第86話

トロンと流れた虚ろな瞳で王子を見つめると、王子がフッと嫌味な笑みをこぼす。




その笑みを見た瞬間、あたしはハッと覚醒した。




「や!今のは無しで!!」




「ないことには出来ないだろ、千亜稀の甘い顔」




王子はフッと口角を上げて微笑んだ。




(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!)




王子の余韻に浸っていた自分を見られてしまった。




余裕の王子がこれまた腹立たしい。




ブッと頬を膨らませ、あたしは視線を逸らしてふて腐れると、王子はさらっと話を戻した。




「その似合ってない恰好、早く着替えて来い」




しっしっ、っと手のひらを泳がせて言われるので、あたしはグッと唇を噛み締めて反撃を開始する。





「とか言って、本当は他の男の子に見られたくないんでしょ?」




腕を組んで見下すように位置する王子に、あたしはふんっとますます顔をそむけた。




「…。」




カチン。




そんな音は聞こえてはいないけど、多分王子の中でそう鳴った。





恐る恐る王子の方を横目で見ると、目の据わる表情。





(そ、そんな顔したって恐くないんだから!)




あたしは必死で、整然とした態度を押し通す。





王子の手のひらがあたしに伸びて、片手一つで頭をわし掴みにされた。





(!!!)

↑あえて心の中で驚いてみる。

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