第12話 竜に滅ぼされた森
「……た、倒せた」
サラサラと細かい光の粒子となり、消えていくトロル。
今になって恐怖がぶり返したのか、腰が抜けて立てなかった。
思えば無茶をしたものだ。何も考えずに飛び込むなんて、正気じゃないな。
でも……、あのまま見てる事なんて出来なかった。目の前で誰かが犠牲になるのは、もう嫌なんだ。
「君は無茶しすぎ。トロルは中級の冒険者でようやく倒せる相手だよ? 逃げろって言ったのに」
レスティアは私の隣に座り込んで、怒ったように睨んでくる。
「でも……助かった。ありがとう。アルマがいなかったら、此処で僕は死んでいた」
そう言って、姿勢を正し頭を下げる。
「寝込みを襲って、あんな脅しまでかけたのに……」
「別に良いんだ。レスティアにも訳があったんだろ」
「うん……」
「話してくれるか?」
「……少し、長いけど」
「良いよ」
「じゃあ……アルマは枯れ森って知ってる?」
宿で若いエルフの人が言っていた、かつてのエルフの国。
やはり……。
「昔、エルフの国があったんだよね」
「そう。僕は――そこの王族だったんだ。信じられる?」
「もちろん」
つまり、王女様って所だろうか。噂は正しかった。
「アハハ、まさかの即答? ……森は凄く綺麗でね。争いもなくみんな穏やかに、静かに平和に過ごしていた。でもある日……森に影が落ちた」
レスティアの表情が曇る。唇を噛み締め、握り締める拳が震えた。
「二つ首の竜が、突然僕たちの森を襲ったんだ。真っ赤な炎と、穢れを孕んだ吐息が森の木々を焼き、腐らせた。僕たちは森を守るべく戦ったよ。でも、敵は竜だけじゃなかったんだ」
「他にもいたのか」
「そう。全身を真っ黒な外套で包み込んだ奴がいた。そいつはオークの軍団を率いて、地上からも攻め立てた。僕たちは攻囲され、逃げ場を失くして……」
記憶がフラッシュバックしたのか、呼吸が荒くなる。私は止めようとしたが、彼女は首を横に振る。
「母さんは竜に焼かれた。父さんはオークの矢を何本も受けて、それでも僕を逃がそうと秘密の水路まで逃げて……僕を、樽に入れて逃がしてくれた。でも蓋が閉まる直前……父さんは……」
「……レスティア」
「そいつに斬られた。その時見た光景は、今でも目に焼き付いている。そいつの右目が、金色に輝いていたのも」
レスティアは私を……正確には、右目を見た。
「だから、魔眼所有者を……」
「うん。そいつの力が何なのかは分からないけど、多分魔物を操る力だと思う。ただの人間が、二つ首の竜やオークを使役できるはずが無いから。ここに来たのも、オークとトロルを見かけたって情報があったからなんだ」
レスティアは辺りに散らばるオークの素材を見ながら続ける。
「……魔眼って色によって、得られる力の珍しさが変わるんだよ。金色は、一番珍しい。まず誰も知らない、記録にすらないような力を得られる」
全く知らなかった。そもそも魔眼持ち自体が珍しく、私がオルディネールに辿り着いた時も物珍しさに質問攻めに遭った。流れ者が行き着く場所だからすぐに解放されたけど、他の街に行く時は用心しないといけないかもしれない。
「まあ、殆どの人たちは色の違いまでは知らないけどね。これは僕たち、枯れ森とその友好関係のあるエドラムの森のエルフの研究成果だから。同族でもそれ以外の森のエルフは知らないんじゃないかな」
私は自分の右目の瞼に触れる。この眼にそこまでの……。
「エルフって魔眼に詳しいのか?」
「ん、そうだね。魔眼関連の研究に力を入れてるのは、他にはマルアフ族もいるけど、彼らの国は浮遊大陸だからね。行くのは容易じゃない。エドラムの森に行くのがベストかな」
エドラムの森。王国を越え、東の国々の先にある広大な森林地帯。いくつかあるエルフの森の中でも一番大きく、栄えているという。
そこに行けば、何か答えかヒントを得られるしれない。何故、私がこの眼を持つのか。何故、此処にいるのか――その手掛かりを。
だが遠い。徒歩で行ったら何か月かかるだろうか? 何よりも一人で魔物や盗賊の襲来を退けていくのは至難だ。絶対に護衛が必要になる。
「私が連れて行ってあげようか?」
「……え?」
「命を助けてくれたお礼。エルフはね、こー見えても義理堅いんだよ? ドワーフに負けないくらい」
「でも、レスティアには……」
「うん。でもね、父さんが言ってたんだ。『何があっても義を忘れるな、助けられたら恩義を返せ』ってね。暑苦しいでしょ?」
彼女は寂しげに笑う。
「今、ここで自分の目的を優先させたら父さんに怒られちゃうよ。ただでさえ、僕はアルマに……他の魔眼所有者に酷いことをしてしまったのに」
その言葉には確かに悔恨の念が詰まっていた。口先の誤魔化しではないだろう。長寿種族のエルフと張り合うつもりはないが、こちらも伊達に四十年も生きてはいない。多少の人を見る目は身に着けたつもりだ。
「分かった……お願いしても良いかな」
正直に言えば、願ってもない事だ。このままでは仲間を見つけるだけでも時間がかかるだろう。でも多少なりとも面識のある彼女から申し出てくれるなら、心強い。
むしろ私が足を引っ張らないように頑張らないといけないだろう。
「それが終わったら、次はレスティアの番だな」
「え?」
「私もお節介焼きでな。そんな話を聞いたからには、無視はできないんだ。」
「駄目だ。相手はオークや竜を率いてる奴だよ? これは僕の一族の話になる、関係ないアルマを巻き込むなんて……」
「もう関係のない立場じゃない。エルフが義理堅いように、人間だってそういう奴がいるもんさ」
最初の出会いは最悪だったが。
本当はお人好しって言えるくらい、優しいんだなって分かる。あのトロルだってやろうと思えば、私を囮にして倒せたはずだ。でも彼女は私を守ろうとした。
なら恩を返すべきだ。それが人として、当たり前だと私は思う。もしそれが、私の自己満足だったとしても。
「……お人好し」
「えぇ、それはお互い様さ」
「――かもね。似た者同士、仲良く、よろしくお願いするよ」
彼女はクスリ、と微笑む。
「ああ。よろしくな」
私たちはその手を握り合った。
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