頼してください」
全く、この人は俺を何だと思ってるんだか! そんな期待するような眼差しをいくら向けたって、無理な物は無理ですからね? エステラ様!
「しかしホントこれ不思議な素材ですね。事前に説明を伺っていたとはいえ、初めて見た時は本当に着れるのか不安になる細さでしたけど、体に合わせて伸び縮みするなんて」
「ですです!
コルセットを使ってもないのに、ボディラインに沿った美しさを見せる事が出来るなんて、ホントに驚いちゃいましたよ!」
「コレを着てエステラ様がパーティー出れば、エステラ様が新しいドレススタイルの最先端になるんじゃないんですか?」
エステラ様がドレス着こなし、俊敏……じゃなくて優雅に動く姿を見て、侍女の皆様は各々感想を上げるているが、皆から絶賛の言葉が聞けるというのは、俺は自分の作った物が認められた証拠であるので、俺はこのドレスに確かな手応えを感じずには居られなかった。
そして自分のドレスを手放しに誉められた所為か無性に気分が良くなってきたので、さっきからエステラ様のドレスに関する詳細を聞きたく仕方がなさそうにしている侍女さん達の期待に応えるべく、俺は鼻高々にエステラ様のドレスについての説明を始めた。
「フッフッフ、その伸縮性の高い生地こそ、俺が何度も試行錯誤を重ねた上で作り上げた、伸縮性持たせつつ、軽やかな着心地であり、なおかつ一流と呼ばれているの質感に劣る事ない質感を持たせることに成功した新たな素材なんです」
ちなみにこの素材は、俺がゴムという伸縮性の高い素材と、様々なドレス用の生地を組み合わせる事で作成した生地なんだよね。
実はこの素材の発想自体は母さんがよく、「ドレスを着る際に、腰にコルセットをきつく締めつけ、自分の体を痛めつけながら社交に出る女性の負担を、何とかして減らす方法はないのかしら?」っと現状の貴族の女性達に求められる姿勢を嘆きながら、その不満を解消する方法を模索し続けていた事がキッカケで、考案に至った生地だだ。
そんな母さんの悩みであり、夢でもあった物が「俺に作れないかのかな?」、っと思っていた俺は、母さんがこの世を去ってからもその意思を受け継ごうと、ナルバエス侯爵家で馬車馬のように働かされている時でさえも、時間を見つけては様々な素材を組み合わせて、何度も試作品を作り続けていた。
だが、何度試しても、素材が肌に合う素材じゃなかったり、伸縮性を持たせても、質感が大きく劣るなど、なかなか自分も世間も納得してくれるような品質の物を作る事が出来なかったんだよね。
母さんが模索し続けていた生地を作ろうとして、独学で作り続けていた素材は。失敗の連続があまりも続いてしまったので、俺としても半場諦めかけていたのだが、しかし俺が、この屋敷の管理を本格的に任されるようになってから、屋敷に出入りしている商人さん達と話す機会が増えた事で、この生地を完成に近づけさせる材料を得る事になったのだが、その素材こそ屋敷で出入りを許可されている商人さんから、”ゴム”と呼ばれる伸縮性の高い素材がフローレス辺境伯領内に存在する事を教えてもらったので、試しにゴムとドレス生地を上手く混ぜる事で、この伸縮性の高い生地が完成したのだった。
俺の努力の結晶でもあるこの高い伸縮性を持った生地は、あらゆる高品質のドレスを目にしてきたであろうエステラ様お付きの侍女さん達の目から見ても、良い評価を貰えるという事は、侍女さん達が非常に興味津々の様子でエステラ様のドレスを眺めている様子を見れば、聞かずとして好印象を貰っている事が分かった。
(よし!ここまで上々の評価を得られたのなら、後は最終仕上げに入るだけだな)
そう思った矢先。エステラ様がまたしても不満げな表情を浮かべている事に俺は気が付いたので、「これ以上何かあったっけ?」っと思わず心の中で思いながら、エステラ様に未だ機嫌が悪い理由を尋ねてしまう。
「どうかされました?」
「このドレスが動きやすいのは良く分かったわ。
だけど武器は? 私の愛剣は何処に帯刀したらいいのよ?」
「……流石に帯刀禁止の社交の場で、エステラ様の愛剣といえど帯刀は許可されませんよ」
「じゃあドレス事態に武器を仕込んだりして攻撃力を持たせたらいいんじゃないのか?
以前『攻撃的なドレスだ』なんて令嬢に言ってたどっかの子息がいたのを覚えているは」
「それはそのドレスはあ・く・ま・で『デザインが男にとった攻撃的』なだけだと評しただけであって、本当に物理的な攻撃力を持っている訳じゃありませんから!
武器に関しては、ガータベルトに短剣が仕込めるこのホルスターを付け、非常時は直ぐに武器を構える事が出来るようにスリットドレスでデザインしていますので、今回はこの使用と装備で我慢してください」
「そうなのね……まぁ、何も持たないよりは”マシ”っと考えるしかないわね」
エステラ様は不満げにそう言った後、俺が作成した携帯武器用の試作ガーターホルスターを手に取ると、エステラ様はドレスの下に仕込む武器について、侍女の皆様と活き活きと相談を始める。
普通ならそんな事まで相談に乗れる侍女さん達の知識のハイスペックさに驚くんだろうね。
でも侍女さん達がエステラ様と武器の話ができる理由が、実はフローレス家で働く人って全員どこかしらに得意の得物を仕込んでいるんだよね。
だから隠さず堂々と構える武器がメインのエステラ様より、暗器メインの侍女の皆のほうが、体に仕込む武器に関してはかなり詳しいんだよな。
しっかしドレス関する事より、「ドレスの下に仕込む武器を一番真剣に考えてる」、ってのが、エステラ様らしいよね。
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