第11話 VSトロル


「レスティア!」


「っ、アルマ……? 来ちゃダメ!!」


「え?」


 レスティアの声と同時に、私の目の前に影が落ちる。見上げると、周りに転がる死体よりも二回りほどデカい生物が金属製の鈍器を振りかざしていた。鋭く並んだ牙を剥き出しにし、凄まじい形相で鈍器を振り落としてくる。


「っッ!!」


 咄嗟に真横に撥ね飛ぶが、無理な姿勢で飛んだため背中から落ちるように着地。鈍い痛みが走る。


「い、痛ってぇ……」


「アルマ、早く逃げて!! そいつはトロルだ!! 君じゃ勝ち目なんてない!」


 ぶつけたところを確認する暇もなく、怪物――トロルはドスドスと足音を響かせて迫ってくる。


「クソ!!」


 カバンからミューカスボムを引っ張り出し、投げつける。ガラスが砕け散ると同時に粘性の液体が足元に広がるが、


「……? ガァ!!」


 トロルは一瞬、動きを止めた。不思議そうに自分の足を見るも、また歩き出す。ブチブチと粘液を強引に引き剥がして。


「なんつーパワーだよ……!」


「お前の相手は僕だ、こっちに来い!!」


 弓に矢を二本同時に番えたレスティアが叫ぶ。


「スプリット・アロー!」


 放たれた二本の矢が、飛翔しながらそれぞれ分裂。四本に増えてトロルの背中に突き刺さる。


「ウガァ!?」


 巨人でも痛覚はしっかりあるようで、トロルの足元がぐらつく。しかし同時にその憎しみはレスティアへと向かい、雄叫びを発しながら彼女の方に歩いていく。


「今の内に、早く!」


 私は頷き、一旦物陰に滑り込む。

 ミューカスボムが全く役に立たないのは予想外だった。でも、私が相手にしているのはスライムとゴブリンだけ。初級の冒険者なら誰でも倒せる程度の存在だ。


 スライムソードとミューカスボムで無双プレイをしているうちに、自分の強さを過信していたらしい……。


「レスティアがいなかったら、やられてたな」


 己の不甲斐なさに情けなくなるが、今はそんなことをしている場合ではない。一度、村まで戻って助けを呼ぶか? 

 

 ――いや、駄目だ。間に合わない。良くは見てないけど、多分彼女は負傷している。今もしきりに右足を庇う様にトロルと戦っている。


 だけど、どうやって助ければいい?

 ミューカスボムは通用しなかった。スライムソードなら行けるかもしれないが、あの怪物と近接戦をやるのは危険すぎる。


 何か、何か使えそうな――あった。


 先程まで死体があった場所に散らばる素材。

 これを使えば、打開できるかもしれない。


 縋るような気持ちでトロルに気づかれないよう、掴み取って回収する。


――――――――――――――――――――――――――


【オークの牙】 レア度:普 分類;素材

鋭く頑丈な牙。主に鏃に使われる。


【オークの剛腕】 レア度;珍 分類:素材

オークの中でも一番筋肉がついている部分。

自分の身体を厭わずに暴れる存在なので、綺麗な状態なものは高値で流通している。

主に魔術的な媒体に使われる他、マジックアイテムの素材にもなる。


【オーク肉】 レア度:普 分類:食材

醜悪な見た目のため、忌避されがちだが実は美味。

調理して食すと筋力と敏捷性、持久力が一時的にオーク並みになる。


――――――――――――――――――――――――――


 色々手に入ったが、使えそうなのは……オーク肉か!

 これなら即興で作れるはずだ。


 チカラ草を片手に持ち、アイテム生成。

 出来上がったのは分厚い肉の切り身とそれを包むように添えられた野草。


――――――――――――――――――――――――――


【オーガニックミート】 レア度:珍 分類:食品

チカラ草とオーク肉を組み合わせ、筋力が一時的にオーガ並みになるようになった。

普通に食しても美味しいが、力加減を誤ってモノを破壊したりしないように注意。


――――――――――――――――――――――――――


 迷わず両手で掴み、頬張る。熱い肉汁が弾け、程よいしょっぱさが食欲を誘う。白いご飯と一緒にかき込んだら最高だろうなと思いつつ、今は味わう余裕はない。


 試しに目の前の石ころを掴み、握り締めるとぐしゃり、とまるで泥のように砕けてしまう。


「これなら……!」


 私は物陰から飛び出す。


「グガアアア!!」


「いい加減、死んでくれないかな!?」


 トロルの頭上に飛び乗ったレスティアが、脳天目掛けて矢を打ち込む。しかしそれでも倒れず、激しく暴れて振り落とそうとした。


「ああ、もう!」


 たまらず飛び降りるレスティア。だが着地するときに、顔を顰めて動きが止まってしまう。やはり足を……!


「ガアア!!」


「くぅ……!」


 トロルは好機と言わんばかりに鈍器を振り上げていた。


「おい、こっちだ化け物!!」


 私の声に振り返ったトロルの顔面へ、ミューカスボムを投げつけた。デクスグローブのお陰で見事に目の部分にクリーンヒット。


「ウガァ!?」


「君、まだ逃げてなかったの!? 僕は良いから、早く――!」


 顔に異物が付いた時の不快感は相当だ。動きを封じる効果は期待できなくとも、私に怒りの矛先を向けてくれるなら十分である。


「ぐ、アアアアア!!」


 案の定、顔の粘液を引き剥がしたトロルは憤怒の形相になり、肩を怒らせて突進してくる。


「大丈夫だ、今の私はオーガとやらと同じ……」


 どれほど強いのかは知らないけど、オークよりも上の存在なのは分かる。問題はトロルとはどうなのかだ。

 やるしかない、ぶっつけ本番で!


「ヌガァアアアア!!」


 ドガン! と鈍器が地面を粉砕する。私は前のめりになりながらそれを躱し、トロルの股下を潜り抜けて背後に回った。


 トロルの弱点は分からないけど、レスティアは頭を狙っていた。なら人間同様、頭部に重要な役割を担っているはずだ。

 

 スライムソードをカバンから出し、トロルの背中を駆け上がる。普段の私では無理な芸当も可能にしてくれる。アイテム生成……戦いにおいても可能性は無限大だ。


「これで、どうだ!!」


 逆手に持ったスライムソードを思いっきり、トロルの頭に突き刺す。肉と骨を抉るイヤな手応えと共に刀身が柄の部分までめり込み、同時に甲高い悲鳴が上がる。もみくちゃに腕を振り回し、よろめきながらあちこちの壁に激突した。


「わ、わ!」


 その拍子に投げ出され、地面を転がる。


「クオオオオオ……」


 そして、尻餅をついた私の目の前に激しい地響きと共にトロルは倒れ込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る