『鍵をかけない家』

「A君ち、いつも鍵かかってないんだよ」

小学校の時、クラスの誰かがそう言ったのを覚えています。

通学路から外れていて人目につきづらいんですが、帰りに通ってみると確かに鍵が、というか引き戸が少し開いてて。


A君は一人っ子で両親も共働きだったので、誰もいない筈なのに、です。

「危ないなぁ」「泥棒に入られちゃうよ」

そんなことを言いながら、なんとなく気になって皆で玄関の方へ様子を見に行きました。


玄関まで来た時、メモ帳に気付いたんです。

入った時には見えないドア裏に。

「 をかけるな」って書き殴った文字が。


隣の友達が

「かけないって掛けないじゃなくて書けないだったんだ」って呆然と呟いて。


「お、俺も書けないよ、馬鹿だからよ!」

咄嗟に口走り、友達と一緒に慌てて退散です。ドア裏だけが怖かったんじゃない。

見たんです、家の中の壁、あちこちに書き殴られた、

「鍵」の出来損ないみたいな無数の文字を。



どす恋!ケツ毛大明神/羽矢歌/暗裏/酢豆腐

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る