第85話

迫力のある瞳と、長すぎるまつげ。




キスをする度に頬に当たる、王子のクルンと上がったまつげが、今近距離に近づいている。




あたしは恥ずかしくなって、ギュッと瞳をつぶった。




「っ」




するとそっと腕が回されて、あたしは王子に抱きしめられている。




王子の胸に額が当たる。




腰の位置から手が回されている。




壁に寄りかかっていた背中も、今では離されて、王子に体重をかける形になっていた。




「…悪いか」




─悪いか?─




ぶっきらぼうに王子は呟く。




あたしはその吐息を耳元で受け止める。




悪い?




何が?




あたしが訊ねようと顔を持ち上げると、腰に回っていた手のひらがそれを阻止した。




(…へ?)




丸め込められて、あたしは再び王子の胸の中。




穏やかに時を刻む、鼓動が聞こえてくる。




そっと優しく抱きしめてくれるので、あたしはどうしていいか分からず、ドキドキと鼓動を打ちつけた。




そして王子の手のひらがあたしのゆっくりと顎を持ち上げていく。




さっきは見るな!と言わんばかりに押さえ込まれたのに、今度はこちらを向けと促される。




おずおずとその力に従うと、王子が頬を掴んで唇を押し付けた。




クチュッと艶美な音が廊下に落ちる。




さっきとは違う、少し荒々しいキスに、割り込んできた冷たい舌。




あたしは立っていられなくなって、腰が引けてしまう。




足の力がなくなってしまう。




それを支えるように腰に回す王子の大きな手のひらに、あたしは捕まってしまった。




「…っ」




少し荒くなった呼吸に、あたしは王子のシャツを掴む。




「…着替えて来いよ」




王子がぶっきらぼうに呟いた。

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