夫婦揃って苦手なモノ
まさか手紙一通から、こんな嫌なオーラを感じるなんてね。これも全部この手紙に堂々と記された【皇室】の紋章の所為なんだけどさ。
どうしてもこの紋章を見ると、ナルバエス侯爵家でこの紋章の記された手紙を受け取った際の一連の騒動を思い出してしまうので、どうにも良いイメージが湧かないんだよなぁ……ハァ、このままこの手紙と睨めっこを続けたって埒が明かないので、俺は意を決して、渋々封筒から手紙を取り出し、手紙の内容を確認する。
・・・
・・
・
「……エステラ様、コレって何かの冗談ですかね?」
「……もしそうだったら、私がこんな状態になってると思う?」
「……思いませんけど、これだけは再確認していいですか?」
俺がそう尋ねると、エステラ様は相変わらずガックリとしたまま頷いた。
「以前交わしたあの約束は、嘘だったって事ですか?」
「こうなった以上、貴男は私の言葉を信じる気持ちになれないかもしれないけど、これだけは言わせて……私は貴方との約束を違えるつもりは一切なかった」
「だったら……だったらどうしてこの手紙に堂々と『フローレス辺境伯夫妻を主賓として、皇室主催のパーティに招待します』って書いてあるんですかー!!」
ちなみに手紙の内容を端的に記すと、こんな内容だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ハロー、皇帝のベルナルディタ・アルカンタルだよー。
エステラとリカルドって、私が無理やり結婚させちゃったけど、無理やり結婚させちゃった側としては、ほんのちょっとだけ申し訳ないと思ってるの(え~ん)
オマケに二人は挙式さえ挙げてないよね? だから無理やり結婚させちゃったお詫びに、三週間後に開催予定の皇室主催のパーティで、主賓として二人の結婚を盛大に祝ってあ・げ・る(ハート)
ちなみに主賓として呼ぶんだから、もし来なかったら『反意を抱いている!』って見なしちゃうし、エステラの両親も招待してみたんだけど、なんと来賓としてパーティに参加してくれるみたい(ヤッター)
だからもう何か良い訳してこのパーティから逃げようたって、そうはいかないわよ。
あ! それとエステラが考えそうなあらとあらゆる逃げ道、もう全部塞いでおいたから、もうフローレス辺境伯夫妻には、”来る”、以外の選択肢残ってないからね~!
それでは最後に、この帝国のルールを復唱しましょう!
「皇帝の言う事は?」
『ぜぇっったぁぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃ!!!』
みんなが大好きな皇帝ベルナルディタより
――――――――――――――――――――――――――――――――
何か国家機密に触れるような内容がちらほら見えてしまったので、オブラートに手紙の内容を伝えたけど、内容を要約すると大体こんな内容だったね。
しかしこの手紙の内容、何が何でも「フローレス辺境伯夫妻」としてパーティに参加させてやろうとする悪意を犇々と感じさせる内容の手紙だったんだけど、どうして俺まで呼ぶ必要があるのかがサッパリ分からなかった?
そして俺にとってはやっぱり皇室の紋章が入った手紙ってのは、鬼門でしかなかったね。
「陛下にしてやられたわ……まさか貴男までパーティに参加させるように、堂々と指名してくるなんて……もう実質帝命と変わらない強制力が働いてしまっている以上、貴男は私と3週間後に帝都で開催される皇室主催のパーティに参加せざる負えなくなってしまったわ……」
「そ、そんな……契約再度見直した時、『離婚成立まで俺は社交活動は一切やらなくて大丈夫』って言ってたじゃないですか!」
「私はそのつもりだったわよ。
でもベル姉さ……じゃなくて陛下が皇室主催のパーティに、主賓として呼んできた挙句、『結婚式を挙げてない新婚夫婦を大体的に祝ってやる』って名目で招待されて、尚且つ私の両親まで来るとなると、その手紙に嫌らしく書かれていたように、私達はパーティに参加する以外道は残されていないのよ」
エステラ様は「現実は非常なの」っとでも言いたげな表情をしたまま答えるんだけど、エステラ様が見せた諦めの表情は、この手紙の内容が冗談じゃない事を十分物語っており、「この決定が決して覆る事はない」っという現実を思い知らされた俺は、ガクリと膝から崩れ落ちるようにして、両手を床に付くと、エステラ様と同じように、俯いた姿勢のまましばらくフリーズしてしまった。
そしてしばらくお互い無言のまま時間が流れるが、今この部屋には俺とエステラ様しかいないためか、先程深い絶望を感じたと同時に湧き出たあの感情を、思い切って口に出してやろうと珍しく思ってしまった。
「エステラ様……無理やり婚姻結ばせといた挙句、あえて皇室主催のパーティに強制参加させて盛大に祝ってやるとか、実は皇帝陛下ってめちゃくちゃ性格悪いんじゃないんですか?
二人しかいないこの場だから正直に言っちゃいますけど、皇帝陛下ってかなり天邪鬼な性格してません?」
「フフmこうゆう時はどうも貴方とは気が合うわね。
私も全く同じ事を、あなたと出会う前からずっと皇帝陛下に対して感じていたわ」
エステラ様の何気ない一言だけど、何か妙に重みを感じてしまったので、恐らくエステラ様は皇帝陛下に【良くも悪くも振り回されまくっている側の人間なんだろなー】っと思うと、ホントこの人も相当苦労してるのが犇々と伝わってくると、なんか妙にエステラ様に哀愁が漂って見える。
「しかし皇室主催のパーティとなると、色々と準備が面倒ね」
「そうですよね、もしかしてエステラ様って、あんまり社交会得意じゃないんですか?」
「そうね、出なくて良いのなら出たいとは思わないわ」
「意外ですね!立場社交の場なんて慣れ切ってる物だと」
「私の場合、社交の場やパーティなんてドレスを着て出席するより、護衛、もしくは警備担当の騎士として出席している場合がほとんどよ。
だからドレスを着て出席しなきゃいけない時って、未だに子供の頃からちょっと苦手意識があるのよね……」
そう言った後に、”シュン”っと落ち込む様子をエステラ様が見せるんだけど、その姿がまたしても今朝夢で見たあの子の姿と被ってしまってので、俺はエステラ様に
「……どうして社交が苦手なのか聞いても大丈夫ですか?」
っという質問をせずにはいられなかった。
「だって……どうにも落ち着かないのよ!
あの動きを殺すコルセットを付けた状態なのに、防御力ほぼゼロなのにやたら重いし、動きまで阻害してくるドレス。それに愛剣さえこんな状態で敵に襲撃されたらなんて考えたら、不安しかないと貴方は思わないの?」
「えっ……と?」
エステラ様は俺にドレスの心とも無さを訴えかけてくるんだけど、仕事のアイテムがないと不安になるって、「もしかしてコレがワーカーホリックって奴かな?」 なんて失礼な言葉が一瞬頭を過ったけど、俺はその言葉を全力で頭の中から投げ捨て、冷静に現状を再分析する。
・・・ほら、きっとアレだよ!やっぱり普段の恰好が何気に一番落ち着くって言うじゃん? それだよ。ソ・レ☆
ってあれ? そういえばエステラ様って基本いつも帯刀してるよな……コレってやっぱワーカーホリッ
「貴男今、私の事、仕事バカって思わなかった?」
「いっいえ! そんな、滅相もございません」
「いいわよ……自分でも仕事バカなのは分かってるから」
エステラ様に心の内を読まれたので、”ドキ”っとして本当に心臓が口から飛び出そうになったので、必死に抑えてはみたが、結局動揺は隠せなかったので、考えていた事がモロに顔に出てていたみたいだね。
何かスイマセン……
それにしても、あの頃の思い出を今朝夢で見てしまったい所為で、もしかしてあの子と幾つか重なる要素を持っているエステラ様が、『あの子なんじゃないのか?』、なんて思ってしまったが、コレでハッキリした事があるんだよね。
それは”絶対あの子とエステラ様は同一人物じゃない”、って事!
いくら女性で剣好き、なおかつ社交が嫌いって共通点があっても、社交が嫌いになった理由が違い過ぎるし、エステラ様はあの子みたいに可愛げが……おっと、これ以上変な事を考えるのは止めよう。
何かエステラ様にジト目で見られてるって事は、また思った事がモロに顔に出ていたかもしれないからね。
「……そうゆう貴男は、どうして社交活動が嫌いなのよ?」
相変わらず俺にジト目を向けたまま、「私が社交嫌いな理由を馬鹿にしたんだから、お前の社交嫌いになった理由は、よっぽど立派な理由なんだろな?」っとでも言いたげな顔をしながらエステラ様が訪ねてきたんだけどさ、そんな顔されながら言われたら、誰も正直に嫌いになった理由言いたくなくなるんですけどね?
でも言わなかった方が後が怖いのは分かり切った事なので、正直に話しますけど……
「えーとですね、理由は単純にそうゆう場にあまり慣れてないといのもあるんですけど、一番の理由としては、弟のニコラスの代役で何度か社交パーティに出席させらた時があったんですよ。
その時とにかくロクな目に合った記憶しか思い浮かばないので、どうにも社交会という物に苦手意識が根付いてしまいまして……
もしかしたら今回も出席した際、弟が過去に何かやらかした相手に会った時に、何言われるのか分かんないから嫌だなー、なんて思ったり……」
うん、俺の理由も大概しょうもないと思う。コレはエステラ様に何言われても文句いえないね。
そう思って「エステラ様からどんな文句が飛んでくるのだろう?」っと内心ビビりながらエステラ様が次に発する言葉を待つのだが、予想に反してエステラ様は何とも言えない表情をしたまま黙っている。
しばらく沈黙の状態が続くのだが、なんか非常に居た堪れない気持ちになってきたので、別の話題を振ってこの空気を変えれないかと考えてみるが、変に沈黙の時間が長いのと、どうしてエステラ様がそんな表情を見せているのか分からない以上、俺から下手な事を言えないこの状況。
(誰か何とかしてくれー!)っと心で必死叫んでみると、俺の想いが通じたのか、エステラ様がようやく口を開いてくれた。
「……ごめんなさい。貴方の事情を聞くと、私が社交界苦手な理由が子供染みてるように思えて来たわ」
「いやいや、苦手な理由は人それぞれだから気にしないでください!」
やっとエステラ様の口が開いたかと思えば、その口から出たのは俺が社交界苦手になった理由と、エステラ様が社交界嫌いな理由をエステラ様は比較して、エステラ様が社交が嫌いになった理由の方が「しょうもない」、と判断してしまったみたいで、エステラ様は益々意気消沈してしまったようだ。
俺は必死にそれに関しては「苦手な理由なんて人それぞれなんだから、誰かと比べるものじゃない」っという趣旨でフォローしてみたけど、生真面目な性格なエステラ様としては、それでは納得行かないようだ。
うーん……こうなるとエステラ様しばらく引きずるので、この流れを切るには、いっその事話題を逸らしてしまったほうが、手っ取り早そうなので、俺は思い切ってエステラ様にある提案を持ち出してみることにする。
「それじゃあ作っちゃいます? エステラ様の不安を解消できる
その言葉を聞いたエステラ様は、子供のようにキョトンとした表情を見せたのだが、この時俺の心臓は思わず口から飛び出そうになった。
危ない、危ない。気の強い美人が滅多に店に弱った姿から、不意に出たあどけない表情のコンボってさ……ホント男の保護欲を危険なほど刺激するから心臓に悪いんだって!
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