第3話 ダンジョンへ

 

 ダンジョン。それはゲームやネット小説ではお馴染みの迷宮だ。魔物あるいはモンスターと呼ばれる生き物が棲み付いている。


 だから私はずっとダンジョンは入らないようにしてきた。残念ながら私の異能は魔眼のアイテム生成だけで、戦闘力は皆無。多分一番弱いとされるスライムでも苦戦する。


 魔物は村の外にも生息はしているものの、縄張りに入らない限り襲われる事は基本的にない。積極的に襲う種類もあるが、この村近辺には幸いな事に存在しなかった。

 だがダンジョンの中は狭い上に、魔物たちは積極的に人間を狩りに来る。多分、ダンジョン自体が縄張りになっているのだろう、と誰かが言っていた。


 つまりアイテムコンプには避けられない道だ。何故なら魔物を倒すと独自の素材やアイテム、宝箱が出るからである。


 せめて仲間でもいればなぁ……。

 

 しかしまだ勝手の知らない世界で仲間を求めるのは、中々難儀な事だ。最低限の社交性はあると自負しているが、どうしても躊躇ってしまう。


 まあ確かに今の私は正体不明の流れ者なので仕方ない事だが。日本だったら補導待ったなしである。


「……これで何とかなるだろうか」


 ただの棒きれを拾う。ゴーグルをつけても反応が無い、正真正銘毒にも薬にもならぬただの木の棒だ。アイテム生成に使える素材との違いは良く分からんが、そういうものなのだろう。


 武器屋で装備を整えるのもアリだが、金が無い。

 いや頑張れば捻出できる。代わりに宿に泊まれなくなる。今日までポーションや素材を売って稼いできてるけど、売上なんて微々たるものである。


「ちょっとだけ……行ってみよう」


 入口の傍なら大丈夫だ。スライム一匹なら何とか勝てる……ハズ。




 私はダンジョンの中へ入る。内部は薄暗いが、人の手によってカンテラが等間隔に並んでいた。これもアイテムらしい。


「……スライムだ」


 岩場の影からコッソリ伺うと、一匹のスライムがジュルジュルと這い廻っている。

 決して愛嬌のある顔をした水滴状のアイツとか、転生したらスライムみたいな可愛い奴じゃない。


 昔、トイザら〇で売ってたスライムの玩具に近い。アメーバと言えば良いか。

 まあ……一言で言えば気持ち悪い。


 あんなのに飛びつかれたら赤痢にでもなりそうだ。後ろから木の棒でぶん殴ってKOさせるしかない。

 私は慎重ににじり寄り、棒を振り上げる。


「フン!!」


 そして目いっぱいの力で振り下ろした。

 ぐじゅ、と言う生理的悪寒を煽る音と手応えがして奴は水溜まりみたいに広がって……消えた。


 魔物は死ぬと消えるので、倒した……んだろう。同時に棒きれも役目を果たしたと言わんばかりにポッキリ折れる。

 残ったのはスライムが落とした素材と宝箱だ。


――――――――――――――――――――――――――


【スライムゼリー】 希少性:普 分類:素材

スライムのゼリー。食用には適さない。

他にもスライム系武具の素材になる。


【スライムのコア】 希少性:珍 分類:素材

滅多に手に入らないスライムの核。マジックアイテムの動力に使える。



――――――――――――――――――――――――――


 スライム系武具に、マジックアイテム?

 ゴーグルの機能の一つにあるレシピ検索を調べる。これは手に入れた素材から作れるものを逆引きするものだ。


 チェックした途端、大量の品目がドッと表示されたが、素材不足やその他条件を満たしていないようで全部グレーアウトしている。


「スライム一匹倒すだけでこんなに増えるのか……」


 薬草や水をチマチマ拾ってたのがアホらしくなるくらいだ。

 やはり、魔物との戦いは避けて通れないらしい……。


「あ、宝箱も……」


 素材と一緒に落ちた宝箱。開けてみるとそこには……一本の青く光る綺麗な剣が入っていた。


――――――――――――――――――――――――――


【スライムソード】 レア度:幻 分類:武器

百年に一度生まれるスライムの勇者を倒すと手に入る宝剣。

驚異的な切れ味を有し、スライム系モンスターへの特効を持つ。


――――――――――――――――――――――――――


「ん……?」


 私は示されたボードを見て固まる。

 百年に一度? 宝剣? レア度:幻?

 

 何ですかそれ。

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