第4話
死んで次の転生をする前は、あの世で神様に会うことができる時間が少しだけあった。
雲上に広がる森の中。光を受けて真っ白に輝く、ひときわ大きな花。その上に、神様は悠然と座している。茶色い毛に覆われた身体に、細くしなやかな前脚と、逞しい後ろ脚。葉っぱのような形をした大きな耳と、三日月のように湾曲した角。そして背中には翼を生やし、オパールのような色彩の目をしている。これが、全ての獣の神様だ。
いつもなら、転生した回数の確認と、次に生まれるあらかたの場所を教えられるくらいだ。言葉を交わすなど畏れ多い。しかし彼は、思い切って神様に上申した。
「神様。お願いがあります。今度は、人間に生まれ変わらせて下さい」
「何故、そう願う」
「どうしても会いたい人がいるんです。ボクは、その人に助けられました。命だけじゃなくて、あの時ボクにくれたものがあったおかげで、人間に対する考え方が変わりました。その人との出合いがなかったら、今のボクはいなかった。だからその人に、直接お礼がしたいんです」
「そなたは、人間を信じておるのか」
「ボクたち動物にとって人間は危険な生き物で、簡単に信じちゃいけないのはわかってます。でも、その人のことはずっと忘れられなくて、いつの間にかボクの中で大切な人になってました。もう今さら嫌いになんてなれません。ボクは心の中にある気持ちを、あの人に全部伝えたいんです!」
本当は震えそうだった。こんな我儘を言ったら、もう転生させてもらえないのではと不安だった。
偶然にも会えればと思っていたが、それらしき人とすれ違うこともなかった。でも、奇跡的に再会できたとしても、言葉を話せない四肢の身体では何もできない。だからどうしても、願いを叶えたかった。達広との再会を、夢にまで見るほどに。
神様は、彼に聞いた。
「そなたの種は、何故いくつもの命を持っていると考える?」
「何故……」
考えたこともなかった質問に、彼は戸惑い口を閉じてしまう。けれど、人間に転生したい目的がはっきりしていた彼の頭には、すぐに答えが浮かんだ。
「それは、人間と相思相愛になるためです」
そう答えると、神様は目を瞑って沈黙した。そして数秒後、目を開いたと同時に、
「良いだろう。人間への転生を許す」
と、彼の望みを聞き入れた。人間への転生を許された瞬間、彼は嬉しさでしっぽをピンと立てた。
「ありがとうございます!」
「ただし、条件がある」
「条件?」
「これまで命を五つ使い、あと四つだな。次の分を引いた残り三つの命を代償にするのだ。そうするなら、人間にしても良い」
「そのくらい安いものです」
ただで人間に転生させてはもらえないとわかっていた彼は、代償を払うことを迷わず了承した。しかし、あと一つだけお願いしたいことがあった。
「ですが、できたら二つにしてもらえませんか。八十年、九十年と生きようとは思っていません。だから、一つ余分に持っていてはいけないでしょうか」
「その場合、私が寿命を決めることになるが、それでも良いか」
「目的を達成できるなら構いません」
「わかった」
そうして交渉は成立し、神様の許しを得て、六度目は人間の女性に転生した。
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