第7話 狙われた告発

真夜中のUDIラボは普段とは違う不安な空気に包まれていた。暗闇が外の世界を覆い、ラボの窓には不気味な月明かりが淡く差し込んでいた。ミコトは、目の前に広げられた証拠資料をじっと見つめていた。竹見敬三と松本与四郎が仕掛けた不正の裏側を明らかにするデータは、彼女の手中にあったが、彼らが自分たちを狙っているという恐怖が、心の奥底に忍び寄っていた。


「これを公表しなければ、次の犠牲者が出るかもしれない。」ミコトは独り言のように呟き、決意を新たにした。


その時、廊下の奥から足音が聞こえてきた。中堂系が急ぎ足でラボに戻ってきたのだ。彼の顔には何か異常事態を察知したかのような険しさが浮かんでいた。


「何か見つかった?」ミコトは振り返りながら、中堂に尋ねた。


「外に人影があった。」中堂は眉間にしわを寄せたまま答えた。「間違いない、俺たちを監視してる奴がいる。今夜中に仕掛けてくるつもりだ。」


ミコトはその言葉を聞き、少しだけ息を飲んだ。「私たちの動きに気づかれているのね。でも、ここで止まるわけにはいかないわ。」


「当然だ。」中堂はポケットから煙草を取り出し、火をつけながら言った。「連中が何を企んでいようが、俺たちは自分の仕事をするだけだ。」


その時、ラボの外から遠くで車のエンジン音が鳴り響いた。二人は同時に立ち上がり、警戒を強めた。何かが迫っている、それは明らかだった。


「坂本は?」ミコトが少し焦った様子で尋ねた。


「坂本は今、資料をまとめてる。奴に急げと伝えておく。」中堂は短く言って、その場を離れた。


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数分後、ラボの外で車が止まる音が聞こえた。誰かが近づいている。ミコトは一瞬、頭を回転させた。「ここに来る理由があるとしたら…」


その時、ドアが乱暴に叩かれた。外から誰かが「開けろ!警察だ!」と叫ぶ声が響いた。ミコトは驚きの表情を浮かべ、すぐに中堂を呼んだ。彼もすぐに戻り、ドアの前に立った。


「警察?このタイミングで?」中堂は疑念を抱き、ドアに近づいた。「お前ら、本当に警察か?」


「捜査令状がある。厚労省との関連がある案件だ。今すぐ協力しろ!」外の声は威圧的で、ただならぬ気配が漂っていた。


ミコトはすぐに察知した。「厚労省が関与している…つまり、私たちを潰すための動きね。」


中堂は煙草を強く吸い込み、「警察の振りをしているだけだろう。連中に証拠を渡すつもりはない。」


「証拠を隠さないと。」ミコトは素早く資料をまとめ始めた。「このままでは全部持っていかれるわ。」


東海林が駆け込んできて、事態を把握するとすぐに助けを申し出た。「ここに置いておくのは危険よ。資料を外に移そう。」


「でも、時間がない。」ミコトは一瞬戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻した。「大事な証拠だけでも何とかしないと。」


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ドアの叩きがさらに激しくなり、外の男たちはますます荒々しくなっていった。中堂は冷静にドアの前に立ち続けたが、時間は刻々と迫っていた。


「どうする?時間稼ぎしても、そう長くは持たないぞ。」中堂が振り返ってミコトに尋ねた。


「何とかするわ。」ミコトは決然と答えた。「この資料は私たちの命と同じくらい重要。何があっても渡さない。」


中堂は短く頷き、「わかった。俺が奴らを引きつける。その間に、できる限りのことをしておけ。」


ミコトと東海林は、緊張感を共有しながらも、素早く作業を進めた。資料をまとめ、証拠となるファイルを安全な場所に隠す準備を整える。二人の顔には、失敗が許されないという緊張と決意が浮かんでいた。

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