第9話 追跡と決断
冷たい夜風が、地下の非常口から抜け出したミコトと東海林の顔に突き刺さるように吹きつけた。息を切らせながらも、二人は目の前の狭い路地を進んでいった。ラボの外は、思った以上に静まり返っていたが、それがかえって不安を募らせた。
「ここまで来たら大丈夫かしら…?」東海林が少し息を整えながら不安げに問いかける。
ミコトは短く首を振る。「いや、まだ油断はできないわ。私たちを追ってくるかもしれない。」
その時、背後から車のエンジン音が近づいてくるのを聞いた。二人は瞬時に顔を見合わせ、すぐさま狭い路地の暗がりに身を潜めた。
「彼らだ…」ミコトは低く呟き、慎重に車の様子を伺った。黒塗りの車がゆっくりと路地を進み、周囲を確認するように停車した。
「まずい、ここまで追いかけてきた。」東海林は緊張の色を隠せず、ミコトにしがみつくようにそっと身を寄せた。
「静かに…」ミコトは囁き声で応え、車が通り過ぎるのを待った。数秒が何分にも感じられるほどの緊迫感が二人を包み込んでいたが、やがて車はゆっくりとその場を離れていった。
「行ったか?」東海林が小さく問いかける。
「まだわからない。でも、動かないと。」ミコトは小さく息をつき、そっと路地から顔を出して周囲を確認した。車が完全に視界から消えると、二人は再び足早に移動を再開した。
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その頃、UDIラボ内では、神倉所長と中堂が二人きりでラボの状況を整理していた。男たちが去った後のラボは静まり返っていたが、残された書類や機材が乱雑に荒らされている光景が、彼らの存在の余韻を残していた。
「本当に引き上げるとはな。意外だったが、長くは持たない。」中堂は乱れたデスクを見つめながらつぶやいた。
神倉は黙って腕を組み、深く考え込んでいた。「彼らは私たちを試していたんだろう。今回は引き上げたが、次に来る時はもっと強硬な手段を使ってくるはずだ。」
「となると、ミコトたちがどれだけ早く証拠を安全な場所に移せるかが鍵だ。」中堂が煙草に火をつけ、深く息を吸い込んだ。
その時、神倉の携帯電話が震えた。彼は画面を見て、一瞬だけ目を細めた後、通話ボタンを押した。
「神倉所長、こちらミコトです。私たち、なんとかラボから抜け出しましたが、まだ追われているかもしれません。証拠は持っていますが、安全な場所に届けるのは時間がかかりそうです。」
「よくやった。」神倉は静かに応えた。「だが、気をつけろ。奴らはしつこい。安全な場所に着くまで油断するな。」
「はい、所長も気をつけてください。ラボが狙われているのは明らかです。」
通話が終わると、神倉は携帯をポケットに戻し、再び中堂に向き直った。「彼女たちは証拠を持ち出すことに成功したようだが、まだ安心できない。敵は我々の動きを完全に把握しているようだ。」
中堂は頷き、「今、奴らが一番恐れているのは、証拠が公になることだろう。つまり、今が一番危険な時ってことだ。」
神倉は一瞬目を閉じ、深く考え込んだ。そして、目を開けた時には、確固たる決意がその瞳に宿っていた。
「我々も次の手を打つ。これ以上、手遅れになる前に、行動を起こさなければならない。」
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一方、ミコトと東海林は、ようやく安全そうな場所にたどり着いた。古びたビルの一角にある一室を借り、二人は息を整えながら、持ち出した証拠資料を再度確認していた。
「これで全部ね。」東海林は安堵の表情を浮かべ、持ってきたファイルを丁寧に広げた。「なんとか無事にここまで持ち出せたけど、ここからが本当の勝負だわ。」
ミコトは静かに資料を見つめ、「私たちのやるべきことは明確よ。この証拠を世間に公表する。それができれば、彼らの企みは崩れるはず。」
東海林も小さく頷き、決意を新たにした。「何があっても、止まっちゃいけないわね。これ以上、犠牲者を出さないためにも。」
ミコトはゆっくりと立ち上がり、窓の外を見つめた。そこにはまだ、追っ手がいるかもしれない。それでも、彼女たちには止まるわけにはいかなかった。
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