第2話 天才達って?

「ふぇ、天才達?」


 佐倉は横田と顔を見合わせる。横田は驚愕と怪訝の合わさったような微妙な表情をしていた。


「何それ?」


「えっ」


 その横田の顔は、佐倉の一言で純度100%の驚き顔に変わった。


「おまっ、ニュース見てないの?」


「いやだって、見る機会ここのところなかったし」


「か、勘弁してよさっちゃん!」


 と、横田はTPOをわきまえていない失言に少し赤面し、「失礼」とわざとらしく咳き込む。


「知らないのであれば、説明しよう。自分が何に認定されたのか知らないのは問題だからな」


 迫田は指を鳴らす。するとどこからともなく出てきたプロジェクターが起動し、迫田の三メートル後ろに出現したプロジェクタースクリーンに画像を映し出した。


「天才達とは、今から約10年前に突如として現れた、異能力を持った少女達のことだ。最初に発見されたのはアメリカ。田舎で育ち、正義のスーパーヒーローに強い憧れを持った小さな女の子だった」


 スクリーンの画像が変わる。そこには、ブロンドの長い髪が綺麗で、顔に着いた泥すらもハリウッドみたく映える美少女の姿があった。


「彼女の名はクロエ・スミス。スーパーマンや日本のヒーローアニメを見て真似していたら、異能力が発現したそうだ。その戦闘能力を買われ、現在は17才でありながら海兵隊で主要戦力となっている」


 また、スクリーンの画像が変わる。今度は、他の四人の少女の画像が分割で張られた画面だ。


「クロエ・スミスの天才達任命からここ数年で、次々と各地で能力の発現報告が上がった。そして現在は、イギリス、ドイツ、ロシア、日本、そして佐倉友結の6名となっている」


「は、はぁ」


 なんとなくどういう人たちなのか、少しだけわかったが、やっぱりまだ分からないことが多すぎて飲み込めない。なんでも最近ニュースに取り上げられ始めたそうだが、佐倉は全くニュースを見ないので知らない。


「分かったか? 佐倉」


「た、多分、分かりました。で、なんで私が、その……天才達に選ばれたんですか?」


「そうだな。ではその理由を説明しよう。佐倉友結。あなたはこの防衛大において知り合い、または友人は何人いる?」


「え。どうだろ」


 佐倉は頭の中で友達と思う人物の顔を思い浮かべる。思い浮かべる、思い浮かべる。思い浮かべ、思い浮かべ、思い浮かべ思い浮かべ思い浮かべ思い浮かべ。


「まずい」


「ど、どうしたさっちゃ……佐倉!」


「横田一尉。私、ここに友達どえらい数います」


「そ、そうか。顔が広いのは良いことだな」


「そこなのだよ。学生全員、教員、自衛官と防衛大にいる人間全員に佐倉友結の事を尋ねると、全員が仲の良い知り合い、または友人と答えた」


「た、確かに言われてみれば、私どの大隊、どの教場に行っても仲いい人いる。てか仲いい人ばっかだ」


「では学校の外はどうだ。小中高での友人、横須賀の街。聞き込みをしてみれば、皆『さっちゃん』と嬉しそうに呼んでいたな。横田一尉と同じように」


「し、失礼しました」


「佐倉友結という人間は常識では考えられないほどの広範囲で顔が広いという話を聞いて、念のため調査をしたが、天才達と言えるほどの異能力である可能性が高いと判断し、血液検査をした際、天才達に共通してみられる遺伝子を発見した。だから天才達に認定されたのだ。そしてあなたの異能力は、262の法則を無視した人間関係の構築、簡単に言えば誰とでも友達になれる能力という事だ」


「えぇ…………」


 そう言われても、正直微妙という感想しか浮かんでこない。自覚しやすい能力じゃないし、派手でも無いから異能力と呼ぶのもどうかと思う。天才達とか言うのに、誰とでも友達になれる能力とか、ダサすぎ。


「まあ、気持ちは分かる。だが、やはり普通ではあり得ない事であり、扱いを間違えれば危険まであるものだから、こんな形のないフワフワした能力でも天才達と認定しなければならないのだ」


「危険てなんですか?」


「もしお前が国家転覆を考えた時、沢山友達作って徒党を組まれたり、総理大臣とか天皇陛下とかと友達になって国を自分に譲ってもらうよう策略したりとか、あるだろ色々」


「流石横田一尉、頭いいですね。でも私そんなことしませんよ?」


「今はそうだがいつか実行する可能性だってゼロじゃないんだ。だから天才達にして監視しとこうって事だ」


「なるほど……」


 それならまあ、理解はできたかもしれない。しかし、まだ佐倉は自分がなんだか凄そうなものの一人になったことが信じられなかった。


「それで、私の要員決定の保留と何の関係が?」


「それは、今から任務に就いてもらうためだ。各国は天才達を年齢関係なく入隊させ、国防の一翼を担わせている。だからあなたにも協力して欲しい」


「い、一体何をすれば……」


「それは」


 迫田は、プロジェクターに最後のスライドを映し出した。


「それは、1週間後に行われる天才達の会合『学級会』に出席し、同盟関係を築いてくることだ」


「ど、同盟関係!?」


「早い話、友達になってこいと言うことだな」


「と、友達……」


「そして、同盟関係は日本主導、せめて日米主導によるものとする。以上で話は終わりだが、何か質問は?」


 いきなりバッサリ話切られ、佐倉は困惑する。質問はあるかと聞かれても、そんなすぐに出てはこない。


「思いついたらまた質問します」


「そうか。…………あなたとは初めて対面した時から、まるで長い付き合いの友人のようになんの隔たりもなく接することができる。これが能力によるものなのか、彼女の性格によるものなのか。きっと任務は成功する。頑張ってくれ」


 ただの学生には荷が重すぎる任務を押し付けられた佐倉だが、不安に駆られるどころか、なんのお菓子を持って行こうかと気楽に考えていた。

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