気付いてなかった私の気持ち
「アハハハハ!それ本当?
普通侯爵子息が、『余った食事を捨てるのがもったいない』、なんて言ったあげく、食べきれなかった料理を使用人に振舞うなんて初めて聞いた」
「私も初めて聞いた時は耳を疑いました。おまけに屋敷のカーテンを自ら補修を始めたのが切っ掛けで、屋敷の様々な物を補修し始めたり、挙句の果てには使っていない家財道具一式をリメイクして内装の改装を始めたり、使用人と並んで出迎えを始めたり、本当に次は何を仕出かすのかまったく先が読めない男なんです、リカルドわ!」
リカルドの話を始めると、ベル姉様は早速食い付いてきたのだが、私が警戒しているような食い付き方ではなく、純粋に私の話を楽しんで聞いてくれている様子だった。
どうやら私は、少しベル姉様を警戒し過ぎていただけなのかもしれない。
それにしたってリカルドの話をして、こんなに面白がって聞いてくれるとなると、リカルドのやっている事は、やはり貴族としてはあまりにかけ離れているって思った私の認識は間違っていなかったんだと思えると、少し安心した。
正直言ってあまりも屋敷で働く使用人達が、リカルドの行動にツッコまないから、私の認識がズレていないか不安だったのよね。
こうしてリカルドの関する報告と言う名の、変わった男に関する男の話題で久しぶりの義姉妹に戻った私とベル姉様のトークは、大いに盛り上がりを見せる。
元々報告を済ませたらさっさと戻ろうと考えていた当初の予定は、大いに変わってそれなりに長い時間を久しぶりにベル姉様と話し込んでいた。
「あーもう、ホントに久しぶりにこんなに笑ったわ。
それにしても、話を聞けば聞くほど可笑しな男だな。リカルド・ナルバエスは」
「やっぱりベル姉様もそう思いますよね?
「男なのに裁縫が大の得意で、インテリアや庭園のレイアウトにも精通しているし、おまけに時計も直せるなんて、いったい何処の街のなんでも屋なんだ?って言いたくなった私の気持ち分かってくれますか?
挙句の果てには自分があの、『ルース・ウルタードの息子』、だなんて言い出すんですよ?
調べてみたら本当だったから、リカルドの言った事が本当だったと分かった時は、私もどれだけ驚かされた事か……本当にあの男には私も振り回されっぱなしで困ってます」
「『困ってる』、なんて言ってる割には、随分楽しそうに話すじゃない? リカルド・ナルバエスの事!
エラが私に男の事で楽しそうに話した事なんて、エラが社交デビュー前に私と一緒に出席したあの町でのパーティで、あの生意気な令嬢に嫌みを言われた事にエラが耐えれなくてパーティ会場から逃げ出した時、エラの事を励ましてくれたっていう例の子の話をした時以来だな」
ベル姉様にそう言われた瞬間、思わずハッとなった直後、私は何故か無性に恥ずかしい気持ちが込み上げて来るが、その気持ちを抑えつつ、ベル姉様にさっきまでの自分の状況を再確認してみる事にした。
「……そんなに私は、リカルドの事を楽しそうにベル姉様に話していましたか?」
「ええ、聞いているこっちが微笑ましくなるぐらいには。
エラは相当気に入っているようだな、リカルド・ナルバエスの事を!」
「気に入っては……いますね。色々彼には助けられている部分もありますので」
「へぇ、否定しないって事は、エラも少しは自分の気持ちを、前よりは正直に言えるようになったか。
義姉としては、中々自分の気持ちを素直に語ろうとしない義妹が、少しは自分の気持ちを素直に言えるようなった成長した部分を見れて、嬉しく思うぞ」
「わ、私は、何時なる時も自分の気持ちに素直でしたよ!」
「フフフ、そうゆう事にしておいてやろう」
ベル姉様の言葉に何か引っ掛かる物を感じるが、ベル姉様に言われて気が付いたのが、私はリカルドの事を、自分が思っている以上に気に入っている事を今初めて自覚する。
そしてその事を自覚すると同時に、鼓動がいつもより少し早くなったのは、私の気のせいだろうか?
「初めは強引に結婚させた事を、私としても申し訳ないと思っていたが、エラが楽しそうにやっているようだから少し安心したよ。
それで、式はいつ挙げる予定なんだ?」
「……すいません、ベル姉様! どうして私とリカルドが、式を挙げなくてはいけないんですか?」
私はベル姉様が言っている事が本気で理解できなかったので、思わずベル姉様がどうしてそのような考えに至ったのか、本気で尋ねた。
「どうしてって……報告を聞く限りもうフローレス辺境伯当主を支えるには十分な素質を見せているし、エラだってリカルドの事は気に入っているんだろ?」
「はい、そこに関しては私もさっき自分が思っている以上にリカルドの事は気に言っているのだと自覚しました」
「だったら形式上の夫婦じゃなくて、本当の夫婦の契りを交わしたって、特に問題は無いのではないのか?」
「ベル姉様! ちゃんと先程渡した報告書は読んで頂けましたか?
あの報告書にもしっかり記載させて頂きましたが、私とリカルドは2年後離婚する契約を結んでいますし、リカルドは貴族としての生活を望んでいませんし、私も結婚は不要だと考えています。
そんな私達が書類上だけではなく、本当の夫婦になる必要がありますか?」
どうやらベル姉様は私の報告書をしっかり読んでいなかったようだ。
私とリカルドは既に離婚契約を結んでしまっているのだから、今更お互い契約を変更する気もないし、リカルドはリカルドで、以前母親であるルースと共に経営していた場所で、また店を復活させたいという夢があるのに、私がその夢を邪魔するような事をする訳にはいかない。
だから私とリカルドが本当の夫婦になるなんてあり得ない事なのに、どうしてベル姉様は私の言葉を聞いてから頭を抱えているのかしら?
「...…そうだった、この子は一度決めた事は何としてでもやり遂げようとするのは良いけど、悪く言えばその事を気にし過ぎるあまり、意固地になる事がある子だって事を、どうして今まで忘れていたのか」
ベル姉様は頭を抱えたまま何か小言で言っているのだが、あまり小声だったので聞き取る事ができない。
「ベル姉様!私何か可笑しな事をいったのでしょうか?」
「いえ、気にしないで!
ただ単に私がエラが
ベル姉様が私の何に失念していたのかは全く私には分からないし、何故かベル姉様に失礼な事を言われた気もするのだけど、ベル姉様が問題ないという以上は、この件に関しては何も問題がない事なのだろう。
「そんな事より、すっかり私がエラと話し込んでしまった所為で、エラの帰りが遅くなってしまったな。
約束通り今回も自動車を手配してあるから、早くリカルドの待つ屋敷に戻ると良い」
「お気遣いありがとうございますベル姉様。それでは今回はコレで失礼します。
今日は以前のようにベル姉様と話せて、本当に楽しかったです。
そしてこの状況を作るために取り計って頂き、本当にありがとうございました」
「ああ、私も久しぶりに可愛い義妹の色んな部分を見れて楽しかったぞ……エラが自分の気持ちに鈍感なのは相変わらずだったが」
ベル姉様が最後に何かをボソリと呟いた気がしたが、それより私としては我が家に帰る事を優先させていたので、私はベル姉様と久しぶりに義姉妹として話せた時間を設けてくれた事に感謝しつつ、ベル姉様の私室を後にする。
*
「全く……あの男と添い遂げるの事は否定したくせに、あの男の元に戻る事は一切否定しないのだな」
慌ただしく私の部屋から飛び出して行った義妹の姿を見送るが、相変わらず「自分の気持ちに無自覚で不器用過ぎる」所は変わっていないかったわね。
「ここ最近はエラと会っても仏頂面ばかり拝んでいたのに、あんなにコロコロ表情の変わるエラを見たのは、本当に久しぶりだと思いませんか。
「エステラが陛下に対して仏頂面だったのは、陛下がなかなかエステラの相手をしてあげる暇がなかったから、あの子が拗ねていただけですよ。
まぁ、エステラがあの男の話しをする際、私の話をする時より活き活きと話していた事は、父親として釈然としない部分がありますが」
そう言いながら部屋の奥から”スッ”と現れたのは、私にとって命恩人であり、尚且つもう一人の育ての親であって、今は私の補佐官として大いに活躍してくれているエステラの父、【プラシド・フローレス】、だった。
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