第4話

「克穂様、千亜稀様。何かご必要なものはございませんか?」



「―――…」



もう2年。


丸2年。


王子と共に生活している。



でも!



一向に、こういう展開に慣れることのないあたし。



約12時間のフライトは、イギリスを経験しているので確かに早く感じた。




でも…だからって…。



自家用ジェット機なんて、誰が想像したというのでしょうか!!




「いや。今は結構」



王子はサラリとそう答える。


あたしは口元をピクピクと動かして、慣れないこの状況に必死で順応しようとしていた。



「ドイツって5月が一番綺麗な季節って知ってた?」



豪華な自家用機の中、死んだ魚のような顔をしているあたしに、王子はサラリとそんなことを言う。



「…へ?」



あたしは、色味のない瞳のまま王子へと顔を向ける。




「冬の寒い季節を抜けて、雪が溶けて…緑が青々とする凄く綺麗な時期なんだよ」




王子は広げている本に視線を落としながら、優しく囁いた。



―ドキン。



こちらに見せる瞼が、言葉も意識も奪うほど、綺麗。



高3になった王子は、ますますカッコよくなっていて、どんどんおじ様に似てきていた。

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