第13話 約束


「さて、じゃあ素材の回収をしないとね。オーク数匹にトロル! 大量だよ」


 レスティアは勢いよく立ち上がろうとするが、


「おい、足――」


 ケガしてるだろ、と言う暇もなく。


「いっッッ!?」


 激痛に見舞われてもんどりを打ってしまう。


「……忘れてた?」

「……うん」


 涙目になって足首を抑えている。骨が折れてるのだろうか。私は迷わず、カバンからハイポーションを取り出した。


「これ、ハイポーション!? 中々、良い物持ってるんだね。でも良いの? 高いのに」


「大丈夫。いくらでも作れるから」


「作れるって……ハイポーションのレシピって、庶民が買えるようなシロモノじゃないでしょ。まさか――持ってるの?」


「これが私の魔眼の力だ」


 私は右手にポーション、左手にゴブリンの牙を持つ。

 アイテム生成を使い、ケミカルドラッグへ変化させた。


「うぇッ!? そ、それケミカルドラッグ!? な、アルマって宮廷錬金術師なの!? い、いや、それよりも、待って……今、手に持っただけでアイテムが……」


「そう。素材を手に持つだけで、アイテムを作り出せるんだ。そしてこのゴーグルはアイテムのレシピが見れる。多分、この世界の全てのレシピを」


「………」


 レスティアはあんぐりと口を開けて、固まっていた。

 暫し、そのまま無言の時が続く。


「……その力、誰にも見せてないよね?」


 やがて絞り出すように声を出す。


「見せてない。ハイエストポーションを作れた時点で、なんかヤバいと思った」


 そう答えると、レスティアは安心したように息を吐いた。


「絶対に、僕以外の人前で使っちゃだめだよ。そんなの知れ渡ったら……世界中の権力者が君を狙う事になるだろうね。他にもアウトローな連中も喉から手が出るくらい、欲しがるよ。君を巡って戦争が起こるかもしれない」


 冗談のような事実だ。私一人いるだけで一つの国家に匹敵か、それ以上のアイテムが手に入る。戦争においても政治においても圧倒的に有利になるだろう。それこそ、この世界のバランスを崩壊させてしまう。


「分かってる」


「約束だよ。絶対に、絶対の」


 何度も念を押すように。それだけの危険性も孕む事がよく理解できた。


「うん、約束だ」


「おけ、じゃあ素材回収しようか……その前に、これを飲まないと」


 覚悟を決めた表情でレスティアはハイポーションを呷る。

 そして一言。


「――不味い!!」


 分かる。ポーションでも戻しそうになるレベルだし。

 私は散らばったオークの素材を一か所に集めていくが、ある事を思い出した。


「あ、さっきオークの素材使ってしまったんだが……」


「別に良いよ。僕を助けるために使ってくれたんでしょ? むしろこの素材も全部上げても良いくらいだよ?」


「いや、流石にそれは……」


 オークを倒したのはレスティアだし、トロルもトドメを刺したのは私だが、殆ど戦っていたのはレスティアになる。報酬は彼女のものだろう。


「義理堅いなぁ。じゃあ、山分けね!」


「え、あ……はい」


 有無を言わさず、積み上げたオークの素材の半分を私の方にずらしてくる。受け取るしかない。ここまでされて断るのは好意を無碍にするものだ。


「トロルはどうする? この鈍器とか。あとオークの武器も」


――――――――――――――――――――――――――


【ブリーチハンマー】 レア度:普 分類:武器

トロルがスクラップを組み上げて乱暴にこしらえた鈍器。

剛腕と重量から生み出される破壊力は、生半可な城門なら一撃で粉砕する。


【ラスティソード】 レア度;普 分類:武器

錆び付いた剣。

劣化していて脆いが、一たび傷つければ錆びが傷口から混入して長期的に対象を苦しめる。


――――――――――――――――――――――――――


 イヤな武器だ。破傷風の予防薬は存在しないか、あるいは高価なのか。ハイエストポーションがあるから大丈夫だと思うけど、オークの武器は気を付けた方が良さそうだ。


「あー……それすっごく重いんだよね。私のマジックポーチじゃ入らないから、置いていくしかないかな。使い道ないし、売っても二束三文だし」


 マジックポーチとは収納系のアイテムだ。私の何でも入るカバンと比べて制約が多いが、比較的に簡単に作れる部類になる。より大容量のものもあるが、それは業務用の扱いになっていて、殆どのレシピは王家の所有物だ。


 つまりこのカバンもあまり人に見せない方が良いが、見た目はマジックポーチ系のものと一緒なので、収納するものの規模に気を付けていれば大丈夫だろう。


 私はブリーチハンマーを手にしてみる。まだオーガニックミートの効果が残っているようで、ひょいと持ち上げられた。


「も、持てるの?」


「アイテムのお陰。素面じゃ絶対ムリ」


 オーガニックミートとの兼用なら切り札になるかもしれない。レスティアはラスティソードもいらないと言うので、両方有難く貰う事にした。


「ん? これは……」


 まだトロルのドロップ品は落ちていた。両足に履いていたブーツのようなものだ。


――――――――――――――――――――――――――


【巨人の安全靴】 レア度:特 分類:防具

一部のトロルが身に着ける靴。危険地帯を歩けるようになり、一部のトラップを無効化する。鉄板部分はミスラル銀が使われているため、見た目に反して軽い。


――――――――――――――――――――――――――


「へぇ、良いの持ってたねコイツ。僕は今の装備で十分だから、アルマが持ってって良いよ」


「ありがとう。じゃあ履いて――」


 ブーツに近づいた瞬間、デクスグローブの臭気を更に饐えさせたような凄まじい悪臭が鼻を穿つ。


「――ッッ!!」


「ア、アルマ!? ――うわぁ、何だこれクッサ!!」


 おい、これは完全に呪いの装備だろ。ボードで説明すべきだ。


 

 

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