『足ふきマット』

「不思議なことがあったんだけど、聴いてくれる?」

職場の喫煙所で出会った部長が、煙草に火をつけた後、煙を吐きながらつぶやいた。

「家に帰ったらさ、玄関マットが湿ってるんだ」

私の返事も待たずに部長は続ける。


「靴下で踏んで分かるんだ、べちゃっ、とはいかないけど、しっとりしてて」

部長としては、とにかく話だけ聞いて欲しいらしい。

「俺一人暮らしだし、マットなんて洗った覚えないし」

部長は興奮したように早口になる。


「でさ、当然驚いて足元見るじゃん?何故か足元がさ、すっげぇ暗いのよ。何で?電気付いてんのに?でもさ、違うんだよ、違うの。マットじゃなかった。マットがあんなに真っ黒な訳ない!マットじゃなかったんだ!」


「長い髪の毛だったんだよ!!ほらあ!!!」


ってポケットから何かを引きずり出すので、それを見たらダメだと直感で思ってその場から逃げ出しました。

それから、もう連絡付かなくなって、それきりです。



芝生/花豆/Hayato/いい

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