第18話

「はははは…っ。咲人は本当に克穂が大好きなんだなぁ」



驚くほどの優しい笑い声が食卓を囲んでいる。



「そうだよ!なのにお兄ちゃんはお姉ちゃんばかり。ひどいと思わない?兄弟は二人しかいないのに」



そう言って、もぐもぐと頬を膨らませながら咲人くんが言う。



大食堂。



某映画の食事風景を思わせる長いテーブル。



天井には光輝くシャンデリア。



隣に座る王子は、思いきり手を伸ばしてやっと届く距離。



目の前に並べられているフルコースなメニューに、あたしは釘付け。



誰かの粋な計らいで、あたしにはお箸が一膳用意されていた。




そんな楽しい会話の傍ら、あたしはお肉をいただく。

王子の家のコックさんは、最高な味付けをしてくれるんだ。



驚くくらいあたし好み。



あたしはニヤニヤしながら、お肉を運ぶ。




「千亜稀さん!」


「――!」



すると、おじ様の隣に座っていたおば様が声をかけてきた。



年を取らないその姿は、魔法みたいだ。



「は、はい…っ」



あたしは口元を拭きながらおば様に返事をする。



「明日のお式のドレス、もう決めてありますか?」



おば様は優しい笑顔で言った。



「え…っ。あ…!」



そうか。



ドレス…。



結婚式なんて初めてだから、すっかり忘れていた。




ドレス…、ドレス……?




「あぁぁぁぁぁ!!!」




あたしは持っていたお箸を掴んだまま、席を立ちあがる。



しまった!忘れていた!!



1年生の時、王子にもらった紅いドレス!



持ってこようって、…持ってこようって思ってたのに~~~~~!!!




あたしは立ち上がったまま、顔面蒼白で佇む。






「…いったい何があったんだぃ?」



そんなあたしに慣れないおじ様が、王子に聞いた。



「…ドレスを忘れたってとこかな?一度着たドレスを着せるわけないのに」



全てお見通しの王子は、料理を口に運びながら素っ気なくそう答えた。

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