第14話 最高品質
オルディネールに戻ると、何やらいつもよりも賑わっていた。村の小さな広場には見慣れない一団が屋台や露店を開き、威勢よく商売をしている。
「おう、新入り……って、随分今日は汚れてるな? どうした、オークにでも追い回されたか?」
恰幅の良い男が私の身なりを見て揶揄う様に笑うが、後ろにいるレスティアを見て目を剥いた。
「げ、レスティア!? 何で新入りといるんだよ?」
「な、なんだよ~……魔物を見た時みたいな反応して……」
「まあ、色々あって和解しましてね」
「そうなのか? 驚いたな、あのはねっ返り娘を手懐けるとは」
「はねっ返りぃ……?」
ムッとした表情になるが、あれだけ悪い噂が流れていたのだから仕方ないと思う。私は軽く肘で小突くと、気まずそうにしながらも頭を下げる。
「あの、お騒がせして、すみませんでした……」
「ハハ、本当に和解したんだな! ま、新入りが良いなら俺らは構わねぇよ」
それよりも、と男は続ける。
「今日、商人たちの隊商が来たんだ。珍しいものが売られてるから、一度見てったらどうだ?」
「こんな田舎の中の田舎まで来るなんて、物好きだね。売れるのかな?」
「おい、聞こえてるぞ……オホン、前に俺らが魔物に襲われてた所を助けたんだよ。それ以来、この村にも来てくれるようになったんだ。義理堅い奴らだぜ」
へぇ。買えるかどうかは分からないけど、面白いものがありそうだ。見ておいて損はないだろう。
「見てみようか」
「そう言うと思った。じゃ、行こう」
オジサンと別れ、広場に向かう。いつもは長閑な村も今は活気に満ちていた。露店には見た事もない素材や武器防具が並び、屋台には珍しい食品や食材が陳列している。
ぜ、全部欲しい……!
どんなアイテムを作れるのか、ケミカルドラッグでどんなアイテムに変化するのかを確かめたい……
だが、今日の戦果全て売っても屋台一つ買い占めるのも無理だろう。値段は高くはないが安くもない。
でも見た事ないアイテムや素材を見れただけでも、テンションが上がってくる。まだまだ未知のもので溢れていると教えてくれるのだから!
「アルマ、涎、涎!」
「ウヘヘ……え?」
私は手で拭う。しまった、ついうっかり部屋でコレクション鑑賞する時の世界に入ってしまっていたようだ。
「買えないのが残念だ」
「まあ、この辺にはないものだからね。これでも安い方だよ」
そのまま順番に一つ一つ見ていくが、やがて最後の露店になった。そこには今まで見てきたあらゆる商品がごったになって置かれている。一応、食材は区分けされていたが。
「あれ、こっちは他の店だともっと高かったような?」
値札の一つを見て、呟く。
「ああ、うちは特価品専門なんですよ。不揃いだったり、出来が悪かったりで、他よりもずっと安くしてるんでさぁ」
その声に店主が答える。確かにどれも見た目が悪かったり、形が歪んでいたりする。食材に関しても味に問題ないが、正規品と比べると見劣りするらしい。
「ふーん……」
レスティアはあまり興味無さそうだが、私は一つの疑問が浮かんできた。
「あのー、これ、貰えますか?」
半額以下の値が付けられた甘味料と食材をいくつか手に取る。どれもまともに買うとかなりの高価なものになる。特に調味料全般は基本的に高値になる傾向がある。
質の良いものだと多分、諭吉一枚は余裕で飛ぶくらいの価値になると思う。だから大体の料理店は味付けしないか、かなりの薄味、あるいは代替品を使うのだ。
「へい、全部で銅貨七枚ですね」
カバンから小さな硬貨を必要分取り出す。
銅貨は日本における十円玉枠っぽい。詳しいレートは分からないので予想だが。
「当店の品質は値段相応です。料理に使うのなら最低限と心得ください。ご返品は受け付けていません」
「はい、分かっています」
商品を受け取り、カバンにしまうと一旦広場から離れる。
「そんな安物で良いの? 旅は長いから、食品はケチらない方が良いと思うけど」
エドラムの森への旅路は果てしない道のりになる。可能な限り、オルディネールで準備するつもりだったけど隊商が訪れたのは幸運だった。
「ああ。一つ、試してみたいんだ」
路地裏に入り、人気が無いか調べる。レスティアも周囲を見てマル印を指で作った。
私は食材と甘味料を持ち、アイテム生成を発動。一瞬で目の前には完成された料理が出現した。
「うん……自分で金色の魔眼は珍しいって言ったけど、これは別格過ぎない? 魔法とかスキルって言うよりも神の奇跡だよ」
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【バニラアイス】 レア度:特 分類:食品
甘いクリーム状のデザート。
高度な氷属性の魔法を必要とするため、貴族や王室の高級品となっている。
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日本なら普通に食べられる定番のデザートも、異世界では高級品になる。
特に冷やす、と言うのがネックで氷属性の魔法が必須になる他、それを適度に維持し続ける技量と手間も求められる。
だが、私の場合は食材と甘味料、他にただの氷を用意するだけで完成してしまう。
あらゆる面倒な手順をすっ飛ばして完成品を生み出すのだ。
私はそれを一口、食べてみる。日本で食べた時と遜色のない美味しさだ。
「レスティアも食べてみるか?」
「ん、いただきます――、う、お、美味しい!」
顔を綻ばせるレスティア。忖度なしの感想だ。
「やっぱり……」
「何がやっぱりなの?」
「この食材や甘味料、最低限度の品質って言ってたよな?」
「うん、そうだね」
「アイス、どうだった?」
「文句なしだよ! 一度、王都で食べたのと同じかそれ以上――あ」
私の言わんとすることに気づいたのか、ハッとする。
「食材の割に美味しすぎる?」
「その通り。つまりアイテム生成は、どんなに悪い品質のものでもレシピ通りの材料なら、完璧なものを作り出せてしまうって事も可能だ」
……口の端にクリームをつけたレスティアはまたしてもフリーズした。
「……アルマ」
そのクリームを指で拭い、舐めながら言う。
「うん?」
「君って、神様の生まれ変わり?」
ただのコレクターです。
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