野郎が作ったメイド服

 侍女さん達にお仕着を作ると宣言した俺は、本来の屋敷の管理業務を終わらせた後、さっそく御仕着作成に取り掛かった。

 正直侯爵家でコキ使われて時のように、睡眠時間以外はほぼ働いている生活をこのフローレス家でも続けていたら、御仕着せなんて作る意欲すら湧かなかったんだろうけど、自分の今の仕事がそれなりの余裕を持って出来ていると分かっていたからこそ、「服を作る時間も作れるんじゃないのか?」っという計算の元に初めてみたが、なんせ久しぶりにゼロから服を作るとなると、中々以前母さんの元で服を作っていた時の感を取り戻せない事もあって、感を取り戻すまで多少苦戦した事もあったけど、やはり以前日常的にやっていた事だったので、1日ほど作業に取り組んでみれば、大よその感を取り戻せた。

 そして思った以上に早く昔のカンを取り戻せた俺は、作るのに1週間ぐらいかかると踏んでいた試作品の製作期間を、3日で済ませることが出来た。


 今回作った試作品の御仕着は、ウルタードデザインの御仕着のボディラインとほぼ同じラインで作成しつつ、質感と品質も同レベルにするために、ウルタードデザインの御仕着に使われている素材と同じ高品質の綿と絹が配合された布を使用し、ボディラインと素材、そしてベースカラーはほぼ同じであっても、ウルタードデザインの物とは大きく印象を変えるために、フローレス家の紋章のメインカラーであるエメラルドグリーンのラインを入れたり、レースとボタンを変える事で、ウルタードデザインの御仕着せとは大きく印象を変えている。

 っと言うよりは、ウルタードデザインの物は万人向けに落ち着いた雰囲気で仕立ててあるのに対して、俺が作った物は、フローレス家で働く侍女の年齢が比較的若いので、フローレス家で働く人達向けに仕立てているのだ。


 こうして俺が作ったお仕着せを早速侍女さん達に披露すべく、今日の屋敷の業務がほぼ終わった時間を見計らって、侍女さん達に食堂に集まってもらった。

 そして食堂に集まったくれた侍女さん達に、早速俺の作った試作品のフローレス家用の御仕着を披露した際の反応はと言うと


「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」

 うーん、俺の御仕着を見た侍女の皆様の反応は……「ポカーン」と言う言葉が大変良く似合う表情を浮かべたまま、全員固まってしまっている。

 やっぱり男が作った女性服なんて受け入れられないって事だよね。その現実を強く思い知られたので、俺はせっかく集まってくれた侍女さん一同に、俺の作った服を見せられた事で、貴重な侍女さん達の時間を無駄にしてしまったこの状況が申し訳ない。

 そんな事が頭を過りつつ、御仕着せを片づける準備を静かに始めようと、俺は試作本の近く移動する。


「やっぱり男がデザインして作ったお仕着なんて着たくないですよね……皆さん貴重な時間を割いて申し訳ありませんでした」

 そう言って俺がハンガーにかけているお仕着に手を掛けようと、ハンガーに手を伸ばす。

「ちょっと待ってください!なに勝手に片づけようとしてるんですか」

「そうですよ!もっとじっくり見たいんですから、まだ片付けたら駄目ですよ旦那様!」

「正直言っちゃうと、旦那様が侍女の制服作るって言い出した時は、いくらあのルースのご子息だからって、男が作った女性服に期待なんて全くしてませんでしたけど、実物見てみたらホントにコレ凄い出来栄えの物ですよ!」

「皆して黙ちゃったのは、旦那様があまりもいい服を作ってくれたから、皆驚き過ぎちゃって声が出せなかっただけですからね」

 侍女の皆様はその後も各々言いたい意見を言ってくれた後、俺が作った試作品を見て、触れながら大いに絶賛の声を上げてくれたんだけど、やっぱり自分が作った物が認められる瞬間を間近で見れるってのは、デザインと制作した側からすると、この上なく嬉しい事なんだよね。

 そのお陰で、俺の顔から自然と笑顔が零れ落ちてしまっていたぐらいだし。


「流石ですね、旦那様。

 今回も良い意味で我々の予想を遥かに上回る物を自ら用意されるなんて、こんな事旦那様にしか出来ない事でございます」

「それって褒めてるの?ローラさん」

「もちろんでございます。

 我々使用人のような者の為に、夫君自らこんな素晴らしい制服を作ってくださるなんて、他の家では絶対に体験出来なかった事ですから、私達侍女一同フローレス家に仕える事が出来て大変嬉しく思っております」

 なんか遠回しにローラさんから「今回もとんでもない事をしてくれましたね?」って言われてる気がしないでもないけど、それでもローラさんからも大いに感謝されてるのは、しっかり伝わってるんだよねね。

 その証拠に、なんせあのローラさんも、さっきから俺の作ったお仕着が気になって仕方がないようで、ローラさんの視線が、さっきから何度もチラチラとお仕着に向けられているぐらいだしね。


「それと旦那様、こちらは……試着可能なのでしょうか?」

 ローラさんのその一言を聞いた瞬間、一斉に侍女一同の視線が俺に集中する。どうやら袖を通せるかどうか、侍女さん一同気になっている様子だね。

「試着は全然出来るけど、試作品という事で大きめに作ってるから、正直サイズは合ってないよ?

 もしこのデザインで問題ないのであれば、侍女さん一人一人のサイズさえ教えてもらえれば、そのサイズに合わせたセミオーダメイド品として、早速制作に取り掛かろうと思ってはいるけどね」

 俺のこの言葉を聞いた瞬間。侍女さん達の目の色は期待と興味の色から、何かを警戒した厳しい目つきへと変化する。

 あれ?俺なんか変な事言ったかな??


「旦那様。我ら侍女一同の為に、一人一人のサイズに合わせて制服を作って頂けるのは、大変ありがたい話しなのですが、制作するにあたって、一つだけ我々からお願いがございます」

「は、はい」

「制服を征服する際に知った私達のボディサイズに関するデータは、他言無用でお願いしたいのと、可能であればその記憶は、出来るだけ今後思い出す事のない記憶の片隅に置いて頂けたら、嬉しく思います」

「わ、分かりました……」

 ローラさんから非常に思い圧の籠った念押し気味のお願いをされたのだが、その際俺の周囲にいた侍女さんの視線も、有無を言わせない圧力を放っている視線を送ってきたので、俺はローラさんのお願いに対して同意の言葉以外言う気持ちが起きなかった。

 それはそうだよね。なんせ女性の体は【神秘】って言うぐらい謎に満ちってるなんて誰かが言ってた気がするけど、まさしくその通りだと思う。

 だってその神秘に触れようとしている俺に対する侍女の皆さんの目つきを見ていたら、決してその神秘を深く知ろうとする事は、例え夫君であっても許されないって事なんだからね。

 個人情報の流失、駄目!絶対!!


 こうして俺が作った御仕着は、侍女さん一同に大好評という結果で終わったのだが、流石に侍女さんの制服だけ作って終わりだなんて不公平なので、他の使用人さんの制服も職種別で一式作る事にしたのだが、この制服も使用人さん達から好評価を得る事が出来たので、頑張って作った甲斐があった。


 そして俺が作った制服は、思わぬ所で反応を示すのだが、なんとそれは、この屋敷に出入りしている業者や商人達が俺の作った制服を見かけた際に

「その制服出来が良いですね。何処で手に入れたんですか!?」

 っと興味を持ってしまった事だった。この事を予見していた訳じゃないんだけど、俺は使用人さん一同に

「俺は別にデザイナーとして食っていくつもりはないので、この制服を俺が作ったという事は、他言無用でお願いします」

 っと伝えていたため、フローレス家の使用人は誰一人業者や商人に、俺がフローレス家の制服の製作者兼デザイナーである事を口外する事はなかったんだけど、誰も頑なに明かそうとしない製作者というミステリアスな部分が、業者や商人の好奇心を掻き立ててしまったようで、今フローレス辺境伯領を拠点にして活動している業者や商人は、必死にフローレス家の制服を作ったデザイナーを探し回っている。っという報告を受けた。


 これで下手に業者や商人が嗅ぎ回った結果、俺が作った事を嗅ぎ付けれても困るので、その対策として使用人の皆に

「この制服は『カリード』と呼ばれる流離のデザイナーが作った物を、たまたま仕入れた」

 という事だけ伝えるように指示した後、カリードについて適当な噂を流してもらい、必死に俺の事を探し回ってる人達には悪いんだけど、追えば追うほど存在が掴めない架空の人間の影を、必死に追いかけてもらっています。 

 きっと商売している人間誰しもが、「いい物を自分が仕入れて、大きな流れを生んでみたい」って思ってるんだろうけど、今の俺は母さんの店を復活させる気はあっても、大勢にその名が知られるデザイナーになりたいなんて、待針の穴程も思ってもいないので悪しからず。


 そしてもう一つ思っても居ない所で反応を示されたのが、帝都から戻ってきたエステラ様だった。

 俺が使用人の皆に制服を作った話を報告すると、何故か途端にエステラ様の機嫌が、悪くなってしまったんだよね。

 俺は何故かご機嫌斜めになってしまったエステラ様の機嫌を直そうと、様々な策を試みたんだけど、何をやってもエステラ様の機嫌が直る事はなかった。

 この状況に「どうした物か?」と頭を悩ませていた俺は、恐らくこの屋敷で最も関りの深いローラさんにこの件を相談してみると、ローラさんから

「何か旦那様手作り物でも差し上げて見てはどうでしょうか?

 恐らくエステラ様は、自分だけ旦那様から手作りの物を頂けなった事が、ご不満だったみたいですよ?」

 っというアドバイスを受けたので、俺は急遽フローレス家の紋章が入ったポケットチーフを作り、エステラ様に渡した所、エステラ様の機嫌は途端に良くなったんだけどさ、結局エステラ様がなんであんなに機嫌悪くなったのかは、俺には良く分からずじまいだったんだよね。


 そしてこの件が、ローラさんのアドバイスのお陰で解決で出来たという事を、ローラさんに報告しつつ感謝の言葉を送った後

「やっぱり当主に何の相談もなしに、使用人が使う物を優先的に作ったのは、良くない! って事ですかね」

 なんてローラさんに聞いてみた所、ローラさんの口から帰ってきたのは、「はぁ~~~~ぁ」っと言う盛大なため息だけだった。

 おまけに俺とローラさんの会話を、遠目から聞いていたミゲルさんも、大きなため息を付いているのが目に入ったんだけどさ、いくら俺の言ってる事が不正解だったとしても、そんな盛大にため息つかれるような事、俺言ったかな?

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