第2話 私と私

 ――

 ひたすらカードを集め、コレクトしてきたしがないオッサンである。


 では今の私は何なのか――。

 答えはこれである。


 ジト目、中性的な小顔、やや長めの水色髪。ピンク色の唇にほんのり赤い頬。同年代とは少し下回る身長と体重。小柄な体型。おまけにオッドアイ。


 そして、その体格に不釣り合いなブカブカで法衣のような白い外套を羽織っている。外套の下は普通の半そでと半ズボンだ。私が男だった時に着ていたものである。今も大事にしているのは、一応思い入れがあるからだ。


 右目が金色なのは、魔眼の影響になる。左眼も自然ではあり得ない水色なので、だいぶ可笑しいが……。


 だが、何よりも異質なのは私が女になっている事だ。

 そう……私は少女の姿になっている。


 女なのだ。

 信じられないだろう。初めて自覚した時は錯乱しかけた。


 まるでたまに読む、インターネットの小説のようだ。昔、部下の和田君に勧められて読み始めたのだが、純文学とは一味違ったテイストにハマってしまって、暇な時は読み漁って過ごしていた。

 その中のジャンルの一つにTSと言うものがある。簡単に言うと、性別が変わる――つまり、男が女になるものだ。


 その現象が私に起きている。

 どうしてこんな事になっているのか?

 何故こうなったのか?


 それは私のも分からない。


 唯一の手掛かりは私がこの姿で目覚めた時、傍に合った一冊の分厚い本と一枚の紙に書かれた文字だ。


『真実が知りたければ、この世界のアイテムを全て集めてみろ』


 まるでかつての私を知っているかのような一文。

 しかし、それが私の心に火をともした。誰だか知らないが、随分な自信である。ならば見せてやろう、一度は日本一の蒐集家と自負したのだ。受けて立とう。


「……その前にメシ食わないとな」


 美味しそうな匂いにそそられ、階下に降りる。下の食堂には同じ宿泊客たちが揃っていた。

 そこに並ぶ人たちは、人間だけじゃない。


 耳の長いエルフ族。背丈が低いドワーフ族。獣の耳を生やすフェリーノ族。天使のような翼を持つマルアフ族……等々、いわゆる亜人種たちが普通に暮らしている。

 そう、私に起きたのは性転換だけではない。


 住む世界すらも変わってしまったのである。


「いただき、ます」


 ボソッと呟いてでっかい卵焼きが乗っかったパンを口に運ぶ。


 パンは出来立てでサクサクしていた。トロリと濃厚な目玉焼きとよく合う。でももう少し味が濃い方が好みなのだが、この世界の香辛料は高価らしい。他にも日本との違いは多々ある。今までの価値観は一切通じなかった。


 飲み物も中途半端に温い。これはミルクっぽいが、正体は牛の乳ではなく果物から絞った果汁だという。

 このように地球には存在しないモノもたくさんある。

 それをコンプリートするのが私の目的だ。これで燃えなるな、と言う方が無理な話である。


「……ごちそうさま、でした」


 腹ごしらえの後は、村の外に出る。

 地図で見たのだがこの村は、巨大な大陸の端っこにある小さな村。名前はオルディネール。王国領の端っこの端、辺鄙だけどダンジョンのお陰でそれなりに賑わっている。


 私はいつもの修行場(と呼んでるだけの小さな泉)に向かい、腰を下ろす。

 今日はポーションを作ってみよう。


 頭についていた厳ついゴーグル(これも本と一緒についていた)は、鑑定能力や様々な機能を持つ装備だ。それを下ろすと、 ポン! とゲームみたいなSEが鳴り、目の前に半透明のボードが現れる。


――――――――――――――――――――――


【湧水】 レア度:普 分類:素材

地下水が湧き出たもの。

飲料には適さないが、様々な素材の元になる。


【薬草】 レア度:普 分類:素材

野山に生える多年草。

効能は滋養強壮、体力回復。古くから旅人たちに愛されてきた。

軽い怪我はこれだけで完治する。


――――――――――――――――――――――


 これがゴーグルの効果になる。ゲームっぽく素材やアイテムの説明をしてくれるのだ。

 あとはこの二つの素材を両手に持ち、右目で見つめると――用意した小瓶と薬草がスッと白い光に包まれ、形が崩れ去ってしまう。その破片が混ざり合い、別の形へと変化していった。


――――――――――――――――――――――


【ポーション】 危険度:無 希少性:普 分類:回復薬

水に薬草を煎じ、煮込んで作られた回復薬。

とても苦いが、薬草よりも更に効能が強くなった。


――――――――――――――――――――――


「完成」


 私の右目の力。効果は、素材やアイテムを掛け合わしてモノを作り出す『アイテム生成』。

 ショボくね? と言われそうだが、私にとっては最高の能力だ。これほど私に適した能力はないと思う。


「しかし不味そうな色だなこれ」

 

 ボードの説明の通り、色は青汁みたいだ。ちょびっとだけ飲んでみるが、本気で戻しそうになった。いざという時でも尻込みしかねない不味さである。何だこれは。毒じゃないのか?


「ゲホ……っと、忘れずに登録しておこう」


 私は肩に下げた何でも入る凄い肩掛けカバン(これも一緒に(ry)から一冊の本を取り出す。

 この本の名前は『蒐集文庫』。あの謎の手紙と一緒に合った分厚い辞典だ。広辞苑より厚みがある。


 頁を膝の上で広げ、ポーションを近づけると何も書いてなかった紙面に、先程のポーションの説明文が転写されていく。

 これで登録完了。コンプまであと何種類だろうか? 埋まった頁はまだトータルでも十数頁くらいになる。


 まだまだ先は長い。


「この辺の素材やアイテムは調べ尽くした感あるな。そろそろダンジョンに行くべきか?」


 私は修行場から見える小さな洞穴に目をやった。



 あ、限定カードはゲット出来ましたよ。

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