第6話 右目とゴーグルの力


 

 地下一階に戻り、安全を確認してから手に入れたゴブリンの牙とチカラ草を取り出しゴーグルで見る。レシピのボードが目の前に出てきた。


 ポーションと牙を組み合わせる事で『ケミカルドラッグ』と言う薬液になるようだ。

 試しに作ってみる。ポーション同様、瓶詰めされているのは同じだが、デザインがまるで違うのは突っ込んだら負けなのだろうか。


――――――――――――――――――――――――――


【ケミカルドラッグ】 レア度:秘 分類:薬

小鬼の牙をベースに作られた薬液。

小鬼の牙は特殊な成分が分泌され薬液の成分を変異させる。

それを生かして作られた変異薬。

特定のアイテムを変異させる。


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 面白そうなものが出来上がる。とりあえずポーションに試用してみると、内部の液の色と何故か瓶の形状まで変わった。多分、突っ込まない方が良いのだろう。


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【ハイポーション】 レア度:特 分類:回復薬

厳選した薬草と水で作られた回復薬。

更に不味くなったが、怪我だけでなく重病も完治させる。


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 良薬は口に苦しか。

 そして更に変化させると……


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【ハイエストポーション】 レア度:伝 分類:回復薬

貴重な薬草を惜しみなく使って作られた秘薬。

滋養強壮効果に加え、あらゆる病を完全に治す。

想像を絶する不味さだが、その衝撃が死者すらも目覚めさせる。

ただし死後、時間が経過していると効果はない。


――――――――――――――――――――――――――


「……え?」


 説明を見て固まる。死者を……蘇らせるって事?

 しかもレア度は伝。相当な希少性を持つ一品になる。


「いや、これ、……絶対、個人で作れちゃダメな奴だろ!?」


 特定の医療機関についてる人とか、薬剤師とかそういう人しか持てない物じゃない、これぇ!?


「あわわ……」


 そう言えば、ケミカルドラッグのレア度も秘だ。どういう事なの……。


 もしかしてこれも作ったらマズイ奴なのでは?

 ……今更だが、私はこの世界の常識をほとんど知らなかった。ボロが出る前に勉強した方が良さそうだ……。


 *


 ダンジョン帰り、私は冒険者ギルドの相談窓口へ立ち寄った。ここでは依頼を出すまでもない内容の相談事や個人的なお悩み相談に乗ってくれる。


「ケミカルドラッグ? アレは王国の王立修道院が定めた法により、扱えるのは宮廷錬金術師だけですね」

「錬金術師?」


 地球では黄金を作り出そうとした人々として伝わっているが、この世界では違うようだ。


「はい。彼らの役目は世の中の役に立つアイテムを作る事です」


 どうやら私と似たような事が出来るらしい。


「こう、素材を手に持ってやるんですよね?」

「え? ……アハハハ、お嬢さんそれは御伽噺だけですね」


 おじさんは豪快に腹を揺すって笑う。どういう事?


「錬金術は専用の器具や道具が必要です。開発されたアイテムなら工程が簡略化されてますが、それでも一日の生産量には限度がありますよ。手に持っただけでアイテムを生むなんて、この国の最高の錬金術師でも不可能です」


 ……あのー、私、出来るんですが。


「例えそれが出来たとしてもケミカルドラッグの個人での作成、所有は違法になりますしね。まあ、作れる人もいませんが。レシピが王家の秘蔵ですから」


 窓口のおじさんはあっけらかんと笑っているが、私は軽く冷や汗を流していた。


(それ、普通に作れちゃったんですが!?)


 あれ? 私、とんでもない事しちゃいましたァ!?

 そんな私の内心など知る由もないおじさんは、そっと耳打ちするように囁く。


「噂じゃゴブリンの牙が素材って言われてますね。ほら、彼らは害をなす生き物な上に弱いでしょう? その気になれば絶滅させられるのに、王国はもう何百年も野放しにしている。不思議ですよね」


 まあ、安っぽい陰謀論ですけどね! とおじさんはカラカラと笑った。


(めっちゃ当たってますよ!)


 このおじさん地味に鋭いな!? 


 *


「あ、ありがとうございました……」


 私はギルドを後にする。

 あの後も色々話を聞いて分かった事まとめ。


 ・アイテムを作れるのは錬金術師or道具生成の魔法が扱えるものだけ。

 ・アイテムを作るのにはレシピが必要。一般的なものは売られているが、強力なアイテムのレシピは国で管理される。

 ・どんなアイテムでも作るには専用の道具や機材が必要になる。高度なアイテムはより複雑な手順が求められる。

 ・手に素材やアイテムを持つだけで生成するのは私だけ。

 ・素材やアイテムなどの説明ボードを読めるのも私だけ。

 ・レシピを見れちゃうのも私(ry。


 ひ、人前でアイテム生成しなくて良かった……。

 

 右目もそうだが、このゴーグルも普通に凄すぎる。一体、何なんだこれ。鑑定したいけどもう一つ同じゴーグルか、それに準じたモノが必要になる。


(これから、どうしよ)


 ケミカルドラッグの可能性は無限大だ。コンプリートには必須になる。しかし所有するだけでアウトなシロモノ……


「で、でもこういうのって悪用されるから禁止されてるんだよな」


 もちろん、私は悪用するつもりなんてない。コレクションに生かすだけだ。だから持っていても問題ない……訳無いか。

 だけど正直に言ったところで、連行&投獄&有罪のコンボだ。第一、右目やゴーグルの事をどうやって説明しろと言うのか。


 最悪、変人扱いになるかもしれない。


(とにかく、コレクション以外に使わないという制約を課そう……)


 例えば、ハイエストポーションを大量に作って売り捌くとか、ケミカルドラッグを闇で流すとかはご法度だ。それでも許される訳じゃないけど、こっちもコレクションしなきゃならない理由があるのだ、大目に見て欲しい。


「……あ、すみません」


 考え事をしてたせいで、前から歩いてきた人とぶつかりそうになる。


 その子は私と同じくらいの背丈のエルフだった。金髪碧眼のポニーテール。フード付きのパーカーっぽいものを着ていて、カジュアルな見た目だ。背中には立派な装飾の弓を背負っている。


「……へぇ、君、魔眼持ちなんだ」

「え、はあ。一応」

「ふーん。ま、歩く時はちゃんと前を見てね」


 手を軽く振ると、エルフの少女は雑踏に消えていった。


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