第7話 ドーピングアイテム


 夕食後、部屋に戻っていつものコレクション鑑賞を始める。アイテム生成を人に見られないようにするためにも、今後は部屋で作った方が良いかもしれない。


「あ、そう言えばチカラ草のレシピ見てなかったな……」


 あとケミカルドラッグで変異させるのも。まだ残りがあるので、それぞれで実験してみよう。


「これ、素で食べると濃すぎるんだよな」


 そう呟き、今日も焼いた豆を摘まむ。


「……待てよ」


 この豆に振りかけたらどうなるんだろうか? 

 ……と言うか、チカラ草のレシピに食品がいくつか乗っていた。その中に豆焼きも含まれている。


「試してみるか」


 右手に豆、左手に草を持ちアイテム生成。

 出来上がったのは、さっきよりも香ばしい匂いを生む焼き豆になる。


――――――――――――――――――――――――――


【旨塩豆焼き】 レア度:普 分類:食品

チカラ草で味付けしたもの。

10分間、筋力が強化される。


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 口に含んでみると単体で食べた時の過剰な塩辛さは無くなり、豆の味気なさが解消されていた。

 そう、これだよ。この程よい濃さが欲しかったんだ。私はその美味しさを堪能するが、満たされたら新しい欲が湧いてくるのが人間だ。


 酒が……飲みたい。


 見た目ではアウトなのは分かってる。でも中身はオッサンだし、ここは異世界。グローノット族と言う見た目が子供のまま成長しない種族もいて、彼らも普通に飲酒喫煙を嗜んでいる。


 一応現代でも英国だと家庭内に限り、親の同意さえあれば五歳から飲めるらしい。

 なら飲んでも大丈夫だ(暴論)。

 

 だが異世界に日本酒なんてある訳ないし、当面はビールで代用となる。 

 まあ異世界の酒造技術も中々悪くない。温いのが唯一の欠点になる。


「次は……」

 

 このケミカルドラックを振りかけるとどうなるのか、だ。

 ハイエストポーションが作り出せたのだから、多分凄い事になる気がする


 ポトリと一滴、チカラ草にかけると見る間に形が変わり、実の部分が大きくなった。


――――――――――――――――――――――――――


【パワフル草】 レア度:特 分類:食材

食すと僅かに筋力が上がる。効果は永続する。

劇薬なので一日一個を厳守しないとショック症状が起こる。


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一瞬、なんだ名前だけ変わったのかと思ったが『永続』の二文字を見て、変な声が出かけた。


「永続って……いわゆるドーピングアイテム、なのか?」


 RPGではお馴染みのやり込み要素。それがステータスを上げるアイテム集めだ。中々手に入らず、無限に時間が溶けていく事も割と良くある。


「で、これにまたかけると……」


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【マッスル草】 レア度:幻 分類:食材

かつて仙人が愛用したと言われる幻の草。

一つ食べるだけで力が漲り、永続する。もちろん劇薬。


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「………」


 とりあえずアイテム生成は人に知られてはならないと改めて実感した。

 食べてみるが、依然として腕はプニプニのまま。多分目に見えるものではなく、内面的な力が向上しているのだろう。多分。


 ポーション作ってゴブリンの牙とチカラ草を集め、ケミカルドラックを作ってチカラ草からマッスル草に変える。これだけで筋トレしなくても筋力強化か……


 そりゃ所有を禁止するよな。

 こんなの個人で作れたら国家転覆なんて簡単だ。


 私が極悪人だったらどうするんだよ。異世界に呼び出した誰かさん……


 ちなみにマッスル草の先は無かった。

 もっと試したいが、眠気が強くなってきたので寝る事にする。


 あ、その前に水浴びしないと……。


 *


 家での寝つきは良い方だが、こっちの世界に来てからは慣れない環境やら何やらのせいか中々眠りにつけない。


 今夜も横になったまま悶々としていたが、こつん、と小さな音が窓の方から聞こえた。何の音だろうと思い、目を向けると何故か両開きの窓が開いていた。防犯のため、施錠までしてるのに何で……?


「っ」


 咄嗟に枕元のカバンからスライムソードを取り出そうとした瞬間。


「動かない方が良いよ」


 誰かが自分の上に馬乗りになっている。目の前には鏃。いつでも射られる状態だ。


「……君は」


 サァと青白い月明かりが部屋に差し込む。その中にぼんやりと輝く金髪と碧眼。

 先程、見かけたエルフの少女だった。

 

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