『ずれる女』

「付き合ってた女が変わっててさ。」

そう目の前の男は言った。

「ズレてたんだよな、アイツ。

あぁ、感性とかそういうことじゃなくてさ。」


それに気付いたのは、付き合ってしばらくしてからの事らしい。


「夜中にふっと目が覚めて、ふっと隣で寝てるそいつの顔を覗き込んだら。

ズレてるんだよ。え?ちげえよ、鬘とかじゃないって。ズレてるのは顔だよ顔。

そいつの右半分が、こう、下にズルっとズレてきてたんだ」


「画像編集で適当に切り取ってズラすみたいなさ、わかる?顔がそんな感じでズレて、そのままそいつの足元の方までズーッとズレて。つい見ちゃうじゃんそんなの。止まらないでその足の先に、そいつの顔が有るんだ」


「それでそいつ自分が見られてる事をわかってるらしくて、嬉しそうにこうさ」

徐に両の人差し指を口の端に置いてゆっくりと持ち上げて歪な笑顔を作って見せた。


「こんな笑顔がさ、今でもこっちを見てんだよ」



暗裏/八重垣/芝生/いい

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