第10話 真実の光
朝焼けが、薄いピンク色の光を東京の街に広げ始めていた。夜通し逃げ回りながら証拠を守り抜いたミコトと東海林は、ついにその時を迎えようとしていた。ラボの一室で、二人は固く握りしめていた資料をテーブルの上に広げ、次の動きに備えていた。
「これで、終わらせるのね…」東海林が少し疲れた表情で呟く。
「まだ終わっていないわ。」ミコトは冷静に答えた。「私たちが証拠を公表しても、相手はすぐに手を引くわけじゃない。彼らの手はもっと深く、長く、私たちを追い詰めるだろう。でも、今はこの瞬間に集中するしかない。」
部屋に漂う静けさの中、二人の心には強い決意が宿っていた。厚労省と日本医療会が築き上げてきた不正の証拠を公にすることで、多くの命を救うことができる。その思いが、二人の行動を支えていた。
その頃、ラボに戻っていた神倉と中堂も、それぞれの場所で緊張感を抱えていた。中堂は、事態の深刻さを誰よりも理解し、冷静な判断力で状況を見極めていた。
「ミコトたちが証拠を無事に外に出したと信じるしかないな。」中堂が静かに呟いた。
神倉はじっと考え込んでいたが、やがてふっと微笑みを浮かべた。「彼女たちはやり遂げる。私たちのチームは強い。」
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一方、ミコトは緊張を抱えながら、最後の準備を整えていた。彼女が手にしたのは、すべての証拠をまとめたUSBドライブ。そこには、竹見敬三と松本与四郎が関与した不正の全貌が収められていた。日本医療会が未承認の薬を臨床試験として患者に投与し、多くの命を犠牲にしてきた真実が、ここに隠されていた。
「行こう。」ミコトは深く息を吸い込み、東海林に向かって短く告げた。
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外に出ると、彼女たちは緊張を押し隠しながらも、ついにニュース局へと向かう。彼女たちが選んだのは、日本で最も影響力のある報道局だった。そこに証拠を届ければ、一気に世間に広まり、竹見たちの手には負えない状況を作り出すことができる。
彼女たちの行動はすべて計画的で、慎重だった。しかし、その途中、後ろから黒塗りの車が再び近づいてくるのが見えた。車がスピードを上げて接近してくる。
「来たか…」ミコトは冷静に車を見つめ、東海林に目で合図を送った。
「でも、もう遅いわ。今なら間に合う!」東海林が叫び、二人は全力で駆け出した。
車が追いつこうとした瞬間、二人はニュース局の大きな扉を押し開け、中へと滑り込んだ。局内の警備員たちが即座に反応し、後を追ってきた車は立ち往生するしかなかった。
「終わったわね。」東海林は息を切らしながら、ようやく笑みを浮かべた。
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数時間後、テレビの画面に映し出されたニュース速報が全国に流れた。画面には、竹見敬三と松本与四郎の顔が大きく映し出され、彼らが関与した不正の全貌が明らかにされていた。日本中がその衝撃に揺れ、医療界全体に大きな影響を与える事件となった。
神倉はその画面を見つめ、静かに頷いた。「よくやった、ミコト。これでようやく、多くの命が救われる。」
中堂は煙草をふかしながら、同じ画面を見ていた。「ようやく、正義が一歩前進したってことか。」
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ミコトと東海林は、ニュース局の控え室で静かに安堵の息をついていた。だが、彼女たちの表情には達成感だけでなく、まだこれから続くであろう戦いへの覚悟が刻まれていた。
「これで全てが終わったわけじゃない。」ミコトは静かに言った。「でも、今はこれでいい。私たちはやるべきことをやった。」
東海林も頷き、「そうね。でも、次に来る波にも備えないと。」
窓の外には、再び朝日が昇り始めていた。その光は、まるで彼女たちの未来を照らすかのように、強く輝いていた。
【完結】権力の闇に立ち向かうUDIラボの法医学者たち。真実を暴く勇気は、どこまで世界を変えられるのか。 湊 マチ @minatomachi
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