主役の知らない所で話は進む
変な所で意固地なあの子は、私が皇帝に即位してからというもの、私と二人きりにならないと、周囲の目を気にするあまり、絶対に主君と騎士の関係を務めようとする悪い癖があり、エラは家族以外別の目がある場では、昔のように私と義姉妹としての立場で話す事がなくなった。
だからと言って私が、「気にせず昔のように話せ」、と言った所で、あの子は、「コレが騎士の務め」、と称し、変に意地を張ってその姿勢を崩そうとしない。
おまけに本当は私と昔のように話したのが傍から見て丸分かりだというのに、あの子は自分の気持ちを押し殺してまでその姿勢を無理に維持しようとするものだから、逆に拗れて「私は一生懸命騎士の務めを果たそうとしているのに、姉様はその事を分かろうとしない」とでも言いたげな目でこちらを見つつ、拗ねた様子まで見せるものだから、どうしたものかと私も悩んでいた。
そしてその様子に気を使ってくれたプラシド小父様は、自ら影の護衛役を務める事を提案してくれた事で、今日は久しぶりにエラとゆっくり義姉妹に戻って、しっかりと話す状況が作れた事で、エステラが私の元に来る度強張っていた表情は、これで和らぐだろう。
今や皇帝の狂剣とまで呼ばれ、並みの人間の気配なら簡単に察するエステラに一切気付かれることなく陰で護衛を務めてくれたプラシド小父様の気遣いには、本当に感謝しかない。
「成人したら益々親には頭が上がらなくなる」、という言葉を何度か耳にした事があるが、その意味を強く感じる瞬間だった。
本当は自分だって、一年近くエラと親子として話せてないんでしょうから、自分だってゆっくり話したかったんだろうに……全く、戦においても政治においても多くの功績を残した、「フローレス家の影の魔人」、と未だに多くの者から慄かれているプラシド小父様も、娘達の前では只の甘い父親過ぎない。
実の父だった男が私に与えたり、残していった物は、ロクでもない物ばかりだというのに、義父だった男は、今でも私に掛替えのない物を与えてくれる事を考えると、私の本当の父は、”父親として本当にロクデナシな男だった”のだと、今この時も、愛娘の生末を心配そうに見守っている父親の姿を隣で見ていると強く感じるよ。
「フフフフ、もしかしてエラがよからぬ男に取られたと思ってガッカリしているのか?小父様は」
「……まぁ、武功の話ばかりで、今まで浮かれた話の一つ聞く事がなかった娘が、嬉しそうに他所の男の話しをこの目で目の当たりにしたのは、正直複雑な心境ですな」
そう言った小父様が、嬉しそうにも見えるが、どことなく腹正しい面の見せるという、なんとも複雑そうな表情でそう答えるを見ると、本当に父親としては、愛娘が別の男に関心を強く見せた事が気がかりで仕方がないのが良く分かる。
そんな私の命の恩人であり、様々な分野の師でもあり、義父であるプラシド小父様に感謝しつつ、未だに先程慌ただしく娘が出て行った扉を見つめる小父様に、私もある提案をしてこの恩を返すとしよう。
「小父様は気にならないのか? あそこまでエラを夢中にさせる男が、一体どんな者なのか?」
「その内家に戻って様子を見に行きますので、ご心配なく」
「そんな時間作れる時間の目途なんて、全く立ちもしない現状で良く言うわ。
今日のこの時間だって作るのに、一週間強行業務で、仕事を終わらせてやっと作った時間だというのを、お忘れか?」
「そう思って頂けるであれば、陛下には一日でも早く自分の足場を強固なものとし、安定した国勢を築いて頂きたいものです。
そうすれば、私が一日でも早く妻と共に家に変えれる日が訪れますので」
プラシド小父様から大変耳が痛い事を言われるが、実の所この帝国は、まだ私に代替わりばかりしたばかりで、表面上はそれなりに安定しているように見えるかもしれないが、現実は不安定な部分がまだまだ見えているのが現実だ。
要は前皇帝であるロクデナシが残した数々の負の遺産の処理に追われ、まだまだ基盤を固めるには時間が必要なのだ。
だがそれでもなんとか表面上はそれなりに安定しているような国勢を見せれてはいるが、本当にそう見えるのは表面上だけで、水面下で蠢く不穏分子の数々が表面の薄い皮を破った瞬間、この帝国は再び前皇の統治時代のように、混迷の時代を迎える。
そうなる事を防ぐ為にも、薄い皮を守りつつ厚くするために、私や小父様といった私と臣下達は、今も多くの政務処理に追われ、本当に慌ただしい毎日を送っている。
そんな慌ただしい毎日を送っている小父様が、フローレス辺境伯領にゆっくり戻れる日が早々来訪れる事がない事など、分かり切っている事だ。
先も言ったように、可愛い義妹とゆっくり話したこの僅かな時間でさえ、やっとの思いで作ったぐらいだ。
そもそもプラシド小父様が、いくら母上と母上の生まれ故郷に親交があり、なおかつ母上に頼まれた事で、フローレス家で私を匿い続けてくれた挙句、未だに面倒を見てくれている事は、プラシド小父様也の義理があるのかもしれないが、決して義務ではない。
だから、皇帝となった私に、エステラにフローレス家当主の座を明け渡してまで付き添う必要もない。
だが小父様は、妻であり帝国最強の戦士「フローレス家の魔人」、としてその名を轟かせ、私とエステラにとっては武術と戦術にける師であり、私にとっては第二の母でもある、「ラミラ小母様」と共に、まだ皇帝となって日の浅い私の後ろ盾となりつつ私のまだ固まり切っていない基盤を固めるべく、今もこうして私の元で私を守り続けてくれている。
実の所、良く言って【義理の娘】でしかない私に対しても、実の娘と同じように大切に接する「前フローレス辺境伯夫妻」は、本当に子に甘すぎる夫婦だと思う。
だからここは私が、一肌脱ぐとしよう。
「相変わらず耳が痛い事を言ってくれるな。小父様は。
ならこちらから出向いて様子を見に行けないのであれば、あちらから出向いて貰うってこの目で様子を見てみるとしよう」
「陛下……そんな事したら、せっかく戻ったエステラからの陛下への信頼が、地に落ちてしまっても知りませんよ?」
「せっかく回復した信頼がまた落ちるのは心苦しいが、私の可愛い義妹をたぶらかしている男が、本当に私達が調べたような人間で、エステラの元に送った価値がある人間なのか、私もこの目で確かめたいと思っているからな!
今の状況だと小父様も小母様も帝都を簡単に離れられない
そう考えたら丁度いい機会だと思わない?」
「……分かりました。それで、どのようにお考えで?」
結局小父様も自分の正直な気持ちに逆らえず、乗ってきたな。
まぁ、反対した所で、小父様立場上私の計画に乗らざる負えない状況に持っていくだけだが。
恐らくプラシド小父様は、ソコも読んだ上で私の意見に同意している、というより付き合ってくれているのだろう。
「そんなの決まっている。あるだろう、もうすぐ新婚を呼ぶには打って付けのイベントが。
それにこの方法ならプラシド小父様とラミラ小母様も、『私の家臣』としてではなく、エラの『家族』として参加出来る」
「……分かりました。そのように手配いたしましょう」
「それと招待状は私が直接書こう。そっちの方が効果的だ」
私がニヤリと笑いながら答えると、プラシド小父様は、「悪戯好きの娘には困ったものだ……」、とでも言いたげな表情で私を見ながら頷くと、私の計画の準備を始める為に部屋から出て行く。
プラシド小父様からすれば、また義姉妹が喧嘩しそうな事をやる準備を進めるのだから、決して乗る気にならないのかもしれない。
でも今の現状を顧みると、こうでもしないと私達家族が、顔をそろえて弟の婿を見定める時間も作れないと思う。
なんせラミラ小母様だって、私の近衛として、プラシド小父様と共に帝都から滅多な事では動く事の出来ない状況なのだから。
おまけにエラの話によると、このままエラが自分の気持ちをハッキリと自覚するキッカケを与えてやらねば、エラは本当にリカルドと離婚してしまうかもしれない。
私としてはそれでエラが幸せになるなら問題ないのだが、今の様子だとアレは絶対離婚したら、エラはリカルドと離婚した事を、一生引き摺っていく事になりそうな気がした。
だから私は、義とはいえ私の大切な家族の為を思うならば、私は自分の権威を最大限に活用するし、それが切っ掛けで愛する義妹に文句を言われ、しばらく目の敵にされようと、私は動こう。
それが本当に家族の為になるのであれば。
そしてリカルド・ナルバエス!
その身をしっかり調査した上でエラの元に送ったのだから、ソレは無いだろうとは思っているが、もしあの男が、弟のニコラスように女心を弄んでいるようなクズで、ロクな恋愛経験もないエラを弄んでいるのであれば、その時は覚悟しておけ!
フフフフ、エラに様々な顔をさせる男と会える日が、こんなにも待ち遠しいと思う時が来るとはな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます